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幕間 取調官の憂鬱

 時は少し遡り、場所はアズーマル砦右翼側の外線室。


 鋼獣との最前線であるこの砦には戦機関連の情報が集まっており、当然、情報保護のため砦外部への連絡手段に関して厳しい制限がかけられている。

 と説明したが、鋼獣との戦いが膠着状態になり、内陸国同士の睨み合いが激化して以降、周辺諸国は最低限度の情報収集しかしてこず、さらに、特戦機の試運転の発表後から砦へのスパイ工作が大幅に減っていたので、砦内部では情報管理に関して緩みきっており、そして、手続きが面倒でもあったので諸々を無視する輩が貴賤問わずそれなりにいた。


 そんな事情をふまえた上で、外部への連絡手段の一つである現在の外線室について話をする。

 外線室とは、窓も何もない殺風景な灰色の小部屋に透明な電話ボックスが奥の壁に沿うように3つほど等間隔で並んで置いてある、維持管理が楽でコストのかからない、外線とセキュリティは必要だけどそれ以外の要素は必要ないと設計者が訴えかけてくるような錯覚を覚えるほど簡素な場所であり、そして、利用するためには入り口付近にある機械に砦に所属する全ての人間が所持する所属コードを直前に読み込ませて専用カードを入手する必要があり、利用時間は5分までということで利用者は今までほとんどいなかった。


 はてさて時刻は夕方に迫ろうとし、とある出来事が発生したことにより元々不人気であったはずの外線室内であり得ないほどの利用者による列ができ始めている中、砦所属を示す腕章が付けられた軍服とは少し違ったデザインの青い制服を着た一人の女性が受話器を両手で支えながらひたすら頭を下げながら通話相手に謝罪をしていた。


「うん。そうなの。ごめんなさいね、あなた。

 うん。詳しいことは言えないけど、まだ帰れないみたいで。本当にごめんなさい」

 軍属ではないがアズーマル砦治安維持を仕事にしているローズは電話ボックスが透明で周囲から通話の様子がバッチリ見られていようが通話内容が記録されていようがお構いなしにペコペコと通話相手である夫に謝っていた。


「あの子達、特に......あっ。

 もしもし」

 だが、通話相手が変わったのか、先ほどまでの彼女の様子が一変し、緊張感を漂わせ始めた。


「......うん、そうなの。本当にごめんなさいね。折角の貴方のお誕生日会なのに帰れなくて本当にごめんね」

 その相手は彼女の2人いる娘のうちの末娘で、1週間前に誕生日を迎えていたのであった。


 誕生日会はその日の2週間ほど前から計画されていたのだが、計画後に鋼獣の襲撃予報が発表され水を差された。幸い、誕生日当日に予報範囲がかぶっていなかったのだが、襲撃予報日の方が早かったため、家庭内が若干気まずくなってしまっていた。


 彼女は軍属ではないので、戦闘時には安全な場所へ避難することになっている。そして、砦に深刻な被害が出ない限り非軍属の者達の身は保障され、今までの経験上、非軍属の誰かが死亡した事態に陥ったことはないため家族皆彼女の命の心配はしていなかった。

 皆の心配事は、彼女が誕生日当日までに家に帰れなくなる可能性が出てくることであった。


 彼女の所属する部署の仕事は砦内の治安維持なのだが、対鋼獣最前線であるアズーマル砦に治安を乱すような輩は砦関係者にはほとんどいない。

 では、どのような仕事をするのか、それは兵士への面会やら見舞いやらマスコミの取材やら他国や国連の職員を名乗る者達やらが現れた際にこれらの対応をすることである。


 彼女の所属する組織は軍属ではないがある程度の情報を軍と共有しているため、相手が国内の人間であれば彼女達のみで対応し、国外の人間であれば外交担当と共に対応する。

 さらに、トラブル回避のため相手が平民であれば平民が、貴族であれば貴族が対応する必要がある。

 そのせいか彼女達の組織内では身分の壁は最低限しか存在しておらず、そのおかげで情報共有が円滑に進むため、彼女の上司は仕事が楽だと他の部署に嬉々として漏らしているとかいないとか。

 

 とまあ、簡潔に話をしたが、鋼獣襲撃後になると兵士の安否を直接確認すべく家族や身内を名乗る人物たちが事前の約束なく砦にやってくる。


 普通は事前に連絡を入れるのだが、襲撃直後に押し寄せてくる者たちの大半は連絡なしで来るので、まずは本当に兵士の関係者かどうかを調べる必要があり、その間に動き回られないよう待機室に押し込める必要がある。

 当たり前だが、きちんと連絡を入れた者たちもその日に来るため、その対応を優先的にしなければならず、人員が少ない彼女達の仕事はこの時だけ激増する。


 砦内部には一般人の立ち入りを禁止している場所があるので、彼女達は面会者がきちんと面会し、砦を出るまで監視する必要がある。

 特に面会者の皮を被ったマスコミや動画配信者などが道に迷ったとか言いながら禁止エリアに侵入しつつカメラを回すので油断できない。


 スパイ目的ではなくとも好奇心や娯楽感覚で禁止エリアに立ち入って写真やら動画やらといった撮影をしようとする輩が貴賤問わず少なからずいて厳しく対応しようとするとその姿を撮影しようとして来るので、そのときには丁重にご説明をしてお返しする必要がある。一応言っておくと、その中に稀にスパイ目的の者がいたりするし、国内の貴族で情報をいち早く掴み他貴族へ恩を売ろうと画策する人物がごねたりするので対応に物凄く時間が掛かることがある。


 そういった事情があるため、多少の遅れはありながらも、3日ほどたてば落ち着くので諸々の処理等を含めて仕事が一週間もかからないだろうし多少の融通はきくだろうとその場では夫と共に思いつつ、念のためにと余裕を持った計画の修正をし、最終的には誕生日会は家族みんなで開けるだろうと楽観的に考えていた。

 だが、まさかの正体不明の少女達による特戦機起動砦乱入事件により軍民問わず砦に関わる者は全て帰宅はおろか、砦外への外出すら許されない状況下になってしまい全ての計画が水の泡となってしまった。


「プレゼントもちゃんと用意して、届けるように頼んだんだけど......」

 砦に軟禁されてから軽く1週間が経過しようとしていたことに気づいたころの彼女は慌てて事前に買っておいたプレゼントを自宅に届けるよう仕事の合間に個人端末で手配しようとした。だが、上司に見つかり止められてしまい、せめてもの思いで上司に頼み込んで許可を貰って仕事用の端末で改めてプレゼントを買って家に送ろうとした。


「え? まだ届いてない......

 そんなぁ......

 本当にごめんなさい......

 必ず届くから、絶対に大丈夫だから」

 だが、砦に届けられた際には厳しい検疫が行われ、頼んだ本人と上司と共に中身の確認後、目的地の自宅へ送られる運びになってしまい、さらに運悪く、完璧主義者が指揮でもしているのかと思えるほどに厳しくなった検査やら検閲やらで砦全体の物資の搬出入にかかる全ての作業が滞り、そのせいで確認作業が遅れに遅れて1週間経ち、つい最近搬出されたと聞かされたのだが、未だに届いていないことを知った彼女はその場で脱力しかけた。

 そんな彼女へピピピッとボックス内で警報が鳴り始める。


「あっ、もう時間! また明日この時間に電話するから!

 ちゃんとお父さんの言うこと聞いて家に帰ったら手洗いうがいをしてご飯は好き嫌いしないでちゃんと残さず食べて宿題もきちんとやって分からないことがあったらそのままにしないで、ああもう時間が、寝る前に歯を磨いて早寝早起きをっ――。

 ああ......」

 切羽詰まった彼女がすべてを言い切る前に通話が切れ、赤いカードが通話機から出てきた。

 嘆く暇なく彼女はそのカードを抜き取ってボックスの外へ出るのだが、後続にできている列を見て、若干顔を赤くしながら無言で出入り口にある機械にカードを返却して本日分の利用完了手続きを終え、近くの場所で室内を監視している二人の同僚へ会釈しながら室外へ出た。


 その後、何人かとすれ違い、その度に敬礼をしながら廊下を歩き、人通りが少なくなってくると、彼女の口からついため息がこぼれ始める。


「はぁ......

 ひと月帰れないかもしれないなぁ......」

 今回の特戦機事件、自分の役割はあくまで情報収集と報告なので長くても1週間程度で終わると思っていたのだが、まさかの事態が発生して帰れる兆しすら見えてこないでいた。

 自分の仕事場が1歩ずつ近づいていくにつれ気分をどんどん落ち込ませていきながらトボトボ歩いていると軍服を着た数人の大柄な男性が近づいてきたことに気づき、急いで敬礼をすると、先頭を歩く男性に声を掛けられる。


「ん? なんだ、お前。今日は一段とショボクレてんじゃねぇか」

「あ、中隊長さん。それに隊の皆さん、お疲れ様です」

 声をかけてきた男性、アダンと彼女は面識があった。

 というより、彼女の長女と彼の長男が同じ学校の同じクラスで、さらに、友達としての長い付き合いがあり、学校行事を通じて何度か家族ぐるみの付き合いがあった。

 お互い職務上、砦内で出会う機会はほとんどないのだが、今回の一件で何度か廊下ですれ違い、こうしてちょっとした話をする機会がちょくちょくあった。


「過ぎてしまいましたが、末娘の誕生日のお祝いをするはずだったんですけどね......」

「あっ、そういうことか......

 そいつはその、気の毒だったな」

 性別は違うが同じ年頃の子供を持ち、仕事の都合上あまりかまってあげられない親同士、謎の共感があったのか、お互いに沈んだ表情をしていた。


「しょげてても仕方ないですからね、今回ばかりは。

 ところで、中隊長さんは家族に電話ですか?」

「ああ、そうだ。交代の時間なんでな」

 アダンは連れていた部下に先に行けと目で合図をし、周囲に誰もいないことを確認してから大きく息を吐いてから自身の後頭部を右手で軽く撫でながら愚痴をこぼす。


「家族にゃ隠し事をしたくねぇんだが、色々と巻き込まれちまったし、その上特級レベルの機密だから事情を話せねぇのが辛いところだなぁ」

 今回の出来事に関して情報を受けた政府は関わったもの全てに対して即座に箝口令を敷き、過去最大級の情報統制を行っていた。

 その中でもアダン達は外部の連絡手段に関して他者よりも制限されていた。


 その理由にアダン達が特戦機のパイロットを知ってしまっているからだ。


 政府が特戦機に関する情報を得てから情報統制をするまでの間に僅かだか特戦機に関する情報が漏れていたのだが、その中にパイロットに関するものは一切無かった。

 なぜなら、戦闘時、特戦機に関わっていたのが右翼砦の第3中隊のみで、特戦機回収時にアダンの独断で中隊内で箝口令を敷き右翼大隊長である第1中隊長にも意見具申をし、第1中隊長が右翼砦司令部に脅したことにより特戦機のパイロットに関する情報が右翼砦の一部で止まっていたからである。

 そのため、パイロットの情報が中央砦の最高司令部にまで伝わることがなく、そして、政府にも伝わらなかった。

 その結果、政府や国内で混乱が生じることもなく、国内外でパイロットの正体に関して大きな問題に発展することは無かった。


 後に情報を得た政府は独断で行動した右翼司令部や右翼大隊、さらに第3中隊に対して徹底した情報管理を行うことで手打ちにした。


 だが、政府からの情報統制を受けていることを知らない中央や左翼砦に所属する兵士や将官達が我先にと第3中隊や右翼大隊に対して情報提供を強要するようになり、さらに、右翼砦に所属している人間であれば軍属であろうが無かろうが関係なしにしつこくつきまとうことになってしまった。

 そこへ、右翼司令部が即座に政府へ働きかけ、政府から所属先の砦の復旧作業に従事し、所属先以外の外部へ接触する場合は事前に政府からの許可を得よという命令が通達されたおかげで表立って動くことは無くなった。

 それでも国外や民間からのちょっかいが中々に減らず、強硬手段に出ようとする輩がいたので戦機パイロット達が臨時の警備員として駆り出されることになった。


 これらのおかげで非軍属である彼女に直接的に突っかかってくる輩はいなくなった。


「子供達に大人の事情を理解しろなんて言えませんしね。

 それに、下手に言ってしまえば子供達が危険に晒されてしまいます」

「それもそうだな。

 あと、家内には感謝しねぇとな」

「そうですねぇ。

 あ、夫に感謝するの忘れてた......」

「ははは。子供が優先になるのは仕方ねぇよ。これが終わったら時間を取ってやれば良いさ」

「そう、ですね。

 いつになるか分かりませんが......」

「おい、それは言うなよ」

「ははは。すみません」

 しばらく、会話をしていたのだが、再び沈黙の時間が訪れる。


「「はぁ......」」

 そして、お互いに盛大にため息を吐き愚痴をこぼし始める。


「今回の埋め合わせを、みたいなことを上司に言えませんし......」

「一応、特別報酬は出るからまだマシなほうかもな」

 今回の一件に関わる者すべてに口止め料のようなものが支給されている。

 彼女の送ったプレゼントはもちろん、送れなかった方のプレゼントの代金も経費で落としてくれ、それらを特別報酬分には含めないという扱いを受けているため、平民である彼女にとって今回のことがかなりの重圧になっており、金銭面ではなく精神面のケアを求めていた。


「まあ、そうなんですけど、やっぱり家族と一緒の時間が欲しいと言いますか」

「そりゃあ、俺だって欲しいさ。でも仕事上、仕方ねえところはあるもんだ。自分で選んだ道だ。我慢するしかねえよ」

「うっ。そうですね」

 同じ子持ちの、しかも戦機パイロットのベテランで自分よりも国連の職員やマスコミに質問攻めにあっているであろう人物からそう言われてしまえば何も反論ができない。

 色々と諦める決心がついた彼女にアダンは左手首に装着している端末を見ながら話しを切り上げようとする。


「おっと、そろそろ行かねぇと。じゃあな」

「ええ、またどこかで」

 右手を軽く上げながら歩きだすアダンに彼女は軽く頭を下げた。

 その後、何人かとすれ違いながら何事もなく職場である部屋の入口にたどり着き、所属カードをドア右側付近の壁に埋め込まれている機械に読み込ませてロックを解除し、手動で左横へスライドさせて入室し、しっかりドアを閉じてから内側にある機械にカードを読み込ませてドアにロックをかけた。

 そして、自分の席に座り目の前のモニターの電源をつけ、起動中に部屋内に誰もいないことを念入りに確認してから机に突っ伏しながら誰にも言えない盛大な独り言を漏らす。


「まさか、私が御前会議に出て報告をすることになるなんてなぁ......

 勘弁してほしいよぉ......」

 平民であっても御前会議に出席することはできるのだが、国王や大臣たちの前で報告を行った平民はここ数十年の王国の歴史上確認はされていない。


 最初、彼女の仕事は1番最初に目覚めた少女の取り調べを行うことだったのだがいつの間にか6人全員を受け持つようになり、やがて全ての記録をまとめるようになった。

 つい最近に、上司に報告書として投げ込めば仕事が終わると思っていると大臣から御前会議に出席してその場で直接皆に報告するようにという指示を受けたという報告を上司から受け、しばらく呆気に取られていた。


 原因は様々でかつ複雑であり、まずは人手が足りないことにあった。

 人手不足の理由に、特戦機のパイロットに関して情報提供を求める国外や国連の職員が連日押し寄せ、それの対処に多くの人手が割かれていることがある。


 右翼砦側の特戦機に関する情報統制は成功したのだが、中央砦側にいた取材カメラを所持した何処かの民間作業機が避難指示を無視して撮影を強行していたらしく、運悪く1機の特戦機が両手に持った黒い剣で鋼獣をことごとく破壊していく様子が一瞬だけであったがカメラに収められてしまっていた。そして、その撮影データを即座に押収したはずなのだが、何故か外部に漏れており、特戦機に関する情報提供を求めて様々な国家の職員を名乗る貴族階級の人物たちがひっきりなしにやってくるので、彼女達の同僚で貴族階級の者達が常に駆り出されて対応に追われている。


 そのため、目覚めた特戦機のパイロットへの取り調べを行うのに平民であるローズが駆り出されることになったのだが、ここでもう一つの原因が発生する。


 それは取り調べ対象の人物が未成年の少女であったことである。


 国際法により少年兵に関する全ての事柄は禁止されている。

 そんな少年兵に該当すると断定できる6人の少女の扱いに関して砦司令部や政府は揉めに揉めた。


 揉める内容としては「少年兵を保有どころか、実戦投入したことが発覚して国際社会から非難される前にさっさと少女たちを処分すべき」、「特戦機を操れる人材を手放すとはもったいない。何とかして懐柔すべき」、「特戦機の専属テストパイロットなら少年兵ではなく研究所の職員扱いにできるはず」、「我が国は一切の関与がないことをアピールするために相手国に熨斗(のし)を付けてお返しすべき」等々あるが、一番の問題点は少女たちを送りつけてきた国とその国の思惑が全く分からないということであった。


 今まで誰も満足に動かせなかった特戦機を動かすどころか鋼獣の群れ相手に大立ち回りをしたパイロットをなぜスパイとして王国に不法入国をさせてまで送り込み、特戦機に乗せようとしたのか、そして、それをした国はどこなのか、さらに言うとこれらに関して捜査機関でさえ何も手掛かりがつかめていないため、詳しく調べ上げるために少女達への取り調べはかなり慎重に行うよう通達されていた。


 ただ、少年兵に対する尋問はおろか会ったことさえないローズたちは少女たちからどうやって情報を引き出したほうが良いのか分からなかった。

 彼女たちは特戦機のパイロットが引き摺り出された場面を見ていないが、上司から仕事を任されて病室を覗いた時にパイロットが全員未成年の少女であることを知り、まず先に大いに驚いた。


 その後、同じ年頃の娘を2人持つ母親ということでローズに白羽の矢が立ち、彼女は上司が派遣した万が一のための護身用と制圧用の武装兵士に囲まれた病室の一画で1番最初に目覚めた、触れれば簡単に折れてしまいそうなほど小さく細い体躯に簡素な薄水色の病衣を身にまとう薄紫色をした長い髪の少女に話しかけた。

 だが、相手が明らかに警戒、というより周囲にいる兵士を怖がっている様子で満足に会話ができる状態とは思えなかった。

 そこで彼女は兵士を独断で全て下がらせ自分達に敵意や害意は無いことをアピールし、自己紹介と目的を話し、一時的に身柄の拘束をさせて欲しいことと取調室へ同行して欲しいことを告げた。


 すると、その少女は素直に従い、手錠をかけられても暴れる様子なく廊下を歩き、すんなり取調室に入った。

 あまりにも素直すぎてローズが警戒すべきか否か複雑な心境で記録官と万が一の連絡役の同僚たちと共に配置についてから質問をしていくと少女は名前と所属先の国と軍隊の名を名乗った。


 ここまで何のトラブルもなく進んだと思っていたローズは少女の口にした聞いたことのない国名と軍隊名を聞いて頭を抱えそうになった。

 皇国はともかく、北方方面第5魔獣討伐陸戦大隊第13小隊なんて聞いた事がない。

 魔獣とは何か、第5陸戦大隊やら第13小隊やらということは他にも存在しているのか等々疑問が多く湧いてくるが、ローズはまず先に記録官を務める同僚に少女が嘘を吐いていないか確認させた。


 取調室には対象が嘘を言っていないかを呼吸や脈拍、体温などから調べるシステムがあり、記録官が常にモニターで確認をしているのだが、その記録官から目の前の少女が嘘を言っていないことを首を横に振ることで知らされ、ローズは慄いた。

 取調官としてそれなりに経験のあるローズ自身も目の前の相手が嘘を吐いているか否かを見抜くことができる。ましてや、未成年相手であればほぼ確実である。それゆえ、娘たちから若干警戒される時があったりなかったりする。


 それは置いておいて、ローズから見ても目の前の不安そうに怯えている様子のイザベラと名乗る少女が嘘を言っているようには感じなかったのと、この状況下で嘘をつくメリットが全くないため彼女は感情を顔に出さないよう堪えつつ何事もない顔をしたまま引き続き少女から情報を引き出そうとした。

 だが、その後に続く、大規模作戦の任務中に爆発に巻き込まれて云々、よく分からないうちにまるでエレナお姉ちゃんの大人の姿みたいに綺麗なお姉さんに連れられてすごく大きな鎧に乗せられ云々、よく分からないうちによく分からない敵と戦ったり暴れるヴァネッサお姉ちゃんを守ろうとしたり云々、と未成年というより未熟な子供だからよく分からないことを喋っているのか、それとも何らかの手段でこちら側に悟られないよう情報を隠そうとしているのか、一体全体何が真実なのかと彼女達を困惑させるだけであった。


 それでもめげずに、ローズはさらに詳しいことを聞こうとしたのだが、少女は勝手に必要以上のことを喋って皆の迷惑を掛けたくないと言って黙秘をした。

 今までの言動から、目の前の少女は立場的にも年齢的にも末に位置する可能性があり、多角的に調べるためにも一度他の少女達からも話を聞いておいたほうがいいだろうとローズたちはその場で判断し、今回の取り調べは終了した。

 そして、取り調べが終わると今度は少女をどこに置いておくかという問題が浮上した。


 一応、スパイ容疑はかかっているのだが、だからと言って未成年を砦にある牢に入れてしまって問題は無いのだろうか、ローズたちは急いで上司に連絡して確認を取った。

 結果として、未成年のスパイ容疑を想定した法やマニュアルは存在しないことが判明しただけだったのだが、上司から砦にある平民用の客室を少し改修してそこに一人一部屋ずつ入れておくよう指示が出た。


 客室と言っても、窓の無い人一人が寝泊まりとちょっとした移動をするスペースがある程度な広さの部屋にベッドと一人用机が置いてあるだけの簡素な部屋で、隣にユニットバスが併設されている程度である。

 そして、部屋の扉の鍵は外側から電子ロックをかけることができるので中にいる人間が勝手に外へ行かないよう対策が施されている。一応、部屋には専用の内線通話機があるので何かしらの用がある時はそれを使って砦の職員を呼ぶことができる。


 そういった部屋にローズは最低限の通信機能を搭載したタッチパネル式のモニターを設置すべきではと上司に相談した。

 理由として、何も持たない未成年を何もない部屋に長時間閉じ込めるのは流石に可哀想であり、仲間と通話ができれば精神的な負担は軽減でき、こちら側に対してより協力的になる、それに、精神面で余裕が生まれれば仲間との通話中にうっかり秘め事を漏らす可能性があることをあげていくと上司は納得してローズの案を採用した。


 その後、情報統制下にあるためローズたちのみで客室の準備に取り掛かろうとすると、他の少女の目が覚めたとの報告を受け、何故かローズが対応することとなり、そのまま6人の少女の取り調べを担うこととなった。

 ローズのおかげで少女たちへの取り調べから部屋への誘導といった大まかな処理はスムーズに進んだのだが、取り調べ自体は、皆大体同じようなことしか言わず、進展がなかった。

 あまりに同じようなことしか言わないので少女たちが示し合わせているのではという疑惑が浮かんだが、そんな様子は一切なく、とりあえず保留ということとなった。

 そんな時、一番最後に目覚めたエレナと名乗る、おそらくリーダーと思える少女から取り調べを行う前に手錠について質問され、ローズたちは耳を疑った。


 その少女は目が覚めてから他の少女たちのことを伝えるといきなり謝罪と服従の意を示し、そして、自身の持つ情報すべてと命を差し出そうとしてまで他の少女たちを庇おうとし、さらに、他の少女達は丁重に扱われていることを知ると感謝の意を述べてきた、だいぶ変わっている、というより仲間のためなら組織すら裏切るくらいに仲間思いな、正直に言えば、軍人やスパイには向いていないような人物であるとローズは判断していた。


 そんな少女から魔術だか魔力だかよく分からない単語が飛び出してきたときは何かの工作か暗号かと一瞬考えたが、自分達の立場を良くしようと考えての行動だろうと判断して詳しく知ろうと、どういう意味かと問うたのだが、これまでの取り調べと同様どころか、かなりの部分で話がかみ合わずローズは頭を悩ませた。


 すると、同じように悩んだ様子の少女が意を決したように実践すべきかローズに伺いを立ててきた。

 ただならぬ雰囲気にローズが許可をすると、少女はあっけなく手錠を破壊してみせた。

 これを見たローズの同僚たちはすぐさま兵を呼ぼうとしたが、すぐさまそれをローズが止め、どういう仕組みか一切の怪我をしていない少女に問うてみると、体内に保有する魔力を操作して肉体を強化した、兵士であるならば当たり前に使える初歩中の初歩な技術だと逆に驚いた様子で教えてくれた。


 そして、今までの少女達とのやり取りであからさまに引っかかるようなものを感じていたローズと同じく自分達の扱いに疑問を覚えていた少女による知識や常識などのすり合わせが行われ、少女達が全く異なる世界からやってきたという、話し合っている本人達も馬鹿馬鹿しいと一蹴しかけた仮定が生まれた。

 だが、ローズは少女達の侵入経路が未だに不明であることや謎の力の解明などがされていないことからその可能性を簡単に捨てきれずにいたため、少女達が目覚めた場所であるリーヴァ伯爵領内の森のどこかにある少女達の乗っていたであろう車両を探索すべきと上司に進言した。


 そして、情報統制のため第3中隊の中から手の空いている戦機パイロット数人で伯爵領へ向かい、サラーという少女の証言をもとにわずかに残った痕跡を半信半疑で辿りながら森を探索していくと少々焦げ付いた軍用っぽい車両を発見した。

 その後、民間機に偽装した作業機で回収し、輸送機で砦とは別の軍事施設で連絡を受けた職員達が武装兵士に見守られながら車両の中や外を慎重に調べていくと、車内から銃器や弾薬、医薬品、携帯食料といった物資を発見した。


 軍事施設や研究施設で解体や成分分析などを行うと、基本的な構造や仕組みなどは変わらないが、動力部分や成分などに不明な部分が存在することが判明したという報告をローズは上司から受けた。


 これらをもとに少女たちに聞いてみると銃器や車輌についてはイザベラが、魔力に関することをエミリーという名の少女が細かく丁寧に答えてくれた。


 新たな情報を上司に報告し、指示があるまでしばらく待機していると、少女たちに直接関わった者たち全員が精密検査を受けることになった。

 少女たちが異世界から来たと仮定するならば未確認の病原体を取り込んでいる可能性がある、と一部では危機感を募らせていたのだが、すでに数日が経過しており、少女たちはもちろん関わった誰もが何の異常もなかったので大きく騒がれることはなかった。


 少女たちが本当に異世界から来たのか、関係者の間で微妙な雰囲気がする中、ローズの上司から少女たちの素性を調べるよう指示を出した。

 それら全ての記録をデータで細かく取って取調官からの報告書を添え、上層部や政府に投げつけて最終決定を仰ごう、と判断に困った上司は画策したらしい。


 そういうわけで、追加の仕事が発生し、当然のようにローズが中心に少女たちから情報を集めることとなったのだが、少女たちから覚えている限りの話を聞いたローズたちは精神面で参ってしまっていた。

 少女たちの生い立ちが余りにも自分たちとは違いすぎていたからである。


 誰もがタチの悪い冗談か、異世界人相手故にシステムの一時的な故障であって欲しいと願っていたが、少女たちの目は至って真面目でありつつ若干の陰りが見られ、システムは正常で、多少の隠し事や嘘はあれどほとんどが事実だと提示していたため、ローズたちは追い打ちを受けた。


 さらに今更なことを言えば、生身での戦闘技術がない者が戦機に乗っても摸擬戦どころか訓練すら満足に行うことができないので、戦機パイロットは全員、生身での戦闘訓練を十分に積む必要がある。

 そのため、特戦機に乗って戦果を上げた同年代の平均よりも身体の小さい少女たちは未成年であるにもかかわらず戦機パイロット並みの戦闘技術をその身に持っていることになるのであり、その事実に今更気づいたローズたちは変に態度を変えないよう必死で心がけ、今まで通りに少女たちと接していった。


 紆余曲折ありつつ今まで出てきた情報から、少女たちの生い立ちと似たような環境の国家が周辺に無いということは明らかである、ということが判明したので、異世界から来たという話が真実味を帯びてきた。

 個人的に色々と気になる話がたくさんあったがローズたちは藪蛇だと思いとどまり、指示がない限り不必要に踏み込むようなことはしなかった。

 そして、必要な情報は集め終えたので、後は記録官や護衛などでその場にいた同僚たちと共に取り調べ時の内容や様子についての報告書を映像や音声データなどとも照らし合わせつつ書き上げ、データ諸共上司に提出すれば仕事が終わる、とローズたちは一息つきながら各々仕事終わりのことを考えていた。


 だがそこへ、上司からローズのみ御前会議に出席して報告書を読み上げるよう告げられ職場内の空気は今まで史上最大に暗く、そして重くなった。

 今回の一件があまりにもイレギュラーであることから、取り調べを行なったローズから報告を会議の場で直接聞きたいと国土安全担当大臣から直々に指名があったとのことで、ローズは気を失いかけた。


 ローズが指名されたのは、単に彼女が6人全員の取り調べを行ったからだけではなく、6人全員と良好な関係を築けているからであり、ただの報告書やデータには無い、人格や人柄といった詳細な個人について第3者から見た正確な情報を政府が欲したからであった。

 要するに、正確に言葉を交わせるのか、そして、懐柔や寝返り工作が可能か否か、さらに、最終手段は必要か否かを判断するために彼女から見た特戦機パイロットについての情報が欲しいというわけだった。

 そういうわけなので、ローズは音声データに残っている少女たちとのやり取りを一言一句間違えることなく報告書に書き起こしつつ、全ての取り調べの内容を暗記する必要が出てきたのである。


 ここで、ローズが直接報告することになった詳しい理由を説明すると、彼女が少女たちに対して情を持ち過ぎたが故にある。

 本人に自覚はなかったが、帰宅が制限され、夫や娘と満足に会話ができなくなっていき、精神的に限界を迎えようとしていたときにほぼ同じ年の少女たちと取り調べとはいえ日常的な会話をすることになり、さらに、特戦機に乗った砦所属のパイロットの話や少女たちが過酷な生活環境に置かれていたことを知って取調官としてではなく一人の母親として接するようになってしまっていた。


 特に同僚たちが呆れた部分として、取り調べの合間に話題の提供として少女たちにアニメ、特にプリ卒について布教をし、客室のモニターで観れるよう上司に頼み込み、普通に感想を言い合うまで仲が進展していたというものがある。


 ちなみに、プリ卒とは合体王ほど歴史があるわけではないが、それと肩を並べるほどの人気作で、正式名称は『プリティ獄卒』である。

 非行を繰り返す女子高生たちがたまたま地獄へと繋がる穴に落ちてしまい、彼女たちの所業を視た閻魔様から地上に帰りたくば獄卒として働き、己の行動を鑑みるよう言われて渋々働くという話なのだが、特殊な亡者、通称トクジャが地獄を破壊すべく暴れ回り、それを阻止するよう閻魔様から命令と共に力を授かった彼女たちが可愛い姿に変身してトクジャを退治し、トクジャの行いと自身の今までの言動を重ねて反省していくという、子を持つ親から人気のある作品である。

 親子で一緒に観れる作品でもあるのだが、親と子それぞれの目線から見ると違った見え方がするというのもあって受け取り手によって解釈で議論が起きたり起きなかったりする。

 特に、最新作品である『プリ卒(ファイブ)! 業!! 拷!!』はタイトル通り5つの業を持つ主人公たち5人組と5つの拷問器具や拷問方法などが描かれる、かなり攻めた作品で賛否が大きく分かれている。


 それは置いておいて、ローズの行動はかなり行き過ぎたものであったが、その結果として、少女たちが合体王やプリ卒といった国内外問わず誰もが知っているアニメを知らないという、普通ではありえないことを知り得たり、わずかな人員のみで戦機パイロット並みの戦闘能力を有する複数人相手と何のトラブルもなくスムーズに話ができたりしているので上司から口頭で叱られる程度で済まされている。


 だが、少女たちと何とかして接触しようと画策する貴族たちの息のかかる他の部署の人間がローズの行動とそれに対する処罰の甘さについて異議を唱え、一時的であったが少女たちへの取り調べを強行した。

 取り調べの経験がない人物が、少女たちの扱いについてきちんと聞いていなかったのか、何故か挑発するようなことを少女たちに言い、その結果、サラーの逆鱗に触れ、危うく殺されかけるという事件が発生してしまった。

 騒ぎを聞きつけた戦機パイロット数人でも抑えきれず、大騒ぎになるところへローズが客室で待機しているエレナを連れてきた。

 そして、エレナが止めに入り、ローズと共に事情を聴き、事後処理をローズの上司が行うこととなった。

 その後、元凶となった取調官は身柄を拘束され詳しい話を聞くこととなり、落ち着きを取り戻したサラーは一時的であるが牢に入れられることとなった。

 それらを見届けた後、エレナが何度も地に頭をこすりつけ許しを乞い、それをローズの上司が受け入れ、無かったことにすることで事なきを得た。


 その後、サラーのおおよそ未成年の少女とは思えない怪力について疑問を抱いた上層部はアダン達の協力のもと非公式ながら少女達の身体能力検査を行ったところ、単純な力や持久力、さらには射撃能力や素手での戦闘能力などが熟練兵士並みかそれ以上であることが判明し、一時は騒ぎになった。


 この一件と検査結果が噂として出回るようになり、これによって少女たちに直接的に関わろうとする者はいなくなったので、少女たちの扱いはローズに一任されるようになった。

 すべての事柄が上層部や政府に報告されているわけではないが、これらの事情を鑑みて今回の御前会議に関してはローズが適任であると上層部が判断したのである。


「微妙な時刻だけど、とりあえず、やれるだけやっておかないと」

 と長くなったが、今日も時間ギリギリまで作業を進めるべくローズは起き上がってモニターとにらめっこを始める。

 報告を正確にしなければ自身の身はもちろん少女たちの身も危ないかもしれない。

 そう思うと少しのミスも許されないと感じてしまい、精神的負担が増していく。


「ああ、これじゃ駄目ね。余計なことは考えないようにしよう。

 とにかく、集中と確認がてらもう一度記録データを見ておこうかな」

 そう言うと彼女は一度深呼吸をし、ヘッドホンを付け、取調時の音声データと映像データを読み込ませ、全てのやり取りを一切見逃さないという気概を持って最初から見始めるのであった。

次回から6人の過去回をやります

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