幕間 御前会議
「はぁ。なんで僕がこんなとこに来なきゃいけないんだ」
特戦機の起動実験に成功し危機に陥っていた砦を無事に防衛したあの日から約1月、僕は白衣姿のまま王都にある城の廊下を金属製の銀色ケースを両手に持ったアンドロイドメイド1番機と案内役の男使用人、護衛役の男騎士と共に歩きつつ愚痴を吐いていた。
「マスターがきちんと管理し把握しておけばこのようなことにはならなかったと判断します」
僕の愚痴に前を歩く男騎士の表情は分からなかったが左隣を歩いていた1番機が無表情のまま答えた。
「ぐうの音も出ないとはこのことだね」
実際、これの言う通りなんだよね。
特戦機の初陣の時、あまりにも動きが良すぎるものだからどんな経歴を持つパイロットなんだろうと気になって情報を閲覧してみようと色々と探してみたら全くの別人が搭乗していることがアンドロイド達の証言から発覚しちゃった。
しかも、戦機を動かすことができない女性どころか明らかな20歳未満だったし、軍どころか国のデータベースにも載っていないから、流石の僕も、あ、これは流石にヤバいな、と思って急いで砦に通知して戦闘が終わったことを確認してから確保したんだけどその時に第3中隊長さんから嫌味みたいなこと言われちゃったね。
「まあでも、そのおかげで進展はあったからねぇ」
今まで動作テストはおろか満足に動かせなかった特戦機が起動するどころか、理論以上の働きを見せたものだから僕も驚かされた。
「それは良かったじゃないですか」
「いやいや、プラマイゼロといきたいけど、砦総司令官に叱られたうえにしばらく砦から出られなかったり病室に監禁されたりでここ最近まで碌に研究できなかったんだけどねぇ」
最初は僕までスパイ容疑がかかって砦の彼女達とは別の軟禁部屋に連れて行かれて大変だったよ。
しかもその後、急に砦の医療用隔離部屋に放り込まれるしで散々だったね。
だから、解放された後は急いで研究所に戻って研究に没頭しようとしたのに王都の城から呼び出しと資料作成を言い渡されたから苛立ちが爆発しそうになったね。
きちんとテストパイロットに関する情報を把握してたり外部スピーカーを切らなかったりしておけば起動実験時に気づけたかもしれなかったねぇ。覚えていたら次からは気を付けよう。
まあ、特戦機関連の資料を纏めるのはアンドロイド達に全部丸投げしたから期限ぎりぎりまでちょっとだけ戦闘データを纏めてたのは内緒なんだけど。
「あ、これは改める気がありませんね。というか、隠ぺい工作をするのも私たちなのですが?
それと、国から金を貰っている以上、ある程度は働かないといけないと思うのは私だけでしょうか?」
あ、騎士が若干反応した。
まあそんなことよりも、一応、国の為になるようなことは副次的だが、やってるにはやってるし報告すべきことはきちんと報告してるんだけど一部の貴族連中が反発してくるんだよね。
あと、王国軍鋼獣対策部門・研究開発部第3研究所所長なんて肩書のせいで変な仕事の依頼をしてくる輩が一定数いるのが面倒くさいんだよね。なんとかならないかなぁ。
「仕事はちゃんとこなしてるよ。
はあ、僕にはすべきことがたくさんあるというのに、どうしてこうも面倒ごとばかり湧いて出てくるんだろうね」
ほんと、こんなことしてる場合じゃないよ。折角、良い研究材料やら資料やらが手に入ったというのに。
「人手を増やさないのですか?」
「それじゃあ君達を作った意味が無いじゃないか。
それに、僕の研究を完璧に理解して完璧にサポートできる人間がいないしね」
単純に能力十分な人材がいないってこともあるけど研究者以外ですら人を雇えない理由が色々とあるんだよね。
あと、ぶっちゃければ、アンドロイドの方が人なんかよりも便利なんだよね。
手軽に製造できて、適度に交代して休ませたり自己メンテナンスさせたりすれば半永久的に使えるし、やろうと思えば誰でもできる面倒な雑用は全部任せられるしね。
それに、一番の理由は感情が無いことだね。感情が無いから常に合理的な判断をしてくれる。とても助かるよ、本当に。
「では私達を増産しないのですか?」
「それがさ、君達の製造所有数に制限かけられちゃったんだよね」
そこそこ前からアンドロイドの生産はしていなかったけど、ここ最近になっていきなり通達されたときは驚いたね。わざわざ人まで寄こして、しかも電子メールじゃなくてアナログな書面でさ。
「はあ? それはまたどうして」
「僕が知るわけないだろ、国のことなんて」
とは言ったものの、ちょっとふと思い出したんだけど、あれが原因なのかな? 昔、初めて研究所の視察に来ていた貴族がアンドロイドを見て、売ってほしいなんて言ってきたから作って売ったんだけど、危うく暴動が起きかけたことがあったんだ。
その貴族によって瞬く間にアンドロイドの発注があったんだけど、アンドロイドに職を奪われるかもと危惧した使用人達があることないことを領民たちに吹き込んだせいで国内ではほぼ同時期に反アンドロイド運動が起こったんだよね。
それで場を収められなかった貴族が処罰されるのは分かるんだけど、製造物責任だか何だかで何故か僕までとばっちりを受けてそれなりに大変だったよ。
あの時は、洗濯メイドや掃除メイドのように能力を限定的にしたり、高所や危険な作業を専用の道具や作業機を借りずに行えたりと当時譲渡した貴族達に説明したように重鎮達にもあれこれ説明したはずなんだけど、無許可で兵器になり得るアンドロイドを他者に譲渡したことがいけなかったっぽい。
多分だけど、侵入者撃退用のプログラムが無きゃ使用人として使えないからと思って付けたのが間違いだったね。
あと、アンドロイドに人権が認められないからアンドロイド関連の責任は僕が負うことになったのも解せなかったね。
まあ、そんなこんなで譲渡したアンドロイドをすべて回収したわけだけど、すべてを解体したり置きものにしたりするのは色々と勿体ないと思って研究の片手間に色々な機能を各個体に搭載してアンドロイドの性能実験みたいなことをやりつつ必要な機能を追加したりアンドロイドを増産したりしていたわけだけども、1000体くらい作ったときに通達が来たんだよね。
でも改めて考えてみると、そこそこ時間かかってるような気がするけど......
まあ真相なんて分かんないし、どうでもいいか。
「はて? マスターは貴族のはずですが?」
「形式だけだよ。なりたくてなった訳じゃないよ。研究には色々と必要だから仕方なくさ」
親父が貴族だったんだけど、僕は次男だったし、一回り離れた兄さんが無事に爵位を継いだから僕は学校を卒業してから適当に進路を決めるつもりだったんだけど、なんだかんだで今に至るんだよね。
「それに、形式上の貴族なんてこのご時世、過半数はいるよ」
「それはそれで問題がありませんか?」
昔は伝統と格式が云々とかあって王権神授やら血統至上主義やらみたいなもんがあったらしいけど、鋼獣のせいだかおかげだかで色々と変わったんだよね。実際、なんだかんだで国は安定してるっぽいし、大丈夫なんじゃない?
と、適当におしゃべりをして時間を潰しながら歩いていると目的の部屋前に着いたらしく、使用人が立ち止まり、扉を守護する2名の騎士がいるにもかかわらず嫌な顔を若干にじませながら咳ばらいをしてから話しかけてくる。
「ゴホンッ。ここから先はアンドロイドの立ち入りを禁止していますので」
「分かってるよ」
ここから先は王や重鎮がいるから、アンドロイドを中に入れたくないというのは分かるんだけど、もうちょっと隠してくれないかねぇ。
「彼に資料を渡しといて」
「承知。私は所定の場所で待機しております」
1番機が使用人にケースを渡すと男騎士と共に来た道を戻っていった。
そして、両サイドにいる騎士が扉を開けると使用人は部屋の中へと進んでいったので僕は黙ってついて行った。
中に入るとそこそこ大きな部屋の中央にあって奥側に30代くらいの男が座っている大きなテーブルの左右に30代から50代くらいの男女交えた大臣達が疲れ切った様子で話し合っていた。
そして、その周囲には彼らの補佐達が個別の机に座って必死に記録を取っていた。よくよく見てみると学園にいるはずの第1王子も国王の隣に座っていた。
他の王子や王女達はいないみたいだね。いやはやそれにしても、普段の中継されているような会議の時とは比べられないくらいに人でいっぱいでてんやわんやしてるねぇ。
おっと、呑気なことしてないで挨拶しておかないと。
「やっと来たか。アンドロイド伯爵」
「早速で申し訳ないのですが、今回の経緯について洗いざらい吐いてもらいましょうか」
「はぁ。全く何が起こっているのやら」
「まだまだやるべきことはありますぞ。故に、さっさと済ませて欲しいですぞ」
部屋に入って僕が礼をするよりも早々に僕へ挨拶がてら好き勝手に言い放ってくる。
人の都合を無視して勝手に呼び出しておいて、しかも国王への礼を遮るなんて随分だな。
ちょっとムカついた僕は彼らに対して雑な態度をとる。
「あー。はいはい。分かっていますって」
場の空気が冷えるような感覚がしたが僕は構うことはせず、皆が囲っているテーブルの奥に座る30代くらいの国王と第1王子に簡単な礼をした。
国王は顔に手を当てており、第1王子はあからさまに不満そうな顔をしていたが両者特に何も言ってこなかったのでそのまま話を始めようとすると国王から見て左手前に座る60代くらいの宰相が口を開く。
「皆の者、諸々気持ちは分かるが、国王陛下がおられるのだ。少しは落ち着かれよ。
それと、貴殿も口の利き方には気を付けられよ」
「申し訳ございませんでした。陛下」
「はい。すみません。陛下」
「よい。緊急事態故に致し方ない。だが、次は無いぞ」
さすがに、先王から長年仕えて現王を支えてるだけあってか威厳ある宰相殿に注意をされちゃきちんとしなきゃだめだね。
と一応気持ちを切り替えて僕は使用人が大臣達に資料を配布するまで待ってから今までの説明を簡潔にしていった。
「――といった具合であります」
何度読んでもいきなり特戦機と適合するレベルの未成年の少女が6人も国境警備や国内の治安維持機構どころか街中にあるレベルの監視カメラにすら一切関知されずに国外から研究所まで侵入し、あまつさえ研究所のアンドロイド達に疑惑を抱かせずに特戦機のテストパイロットになりきって戦果を上げるなんてどんな確率だと流石の僕もこれを説明しながら思ってしまう。
「流石にこれは胡散臭すぎるぜ」
「そんなことを言われましても」
ちゃんと施設内のカメラやアンドロイド達の所有する録音やら録画やら諸々のデータがあるし、僕はそれらを確認している。
どうも見てもどこからか急に現れた少女達を発見するところからして困難だと思うんですけど。
あと、それらを事前に提出してるのに胡散臭いとか言われても僕にはどうしようもないんだけど。
「責任逃れをしようとしているのではないのですか?」
「そんなつもりはありません」
逃れようとしてたらそもそもここには来てないよ。
そんなことしたら下手すれば国賊扱いだし、研究施設や道具を没収されちゃって好き勝手に研究できなくなっちゃうじゃん。
他国は何かと厳しいというか研究者を下に見ている風潮があるから行きたいとは思えないし。そういえば、前に帝国の奴らが来たときは中々に舐め腐ったことしてくれてつい手が出そうになったね。
「いや、そもそも! あんな大型輸送機なんて聞いていませんよ!? いつ建造したのですか?!」
「特戦機を作る頃とほぼ同じ時期くらいですかね。報告書は提出したはずですが?」
おかしいな。特戦機を試作する際により効率よく研究、運用するための計画案として特戦機と並行して試作実験する予定だってきちんと提出したし受理されたんだけど。
その後、視察連中が特に何も言ってこなかったから今回の実戦まで定期訓練時以外ずっと放置してたんだけども。
「他国からもあの輸送機は条約違反なのではないかと問い合わせが殺到しています」
「あれは飛行機と格納庫が一時的に合体しただけですし、今は分離してますので問題無いかと。条約にも特に記載はありませんし。
それに、あれを運用するためにはアンドロイドが最低でも数百は必要なくらい作業工程や操作系統が複雑化しているので問題は無いはずです」
あれには武器やリニアカタパルトも付けてないから戦艦でも巡洋艦でも空母でもない輸送船未満で操作性が劣悪なただ大きな飛行機なんだけど何が問題なんだろうね。
まあ、単純化させるのはできなくはないけども、多分僕しかできないと思うよ。
「おい、ここに書かれていることは本当なのであろうな?」
「はい。噓を吐くメリットが一切ないので」
なんか周囲がざわつき始めたけど、なんでだろうね。
政治の世界なら多少の嘘は必要かもしれないけど、研究に関しての嘘は吐く意味が無いというより害悪だというのに。
あー、研究と嘘で嫌なこと思い出してきた。
とある大事な研究の為に他国の研究者が出した論文を漁ってみたんだけど初手から嘘塗れな物を発見してしまってね。しかも、他のすべての論文もそれを一次資料にしているもんだから欲しかった研究データ全てが嘘であったことが発覚して流石にブチ切れどころじゃなかったよ。
結局、あのあと手探りで研究するはめになったから予定よりも大分遅れちゃったし未だに光明すら見えてこない。
思い出したらイライラしてきたな。あの研究者は色々と肩書や資格を剥奪されて追放されたらしいけど生ぬるいと思っちゃうね。
「それはつまり、メリットがあれば平気で嘘を吐くと?」
「まあ、そうですけど」
なんか補佐の人達も手を止めてこっちを見て来たね。
そりゃあ、最終的に僕の利益になるのであればなんだってするさ。
むろん、掛かる費用や発生する損失と最終的な利益をしっかり計算し、途中で何度も再計算を行いながらきちんと利益が出るよう気を付けつつ経過報告書に記録しながら研究はしてるし、定期的に報告書も提出してるよ。
「貴様! 陛下の御前であるのだぞ! それに、御前会議をなんだと思っている!!」
国王の前だからきちんと正直に話してるじゃないか。
御前会議って要するに皆嘘なんて吐かずきちんと話し合いをし、その内容は国王により保証されています、という国民に向けてのパフォーマンス的な会議でしょ。実際、普段はテレビ中継されてるし、重鎮のみで事前に議論を交わしてある程度話を纏めておいてから始める予定調和というか確認みたいな会議だし。
まあ、今回は緊急事態だから事前会議もテレビ中継も無しに大臣以外の役職の人達もそれなりに集まって長い間会議をしてるみたいだけど。あと時折、経過報告みたいな中継がされるけど。
「落ち着け。話がずれておるぞ。貴殿も波風を立てるようなことはするな。新兵器や新技術の開発、鋼獣の処理や管理など貴殿のこれまでの功績は大きいが、だからと言って何をしても許されるというわけではないのだぞ」
再び宰相が口を開き、ざわついていた会議が一瞬で静かになった。
このまま大臣達と問答をしても時間の無駄だしさっさと話を進めてもらおうと思ったので僕はすぐに頭を下げる。
「はい。反省しています」
「なればよし。
彼は今までもきちんと報告書を提出しておるし、その内容も我々が確認しておる。もし、彼が虚偽の報告をしていた場合それを見抜けなかった我々にも非があるということだ。よいな?」
「ぐっ。まあ、そうであるな」
「アンドロイド頼みなところが癪に触れますがね」
宰相から簡単なジェスチャーで席に座るよう促されたので僕は使用人が引いた宰相側の席に座ろうとしたが、その際になんか色々と聞こえてきた。
反応することすら面倒だから無視無視。
なんだかんだで場を収めた宰相が一度、右側にいる国王の方へ顔を向け、国王が頷くのを確認してから周囲を見渡しながら口を開く。
「さて、必要な報告を済ませたことだ。役者も揃ったことであるし、本題に入ろうではないか。
此度の議題は特戦機に搭乗した6人の少女達の処遇、で相違ないな?」
宰相の言葉に皆が黙って頷くと、宰相はゆっくり話しつつ彼から見て正面左側に座る50代の男へ顔を向ける。
「その前に少女達に関する情報を皆で共有してからであるが。
たしか、担当は卿でしたな」
事前に打ち合わせていたのであろう、宰相と目が合った男は律儀に国王に一礼をしてから立ち上がり宰相にも礼をしてから口を開く。
「その通りである。
本来であれば俺がその場で報告を上げるべきだが、如何せん、今回はイレギュラーな事態が多すぎて正確に伝える自信が無い。故に、今回は実際に取り調べを行った取調官の代表に任せることにした。
平民ではあるが、信頼できる人物だ」
話しかけられた男は王国内の国土安全を担当する大臣で領地を持たないが公安的な仕事まで管轄し、部下からの報告をきちんと理解して覚えるまで徹底するほどの真面目な伯爵位の男なんだよね。
そんな男が自ら報告をせず部下に任せるという過去一度もやらなかった事態にそこまで打ち合わせをしていなかったのか皆が若干ざわつき始めるが、彼はそれらを無視して言葉を続ける。
「皆の言いたいことは分かる。先に報告書を読んだが、正直に言えば俺でも困惑しておる。
そういうわけだ、とりあえず皆に話を聞いてもらうしかないと判断したのだ。おい!」
そんな彼に声をかけられ、補佐席に座っていた30代くらいの女性が慌てた様子で立ち上がり資料と思しき紙束を右手に持ってから国王へ頭を下げる。
「は、はい! 国王陛下、王太子殿下、お初にお目にかかります! 私は王国内の国土安全を司る――」
「そんな挨拶はいい! 今は緊急事態で時間が惜しいのだ。責任は俺がとる故に無礼でもなんでもいいから今すぐに結果のみを報告せよ!」
国王が何かを言いたそうだったが、それよりも早く男が怒鳴り、それに対して女は慌てた様子で同じ国土安全関連の補佐達に頭を下げつつ、さっきまで僕が立っていた場所へ移動し、慌てた様子で国王へもう一度頭を下げる。
「は、はい! 申し訳ありません!!」
え、そんなことしていいの? なんか、形振り構わずってかんじだね。
まあ、彼は変に合理的な部分があるからね。普段では形式を重んじていても時間の無いときは全部すっ飛ばすことがあるからねぇ。
「あー、まあ。その。今回だけであるぞ......」
宰相が顔を抑えちゃったよ。
でもなんか許されたっぽい? 国王も何も言ってこないし。さっさと進めろとか思ってるのかな?
「えーっと。大変失礼ではありますが、皆様方への挨拶は省かせてもらいます!
国土安全担当大臣殿にも報告をしましたが、こちらで取り調べを行った彼女達に関する情報を恐れ多くもこの私が皆様方に共有させてもらいます!」
そんな周囲の状況に気づかないほど慌てているのか、彼女は使用人により資料が行き届いたのを確認してから手に持っていた資料をめくりながら話始める。
「ええっと、取り調べ内容の前にまずは、彼女達の現状についての報告をしたいと思います。
彼女達の扱いは国際法、及び王国法に則り丁重に――」
そのまま彼女が一切気にすることなくページをめくりながら淡々と説明を始め、周囲も黙ってそれを聞いている中、僕も彼女に倣ってパラパラとページをめくって中身を読んでいく。
なるほど。あの後、特戦機を格納庫まで運んで意識の無いパイロットを降ろし、そのまま砦の病室に運び込まれて精密検査をして何の異常も無かったと。
これは凄いね。歴戦の軍人でも出来なかったことを平然とやってのけたんだからまさに逸材だよ。逃したくないねぇ。
おっとっと、続き続き。
えーそして、目が覚めた後は個室に移して健康状態に気を付けつつそのまま取り調べを始めたと。
んー? 1人に対して十数回、しかも全体で2週間くらいかけて取り調べをするなんて大分慎重だな。
しかも、手錠を掛けず、さらに限定的とはいえ通信端末まで与えるということは重罪人ではないという認識なのかな。いや、未成年であることから色々と配慮しつつ、外部から監視できるような特殊仕様だから端末の履歴から何かを探ろうとしてるのか、ん? 主な使用履歴に仲間との通信と合体王やプリ卒の視聴とあるね。前者は分かるけど後者はどういうことだろう? なんかいくつか検索履歴があるけどもそれほど扱いに慎重なのかな? それとも、単に暇つぶしのために与えたのかな? よく分かんないね。
「未成年であるからな。丁重に扱わんと下手をすれば無関係な国から非難が上がる」
「それを踏まえた相手国側の我が国への工作の可能性もありますからね」
「いやはや、与えられた端末で合体王とプリ卒を初代から通しで観ているのですか」
「しかも、全体通信で感想を言い合っていますね」
「夜にはリーダーと思しき少女が全員に寝るよう言いつけているのですか」
「こうしてみると普通の少女達だな。とても不法入国のうえに軍事機密を探ろうとしたスパイには思えねえぜ」
「1人だけ個人通信でリーダーに話しかけている娘がいるみたいですね」
彼女が一旦一息ついている間に周囲が小声で感想を口にする中、僕が黙々と読み込んでいっていると同じように読み進めていた一人の大臣が声を上げる。
「むむ? なんですかな、この、『異なる世界からやってきた可能性』という記述は?」
彼の言葉に先ほどまで喋っていた者達が一斉に静まっては彼女が答えるまで黙り、僕も報告書から目を離し彼女の方に顔を向けて待っていた。
少し緊張感が漂うが、そんな空気を知らないのか、はたまた気が付いていないのか、彼女はいそいそとページをめくってから普通に答え始める。
「あっ、はい。ええっとですね。その話をする前にですね。いくつか話しておくべき事案がありまして。あ、一応、報告書の後半あたりに書いてありますが、先に簡潔に話しておきます。
えと、彼女達から所属先の国や軍、我が国へやってきた経緯を聞き出そうとしたのですが、聞いたことのない国名や軍組織、それと多少の違いはありますが皆さん口をそろえて『森の中で魔獣との戦闘中に大規模な爆発を感知し、急いで車両内に避難したが、あまりの衝撃に気を失い、復帰後外に出ると別の森の中にいた』と発言していまして」
想定していた質問内容だったのかそれとも国土安全担当大臣の男から同じようなことを聞かれたことがあるのか、彼女は特になにも引っかかる様子もなくサラリと説明を始める。
「他にもありましたがどれも似たようなものでしたので、一応念のため、我々は通信端末の通信履歴を調べたのですが、口裏を合わせた事実も無かったため、一度保留にしたのです。
ですが、一人の少女から――」
「ちょ、ちょっと待って欲しいです!!」
突然の内容に困惑する大臣達を無視してどんどん話していくので流石に待ったの声が上がる。
「魔獣? 戦闘? 爆発? 車両? いきなりなにを言っているのだ」
「もう少しそのあたりを詳しくお願いします」
ほぼ全員が顔を上げて彼女の方を見たので、流石の彼女も一度説明を止め、パラパラとページをめくってから新たな説明を始める。
「ええっと。我々にもよく分からないことがありますので分かる範囲で大雑把になってしまいますが。
彼女達は軍に所属しており、軍では生身で魔獣と呼ばれる敵と常に戦い続けており、大規模作戦に後方支援として参加し、本隊をすり抜けたと思しき魔獣と交戦後に本隊方面から大規模な爆発が発生し、支援車両と呼ばれる車両に避難したが爆風で吹き飛ばされ、その際に身体を車内のどこかに打ち付けて気絶し、気が付いたら見知らぬ場所にいた。ということになっています」
僕も同じようにページをめくっていくとカラー写真付きのページにたどり着いた。
「色々と信じられないかと思いますが、実際に彼女たちの証言の元、我々が調査をしまして。特に、1人の少女がその車両の場所を明確に記憶していたみたいで。
アンドロ、あいえ、リーヴァ伯爵領に勝手ではありましたが一応、国土安全担当大臣様から許可を得て調査に向かったところ実際に彼女の言う通りに車両がありまして。それを作業機で回収し、その中にあった物資や車両そのものを調べた結果、爆発による損傷と思しきものや、車両や銃など我が国が所有するものと若干の違いはあるもののところどころ似たような構造はしていましたが未知なる部分が確認できまして、信憑性が高いと判断しました」
「なんと!」
「偽装工作の可能性は?」
「いや、これをバレずに国境を越えて運び込んだり、その場で1から作ったりするなんて無理でしょう。それに、これらを行うための施設や大掛かりな道具が必要になるでしょう」
「道具らしきものが見つかっていないうえに、それをバレずに我が国に運ぶことも隠蔽の為に解体して隠すことも不可能か」
仕組みはほとんど同じようなものだね。ただ、原動力が魔力っていうのが言葉通りなのかよく分からないな。
僕が仕組みについて考えていると、大臣達が発見され回収された車両や物資について話し合っていたが、それらに全く耳を貸さない彼女がもっと別の問題点になりうることを説明する。
「その後、彼女達の診察結果を詳しく調べてみたところ危険な、又は、未知なる細菌やウイルスといったものは確認できませんでした。彼女達と関わったであろう方々にも検査入院をしてもらいましたが異常は検知できませんでした」
「!!」
ああ、そうか。異世界から来たということはそういう部分についても考えなきゃいけないのか。だから僕は病室に連行されたのかな? でも何もなかったんなら異世界という説は無いってことになるのかな?
と僕が呑気に思い返していると今更過ぎることに大臣達が一度慌てふためくがすぐに問題ないことを認識し始め、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった
そこへ彼女がさらなる爆弾を投下する。
「そもそもですが、彼女達の容姿にかなりの疑問がありまして、まあ写真がありますので見れば分かると思いますが一応説明しておくと、身長は13から15歳にしてはやや低い160㎝以下で、体重はやや痩せすぎではありますが、そんなことよりも、髪の色や眼の色が現実ではありえないような色をしていまして、さらにその中から一番異常だと判断したものは彼女達から魔力や魔術なるものが存在すると――」
「はぁ?!」
「ふざけているのか?」
「それは本当か?」
魔術が使えるのか。凄く気になるね。えーっと、彼女達に関するページは。
「ええっと実は最初に、やってもらいまして......
掛けた手錠を無傷で簡単に破壊しました」
「は、はぁ?!」
「一体どういうことなのですか?!」
あったあった。へぇ。火や水を出すことはできないけど身体能力を強化することができると......ん? おや? これは......
「えーと、彼女達のリーダーから『魔術封じが施されていない手錠だが、これでいいのか』と聞かれまして。どういうことかと聞いてみたところ実践してくれまして――」
「な、なんということか......」
「手錠を無理矢理壊すことは鍛えた軍人であればできなくは無いが、無傷でしかも一瞬で破壊などできるわけがない」
「まさか、本当に?」
「全員出来たと書かれておるが」
「えーっと。すみません。これ以上は時間が掛かってしまいますのでこの辺りで切り上げさせていただきます。
これらをふまえたうえで彼女達に関する話の内容を始めていきます。これらを読んでから皆様方に判断してもらいたいと思っています」
大臣達を納得させるのは無理だと判断したのであろう彼女はページを戻すとそのまま記録にあるとおりに報告を始めた。
僕はこのとき、初めて特戦機に乗ったパイロット達の情報を知り、彼女の報告を聞かずに勝手に読み進めては書かれていた一部分に心が躍ってしまった。
すみません。過去編は次々回からになります。




