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初陣2

「通信機が来るまではスピーカーで喋らせてもらう。だから、声の届かねぇとこまで行くんじゃねぇぞ」

「了解!」

 エレナ隊長達と別れてからあたし達は目の前にいる右翼大隊という聞いたことも無い大隊の第3中隊長を務める声からしておそらく男性であろう人物からの簡単な指示を聞いていた。


 スピーカーというものがよく分かりませんでしたが、おそらく、この鎧から声を発する機能のようなものなのでしょう。

 戦場で通信機が無く、声かけのみではあまり広範囲を集団で動き回ることができませんが、この方はどのような指示を出すつもりなのでしょうか。

 と色々と不安がよぎる中、あたしが耳を傾けていると第3中隊長が行動計画を話し始める。


「まずは、他の小隊の援護や救助を優先していくぞ。

 本当は今すぐ開いた戦線の穴を埋めていきたいところだが、人手が足りなさすぎるからな」

「了解!」

 返事をしつつあたしは内心でホッとしていた。

 大雑把に見聞きした限りだと、ここの軍は崩壊はしていなくともかなり危機的な状況であると判断できた。そして、こんな状況下で新たにやってきた所属の異なるあたし達を自軍の被害を抑えるために囮や盾にして後方まで逃げ出すか戦力の立て直しを図る可能性があったからだ。


 あたし達を半分に分けた段階でそれなりにあたし達に関する扱いについて安全であると確信を得たつもりではありましたが、かなり危険な橋を渡った感覚でしたわ。おそらく、サラーの一撃からこちらに十分な戦力があり、現状からの立て直しが可能だと考えたんでしょう。サラーには感謝しないといけませんわね。絶対に調子に乗るからあまりしたくないんですが。おっといけませんわ、とにかくこの後のことを考えないといけませんわね。民間人の救助活動はやったことがあっても危機的な状況下に陥った友軍の救助なんてやったことがありませんもの。なんとか致命的な失敗は避けたいですわね。

 そう思考を巡らせているとあたしの後ろにいたヴァネッサがあたしに声をかけてくる。


「えっと、つまり、あまり敵は倒しちゃいけないんすか?」

 そういうわけではないのですけれど、どう説明しましょうか。ヴァネッサって戦闘に関する考え方が極端すぎるんですわよね。下手に話して吶喊されても困りますし。

 と、あたしが悩んでいるとイザベラが彼女へ意見を言う。


「多分だけど、戦線の立て直しを図るために危機に陥っている味方を助ける遊撃隊みたいなことをするからそんなことは無いと思うよ」

 イザベラが戦術に関してある程度の知識を持っていることに驚きはしたが、その説明でヴァネッサが理解できるのだろうかという疑問の方が強かったあたしは特に何も言わずにヴァネッサの様子を窺う。


「要するに適当に鋼獣っていう敵をぶっ殺すんじゃなくて、味方っぽい鎧連中を襲ってる奴を優先的にぶっ殺すってことっすね」

 一応、理解してい、ん? それって......

 何かが引っかかっていたあたしにヴァネッサは自信満々な様子で確認を求めてくる。


「良かったっす。これならエマちゃんが言ってた、俺らの価値が上がってみんな生き残れる可能性が上がるってことすよね?」

「え、ええ、まあそういうことになりますわ」

 エミリーが言っていたことを覚えていて、かつ、きちんとその通りになるように行動しようとしていたなんて、成長を実感しますわ。でも、何かが違う気がするんですわ。

 あと、できればもう少し声を小さくしてほしいのですわ。

 と、あたしが額に手を当てたくなる衝動に駆られていると第3中隊長が声をかけてくる。


「話し合いは終わったか? 時間がねぇからさっさと行くぞ!」

「りょ、了解!」

 彼はあたし達の会話内容について何も言わず、先頭に立って走り始めた。彼の右後方につくようにもう一人の鎧が走り始めたのであたしはその左に、ヴァネッサとイザベラを後ろに配置するように2人に指示を出してから後を追った。


 予想以上に足の遅い前方2人との速度調整に戸惑っていると第3中隊長があたしに声をかけてくる。


「そういや、お前らは実戦経験はあるのか?」

「え?」

 突然のことで一瞬理解が遅れ、そこからどう返すべきかでさらに言葉が詰まってしまった。

 サラーの狙撃である程度の実力をはかったわけではなかったのですわね。さて、何と言えば良いのでしょうか。安易に嘘を吐くのは今後のことを考えると悪手ですわね。でも、何と答えるのが良いのでしょうか。ああでも早く答えないと。


「ま、まあ一応......」

 さんざん悩んだあたしは無様な回答しかできなかった。

 うぅ、サラーが指をさして笑っている姿が浮かんできますわ......

 自己嫌悪に陥りながらも相手の反応を探るべくあたしは第3中隊長の所作に注目する。


「その様子じゃ前線に出たのは初めてって感じか? だが、狙撃の腕は確かなものだった。もしや、コイツ等の射撃の腕も? いやしかし、狙撃手はここにはいない。機体の性能は尋常じゃないみたいだがどうすべきか。やはり、ここは安全策を取るべきか。誤射は勘弁だしな......」

 ブツブツと独り言を漏らしながらなにやら彼は考え事をしているように見えた。

 え? あの? 聞こえてしまっていますわ。とあたしが上手く誤魔化せたかどうかよりも彼の大きな独り言を気にしていると、仲間であるもう一人の鎧が彼へ話しかける。


「隊長。普通にスピーカーから漏れてるぞ」

「あ。すまねぇ。忘れてたわ」

「うちの隊長、いっつもこうなんで気にしなくていいぞ」

「え、ええ」

 な、中々変わった方なんですのね、とあたしが目の前にいる人物について一言浮かべていると考えがまとまったのかその人物である第3中隊長があたしに声をかけてくる。


「味方付近の鋼獣は俺らがやるから、お前らは寄ってきた奴らを頼む!」

「了解!」

 なんだかよく分からないけど、この場をやり過ごすことには成功しましたわ。あとは失敗をしないように気を付けるだけですわね。

 まだモヤモヤするが気持ちを切り変えてあたしはヴァネッサとイザベラに指示を出す。


「ヴァネッサ、イザベラ、銃を構えなさい! とにかく2人は牽制を! 無理に当てる必要はありませんわ!」

「りょ、了解!」

 正直、こんな状態で普段通りの射撃なんて期待しないほうがいいですわね。特に、ヴァネッサの射撃の腕に関しては未知数すぎますわ。第3中隊長の指示は的確で、こちらとしても助かるものでしたわね。

 と思いつつあたしは背中から突撃銃を右手に取って両手でしっかり保持して攻撃準備にかかると、ふとイザベラの返事しか聞こえてこなかったことを思い出した。


「ふくたいちょー! 俺が前に突っ込んで行っちゃ駄目っすか?

 そっちの方が手っ取り早いと思うんすけど」

 すると、ヴァネッサの方から声をかけられ、何やらおかしな提案をされたのであたしは即座に却下する。


「駄目に決まってますわ! あたし達の仕事はただの手伝いでしてよ! 勝手なことをすればあたし達だけでなく全体を危機に陥らせる可能性があるのですわ!」

「むぅ、分かったっす......」

 渋々といった様子で引か下がったヴァネッサにあたしは内心でため息を吐く。


「はあ......

 貴方の気持ちは分かりますが、今は我慢してくださいまし」

 どうにかして役に立ちたいという気持ちは痛いほど分かりますが、空回りされては元も子もありませんわ。

 そう思っていると第3中隊長が走る速度を上げながら声を上げる。


「俺らが先行するからお前らは後から来いよ!」

「了解!」

 あたしの返事を聞くこともなく見たことのない武器を構えた第3中隊長と両手に短機関銃を1挺ずつ持ったもう一人の鎧はその先にいる味方を囲っている敵へ攻撃を開始した。


 まずは第3中隊長の持つ武器が眩い光と大きな音を立て、銃口から放たれた何条もの黄色い光が近くにいた狼のような姿をした鋼獣という敵の横っ腹に当たった。

 そして、倒れる狼を見て動きが止まった他の鋼獣達へもう一人の鎧がすかさず2挺の短機関銃を乱射し、脚を破壊していった。

 完全に動きが止まった鋼獣達へ2人が剣に持ち替えて叩き斬ったり至近距離で銃を撃ったりで着実にとどめを刺していった。


「す、凄いね......」

「ええ、まさに熟練のなせる業ですわ」

「動き自体は遅いっすけど、一切無駄が無いっすね」

「とにかく、あたし達は彼らの邪魔をしてくる敵を撃つだけですわ。

 あたしは右に行きますわ。貴方達は左を」

「「了解」」

 倍以上はいた敵を無傷で、しかも、短時間で始末した彼らの腕前にあたし達は驚くことしかできなかったが、すぐに自分達がすべきことを思い出してあたしは指示を出した。

 そして、左右に散開しながらあたしは目の前の彼らに向かってくる鋼獣へ突撃銃を構えた。


 彼らの動きからして鎧や銃については一般的な兵器の類であり、おそらく、あたし達のものも姿形が若干違いますが、大きな問題は無いと判断できそうですわね。でも正直、今までとは全く異なる状態で鋼獣という未知な敵といきなり戦闘をしなくてはならないなんて危険すぎて今すぐに降りたいところですわ。けれど、あたし達の今後が関わってるというのもありますが、戦場に立つ軍人として、それと、あたしの矜持としてここはやらざるを得ませんわね。


 まずは牽制するつもりで外してもいいから数発ずつ撃ち込んで様子見をしますわ、とやるべきことを決めたあたしは早速、突撃銃の引き金を引いた。

 ビュンッビュインッという音と共に赤黒い光弾が十数発飛び出し、そのまま虎や狼の胴体に全弾命中した。そして、被弾した鋼獣は全て倒れ、二度と動くことは無かった。


 まさか、いきなり命中するとは。それに、彼らの武器より明らかに威力が上ですわね、これ。残弾や再装填の方法など色々と気になることがありますが、まずは、最も気になることについて解決しておかないといけませんわね。

 思考を切り変えたあたしは第3中隊長達付近の敵の掃討と安全を確認した後、第3中隊長と合流する前に急いでヴァネッサ達と合流をし少し話をする。


「ヴァネッサ、貴方、射撃の腕があったのですね」

 遠目で軽く見た程度ではあったが、ヴァネッサとイザベラが攻撃をした鋼獣は2人の射撃により全て倒されていた。


 イザベラに銃の腕前がある程度あることは知っていましたが、まさか、ヴァネッサが至近距離以外の距離で正確に当ててくるとは思いもよりませんでしたわ。

 まあでも、鎧のせいで身体が大きくなっていますし、鋼獣とやらも同等の大きさで、さらに、普段通りの距離感とは全く違いますし、って、そうなると、ますます謎が深まりますわね。


 と、無意識に思考がズレ始めていっているとヴァネッサが不思議そうな様子で答える。


「うーん。この銃も手になんか普段と違った変な感じがするんすけど、そんなことよりも、なんか撃とうとする度に身体が勝手に動かされる感じがするんすよね」

「身体が勝手にとはどういうことですの?」

「うーん......」

 彼女の言葉を受けてあたしは内容があまりにも突飛すぎて理解に困った。

 もしかしたら、鎧によって自分達の身体に何かしらの変化があるのかもしれないと判断したあたしが戦闘中であるにもかかわらず詳しい話を聞こうと彼女に尋ねるが、なかなか言葉が出てこないのか彼女はしばらく唸ってから諦めたのかまるで吹っ切れたかのように大きな声で話す。


「よく分かんないっす! とにかく銃で撃とうとすると身体が勝手に動かされるような気持ち悪い感覚を覚えるっす!

 泥の中で身体を動かすような、地味に動きも鈍くなるような感覚もあって凄く嫌っす!」

「イザベラも身体が動かされるようなのは感じるけど、そんなに嫌な感じはしないよ? なんていうか、助けてくれるような感じがする。

 それに、この銃、鎧に溜められた魔力のようなものを弾にしてるのかな? しかも、魔力のようなものの回復速度がかなり速いみたい。

 ......もしかしたら......これならイザベラだって役に......」

 ヴァネッサの言葉すら理解できないというのにイザベラからの感想という名の情報提供を大量に受けてあたしはさらに困惑する。


「うーん。これはどういうことなんですの?」

 思えば、イザベラも実戦経験が少ないどころかほとんどないので射撃能力が十分であるかは未知数であった。だが、先ほどの結果は十分すぎるものであった。

 鎧による何かしらの影響と考えたほうが良いんでしょうか? となると、あたしやエレナ隊長達にも影響が出ているんでしょうか? と色々と考え込んでいると第3中隊長が慌てた様子で駆けつけながら話しかけてくる。


「お、おい、お前ら! 何なんだよ今のは!」

「ひぅっ!」

「えっ、あのっ」

 鬼気迫る感じだったのであたしは咄嗟に上手く言葉が出ずに変に狼狽してしまった。

 何か不味いことがあったのでしょうか? もしや、あたし達の正体に感づかれましたの?

 と、あたしがヴァネッサの後ろに隠れ出したイザベラの様子を一瞥しながら不安になっていると第3中隊長は後ろから走ってきたもう一人の鎧に左肩を掴まれ制止させられる。


「隊長、落ち着けって。一番後ろの奴さんなんか怯えてるように見えるぞ」

「あ、ああ。すまない。

 今のがアイアンメイデンの能力かと考えたらとんでもねぇと思ってつい」

 冷静になったのか、第3中隊長は一度あたし達に頭を軽く下げて謝罪をしてきた。

 何が何だか分かりませんが、とりあえずは大丈夫ということで良いんですのよね? と少しばかり不安が残る中、彼は咳ばらいを一つする。


「ゴホンッ。

 単刀直入に言う。お前らの戦闘能力が十二分あることが分かったからにはお前らをガンガン使っていこうと考えているんだが、問題ないよな?」

 己の実力ではなく鎧と武器の性能を評価されるというのは何だか複雑ですわね。おっと、そんなことより、ガンガン使うということはあたし達をこき使うつもりなのでしょうか?

 と、彼の言葉を聞いたあたしが警戒を強め、詳しい話を聞こうとする前にヴァネッサが即答してしまう。


「大丈夫っす! あんな奴ら、俺が引きちぎっては他のやつにぶん投げて叩き潰してやるっす!」

「ちょっ、ヴァネッサ!」

「イ、イザベラもやるよ!」

「貴方まで!」

 あたしは内心で頭を抱えた。

 ヴァネッサはともかく、イザベラがここまで考え無しな行動をとるなんて彼女に一体何かあったのでしょうか? エレナ隊長かエミリーがいればこの場を収めることができたのでは? あたしには班でもまとめることができませんとは、副隊長として情けないですわね。

 と、あたしが心の中で弱音を吐いていると第3中隊長が若干引いた様子で頷く。


「お、おう。そうか。

 ......本当になんなんだコイツ等」

 その後、彼は気を取り直した様子で話を始める。


「とにかく、足の速いお前らは先行してくれ。俺らは仲間の救助を優先し、終わり次第お前らの援護に向かう。

 キツイだろうが、なるべく俺らの方に来ないよう多くの敵を引き付けてくれると助かる」

 少々厳しい内容ではありましたが、不思議と何とかなりそうですわね、と判断したあたしは彼の指示を普通に受け入れる。


「ええ。了解しましたわ」

「よし、じゃあ次へ向かうぞ!」

 そして、彼が言葉を発し終えると同時にヴァネッサが手に持っていた武器を適当に投げ捨て、丸腰のまま飛び出し始める。


「っしゃぁ! ここでたっくさん敵をぶち殺して活躍してみせるっすよ!!」

 そのまま、腰にあった短い筒を両手に持ち、赤黒い光の刃を出しながら物凄い速度で鋼獣めがけて走り始めた。

 あたしは慌てて制止しようと声を上げる。


「待ちなさい! 一人で突っ込んで行っては危険すぎますわ!!」

「あ、あれはまさか、ビームソード!? 完成していたのか!」

「え?」

「ま、待ってぇ!!」

 あたしは急いでヴァネッサの後を追いかけようとするが、第3中隊長も言葉にわずかに足を止めてしまい、その隙にイザベラが先へ行ってしまった。


 ああもう! こうなったらヴァネッサとイザベラを止めるのではなく手助けをしないといけませんわね! これならエレナ隊長と代わったほうが、いや、能力的にあたしよりも隊長が護衛をした方が効率的でしたし、個人的に護衛は好きじゃありませんし、サラーがいるから負担は変わらない気がしますわね。彼女は何故かあたしを敵視していますし、隊長がいない時のあたしへの態度と言いますか殺意と言いますか......

 と気が遠くなりつつ色々と考えながら後を追いかけて走っていると、ヴァネッサが狼めがけて右手に持った光剣を大きく振り上げながら接近する。


「うらぁっ!」

 そして、勢いよく首めがけて振り下ろし、ドゴーンッという轟音と盛大な土煙を上げた。

 一瞬だったが、あっけなく鋼獣は首を斬り落とされ、勢い余って光剣は地面を切り裂いたのが一瞬だけ見えた。


 鋼獣の見た目から魔獣よりも硬い可能性と小刀を扱う感覚で思いきり斬りかかったんでしょうけど、銃の光弾で熔けていたのが確認できていましたし、光弾と似たような性質っぽい光剣で斬りかかれば、少なくとも小刀よりは斬り込めるはずですのに力み過ぎですわ。


 と、あたしは考えていたのだが、煙が晴れ、ヴァネッサとその周辺の様子が確認できるとそれが間違いであったと分からせられた。

 これは流石に予想を超えていますわね、とヴァネッサの前に光剣によってできた、ドロドロに溶けた地面を確認したあたしが光剣の能力に恐れおののいていると彼女は周囲に敵がいるにもかかわらず光剣と倒した敵を交互に見つめながら首をかしげる。


「......え? あれ?

 なんか、あっけなく終わったっすね。手応えが無さ過ぎて違和感が半端ないっす」

 色々と気になることが多くあったが、そんなことよりあまりに無防備な彼女の様子にあたしは咄嗟に声を上げる。


「ちょっ! 何をボーッとしてますの!?」

「メリーナお姉ちゃん! ここはイザベラに任せて!!

 あの人もできてたみたいだから、短機関銃2挺でもちゃんと扱えるはずっ!」

 だが、そこへあたしよりも先を走っていたイザベラが左右に1挺ずつ持った短機関銃を構えて発砲し始めた。

 2挺銃なんて無茶を、それに、ヴァネッサに当たったらどうするつもりなんですの、と様々な不安がよぎったがそれをもろともせず、イザベラは1発もヴァネッサへ当てることなく周辺の敵を見事掃討してみせた。


 イザベラがここまで射撃能力があったなんて、あたしでは無理ですわね......

 そう思いながらわたしもヴァネッサの援護をしていると後ろから第3中隊長の声が聞こえる。


「アイアンメイデン、これは予想以上だな......

 っと、んなことしてる場合じゃねぇ」

 彼の反応から今のあたし達が彼らから見て異常ということがなんとなく分かったのだが、どう振る舞えば良いのか分からず、とりあえず戦場を切り抜けることに集中すべきという問題の先送りをしていこうと決めた矢先にヴァネッサが光剣を腰に仕舞ってから地面に落ちていた見るからにボロボロの銀色の剣を左右に1本ずつ拾い上げる。


「お? この落ちてる剣、試し斬りに良さそうっすね。まあ、両刃剣なんて扱ったこと無いし、ちょいとボロいっすけど多分いける気がするっす。これ貰ってもいいんすかね、って色が変わったっす!! しかも綺麗になってるっすよ!!」

 彼女が剣をマジマジと見つめて好き勝手に喋っていると突然、両刃剣が黒色にそして、ボロボロだった刀身がまるで新品のように刃こぼれない姿へ変化した。


「ヴァネッサ! 貴方何をしてますの?!」

 十分すぎる武器を持っているにもかかわらず、落ちている朽ちかけの武器を使おうとする意味がよく分からなかったし、金属製の武器の状態を変えるという原理も訳も分からないことをやっている彼女にあたしが問い詰めようとするが、彼女は慌てた様子で首を横に振る。


「お、俺は何もしてないっすよ! ただ手に持っただけで――」

「まだ敵が来るよっ!」

 っく! 今はそれどころではないですわね、とイザベラの警告でヴァネッサへの追及を切り、迫りくる狼に銃口を向けようとした。


「っと、そうは布団屋が卸売っすよ!」

 だが、あたしが撃つよりもヴァネッサが素早く接近し、右手に持った黒い剣を素早く振り上げて振り下ろした。

 すると、黒剣は額の魔石を避けつつ先ほどの光剣ほどではないがスッパリと切断し、地面に刃をぶつけることなく即座に引き上げられた。そして、ヴァネッサはその反動を利用して左の黒剣を斜め上に切り上げ左側から近接攻撃を仕掛けようとした虎を真っ二つにして葬った。

 その勢いのまま数体いた敵を、超速度で移動しながら二刀の黒剣を華麗に振るうヴァネッサによって綺麗に真っ二つに切り裂かれ行動不能となりあたしとイザベラにより絶命が確認された。

 

 なっ、ヴァネッサ1人で、かつ短時間で複数の敵を倒すなんて、と今まで起こり得なかった出来事にあたしが驚いていて銃を下ろすことさえ忘れていると彼女は黒剣を見つめながら呑気なことを言い始める。


「んー。やっぱ斬った感触が手にしっかり伝わってきた方がいいっすねぇ。あいつも喜んでいる気がするっす。

 てか、なんかこの剣、色が変わってから妙にしっくりくるというか安心するというか身体の一部みたいな感じがするっすね」

「それってどういう――」

 何を言っているのか分かりませんが、そんなことよりもとにかく今は先頭に集中してくださいまし、と言いたかったのだが、彼女の言葉の内容に若干の興味を覚えたあたしは言葉が出ずにいた。

 そこへ、ビービーというけたたましい音と共に第3中隊長が声を荒げる。


「おいっ! 気をつけろ! 一部の牛が俺らを狙ってきたやがるぞ! 一旦離れろ!!」

「え......?」

 思考があちらこちらへ迷走し混乱する中、なんとか目の前の空を覆うように飛ぶ大量の謎の飛行物体を視認し、あたしは声を荒げる。


「な、なんなんですの?! あれは!」

 見た感じですと光剣の出る筒よりも短い筒が火やら煙やらを吹き出しながらこちらへ突っ込んでくるサマを見たあたしは未知なる恐怖に足がすくんでしまった。

 そんなあたしにイザベラが報告を上げてくる。


「ミサイルって言う兵器の一種みたいだよ! 原理は分からないけど追尾してくるみたい!!」

 彼女の変わらぬ様子と発した言葉にあたしは、ハッと我に返って急いで指示を出す。


「ヴァネッサとイザベラはあたしの後ろに来て迎撃をしなさい!!」

 エレナ隊長ならこうしていたはずですわ、と思いつつ一人分くらいしか守れそうにない左腕に装備した小さな盾を構えているとヴァネッサから声をかけられる。


「ふくたいちょー! 俺は大丈夫っす! イーザちゃんを頼むっすよ!!」

 まさかの返答にあたしは心底驚いたがここで詰まるわけにはいかず、すぐに彼女へ言葉をかける。


「分かりましたわ! 貴方は無茶しないでくださいまし!!」

「了解っす!!」

 なんだかんだでヴァネッサであればどうにでもするはずですわ、と信頼しているのか丸投げしているのかよく分からないやり取りをした後、あたしは迫りくる筒に集中し、試しに突撃封を発砲し撃ち落としてみた。

 すると、光弾があった筒は爆発を起こし周囲を明るく照らした。


「ば、爆発した......

 爆弾、みたいなものなの、かな?」

「この威力......父、いえ、空戦隊が扱っていたものよりも威力が高そうですわ。これは鎧を着ていても喰らえばひとたまりもありませんわね」

 正確な爆発の威力は分からなかったが、生身で受ければ間違いなく致命傷となるだろうということだけは分かり、鎧の防御力を過信せずになるべく撃ち落とすか盾で受けきるかするよう心掛けて迎撃作業に集中しつつあたしはヴァネッサの様子を確認した。


「追いかけてくると言っても動きが遅すぎて余裕っすね」

 彼女は多方向から迫ってくるミサイルを掠ることなく軽々と避け続けていた。

 避けたミサイルは執拗に彼女を狙い続け、やがて地面に着弾して爆発していくが、彼女はそれを一切見ることなく爆発範囲から逃れていた。

 前以外にも目が付いているのでは? なんてことを思いながらあたしは感心の声を上げる。


「速度は遅くてもあれだけの量をヴァネッサはよく避けれま――」

「避けるのが面倒だししつこいから一旦、光る剣で斬り落としてみるっす」

「えっ? ちょっ、何を言――」

「んー? 背中の銃が1挺だけ邪魔みたいっすね。要らないから全部捨ててもいいっすかね?」

 なんとヴァネッサは突然背中の銃を全て地面に落とし、代わりに両手に持っていた黒剣を背中に仕舞い、光剣を取り出し、追いかけてくるミサイルへ斬りかかり始めた。

 光剣に斬られたというより触れた瞬間にミサイルは爆発をし、炎と煙がヴァネッサを包み込んだ。


「ヴァネッサお姉ちゃん!」

「ぶ、無事ですの?!」

 突然の出来事にあたしとイザベラはすぐに駆け寄ることができずにミサイルを迎撃しつつ心配していると、再び爆発音と煙が発生し、煙の中からピンピンしているどころか次々とミサイルを斬り落としているヴァネッサが飛び出してきた。


「大丈夫っす! ちょっとだけ痛みを感じるくらいっす! 咳込んだり痛みをあんまし感じたりしないの、なんか気持ち悪いっすね。まるで化け物みたいっす......」

「な、なんて無茶を......」

「無事で良かった......」

 あたしは安堵しつつ光剣でミサイルを迎撃し続ける彼女の行動に呆れかえっていた。

 そして、そんなヴァネッサの行動を見たイザベラは不安になったのかヴァネッサへ向かうミサイルを優先して迎撃するようになった。

 飛んでくるミサイルの数が徐々に減っていく中、突然ヴァネッサが大きな声を上げる。


「あっ! こんなことしてる場合じゃないっすね! 攻撃中な今が好機っす!! あの厄介そうな牛野郎をぶち殺がすっすよ!!」

 言うな否や光剣を仕舞って黒剣を取り出しながらミサイルを撃ってきた牛の集団がいるであろうところ目がけて物凄い速さでミサイルと敵の群れの中を駆け抜けていった。


「あっ、待ちなさい!! これ以上勝手な行動は――」

「待って! イザベラも手伝うよ!!」

「なっ!」

 あたしは急いで止めようと声を張り上げたがヴァネッサがこちらへ振り向くとも速度を落とすこともせず、あろうことかイザベラまでもが後に続こうと飛び出して行ってしまった。

 これは不味いですわ、とあたしも急いで追いかけようとするがいつの間にか背後にいた第3中隊長に止められてしまった。


「あっ、おい! 牛への攻撃はまだだ、って聞いちゃいねぇ! そこのお前! なんでもいいからあいつ等を止めろ!」

「分かっていますわ! ですが、声が届かないみたいで、あたしが直接――」

「ちぃっ! まだ戦線の立て直しが終わってねぇからここを離れるわけにはいかねぇし、不確定要素が多すぎるあいつ等を放っとくわけにもいかねぇ! おい、通信機はまだか!

 ......ったく、本当になんなんだよお前等は!」

 ま、不味いですわ。何もかも色々と不味いですわ! あ、あたしは一体どうすれば......エレナ隊長、助けてくださいまし。

 そうあたしが弱音を吐きながら残ったミサイルの迎撃をしていると1条の細長く赤黒い光がいつの間にかあたしの前に現れていた敵を貫いた。


 まさか、と思ったあたしは光が飛び出してきた方向へ顔を向けると2人の黒い鎧が走ってくるのが見えた。


「大丈夫か、メリーナ! 何があったんだ!?」

「エレナ隊長!!」

 これで助かりますわ!」

 あたしは心の底から安心し、急いでこれまでの経緯を手短に説明した。

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