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初陣1

「お前ら人間、なのか?」

「......え?」

 突然、声的におそらく男性と思われる左肩が赤い鎧から声をかけられ、聞き取ることができたのだが、相手の意図が全く理解できなかった私は上手く答えることができず戸惑ってしまった。

 そんな私の様子を察したのか、相手が再び質問をしてくる。


「アンドロイドだかAIだかじゃねぇんだよな?」

「えっと、違いますが......」

 アンドロイドという言葉は、たしか研究所にいた女性たちが使っていた言葉であったと思い出していたが、意味が全く分からず、AIという言葉も同じく知らなかった私は相手の雰囲気から分からないと答えるより違うと答えたほうが良いはずと思い、そう答えた。


「そう、か......」

 すると、彼は右手を口元に当て、考え事をしているのか黙ってしまった。


 答えを間違えたのか? いや、それだったらこうはならないはず。どうしたものか。あ、言葉は通じていたみたいだったな。となると皇国に近い国ということになるのか? だが、皇国の周囲なんて帝国しか知らないぞ。もし、ここが帝国ならヴァネッサが気づくはずだ。何も分からないな。いや、そんなことよりも今はこの人と話をしないと。


 そう考え私は、考え事をしているらしい彼にゆっくり声をかける。


「あの......大丈夫ですか?」

「あ、ああ。すまねぇ。えっと、指揮官か」

 一応、私の言葉を覚えていたらしく、彼は考え事を止め、私に向かって話し始める。


「指揮官がどこまでを指すかは分かんねぇが、俺は右翼大隊第3中隊の隊長をやっているも――」

「ちゅ、中隊長殿でありましたか!」

 前線に出ていたので小隊長かと思われていた彼が中隊を率いる立場にいることを知った私は彼の言葉を遮ってすぐさま敬礼をした。

 この国の敬礼がどのようなものかは分からなかったが、明らかな上官に対して礼を欠くのは軍組織である以上、非常に不味いと判断し、敬礼をしながら謝罪の言葉を並べようとする。


「こ、これは大変失礼を――」

「んなことたいい。お前らはどういう命令を受けてんだ」

 だが、彼は敬礼や謝罪を払いのけ、私が言葉を遮ってしまったことさえも気にしていない様子で簡単な質問をしてきた。

 彼の雰囲気から、緊急時には余計なものをバッサリと切り捨てるのだろう、と察した私は余計な言葉を飾らずなるべく端的に言おうとする。


「えっと、私達は特に何も受けていません。その、指揮官の指示に従い、防衛に協力しろとしか......」

 実際問題、あの女性から具体的な作戦指示や命令を受けておらず、現地の指揮官の指示を仰げとしか言われていない。

 普通、軍ではこんなお粗末な命令は出ないはずなのだが、他国だからか、と私が勝手に決めつけていると彼が呆れた様子で喋る。


「はぁ? なんだその雑な命令は」

「す、すみません......」

「いや、お前が悪いというわけではないんだが、クソッ、やりづらいな......」

 怒られたと思った私は咄嗟に謝ったのだが、何故か彼は疲れたような声で呟いていた。

 やはり、私達が受けた指示はここでも可笑しかったのか、一体何がどうなってるのか、と私が少し混乱していると、彼が一度大きなため息を吐いてから指示を出してくる。


「はぁ......まあいい。じゃあ、お前らは俺の指揮下に入れ。

 ......ってお前ら、専用の通信チャンネル無ぇのか。一旦砦まで戻れ。リュカ、ああっと、俺んとこの副隊長に通信機を渡すように伝えておく。急げよ」

「了解! 皆、行くぞ!」

 通信チャンネルというものがどういうものなのか分からなかったが、おそらく通信機器関連のことだろうと思い、これが無いと戦況把握や他小隊との連携が難しくなり戦闘に苦労をするだろうしエミリーやイザベラを後方に置くことができると判断した私は言われた通り皆を率いて砦へ向かって走り出そうとしたが、彼が慌てた様子で止めに入る。


「あ! ちょっと待て!

 半分はここに残って援護を、残りの半分は砦に向かいつつこのゲルダの護衛を頼む!


「りょ、了解!! 全員止まれ!」

「おっとっと」

「ルイはレオとこいつらの援護を、ユーゴはここに残れ」

「「了解!」」

 私は急いで後ろにいるであろう皆へ振り向きながら命令を出し、誰がここに残るのかを決めるべく話し合おうとした。だが、ヴァネッサがつんのめる身体を何とか堪えているところを視界の隅に捕らえてしまい、私がそちらに気を取られている間にメリーナに先を越されてしまう。


「エレナ隊長、誰がここに残りま――」

「たいちょー! 俺が残るっすよ!!」

 本来なら私が切り出すべき話をメリーナがやってしまったが、結果として皆が真剣に話し合う状況になり、持ち直したヴァネッサが遮るように名乗り出た。


「イ、イザベラも残るよ!」

「イーザが残るなら......私も残る......」

 これに続くようにイザベラも手を上げながら名乗り出ると、彼女の言葉を聞いてエミリーが反応する。

 本来であれば時間が無いこの状況下ですぐに半数が決まることは良いことなのだが、これは不味い、と思った私は慌てて止めに入る。


「待て、落ち着け。

 サラーは狙撃手だから後方に、ヴァネッサは前衛向きだから前線に置くとして、私かメリーナのどちらかを置かないと統率が取れなくなる。エミリーかイザベラのどちらかがここに残るしかない」

 本当はエミリーとイザベラを後ろに置いておきたかったが、サラー含めた3人のみで護衛をしつつ状況不明な戦場を走らせるのは非常に不安であった。

 なので、エミリーかイザベラのどちらかをここに残しておかなければならず、その選択に私も悩んでおり中々決められなかった。


「エマお姉ちゃんが行って。通信機はお姉ちゃんが扱った方がいいと思う」

「でも......」

「すぐにまたこっちと合流すれば問題無いっすよ!! その間、俺がイーザちゃんをしっかり守るっす!!」

「貴方では色々と不安ですわね。

 隊長、あたしが残りますわ。貴方は護衛をしてくださいまし」


 隊長である私が情けなくも決めることができずうだうだしている間に覚悟を決めたかのような雰囲気でイザベラがエミリーに話しかけており、そこにヴァネッサが参加し、メリーナによってきれいに纏められていた。


「分かった」

「たいちょーサンのことは僕がしっかり守るから安心してね~」

 メリーナに話を振られ、これ以上に良い案が浮かばなかったので私は頷くしかなく、頼もしい言葉をかけてくれたサラーに礼を言いつつ未だに納得していない様子のエミリーへ言い聞かせる。


「ありがとう。

 エミリーもそれでいいな?」

「了解......」

 エミリーには申し訳ないが、砦まで下がったらそのまま彼女をそこに置いておけば安全だろう。

 そう思いつつ私はサラー、エミリーと共に荷物、おそらく鎧の人が乗っている部分を複数背負い、そして手に持った黄色い鎧と一人の白い鎧の元へ集まった。その際にメリーナ達の方を一瞥してみると、メリーナ、ヴァネッサ、イザベラは左肩の赤い鎧ともう一人の白い鎧の付近に集まっていた。


 気を取り直して目の前にいる、たしか、ゲルダと言われ、中にレオと呼ばれる人物が乗っており、武器を持たない代わりに仲間の残骸、と言ってもおそらく、腹部あたりが無事であるため中にいる人は無事と思われるものを持った黄色い鎧とルイと呼ばれていた人物が乗る白い鎧に向かって私は緊張した面持ちで話をする。


「えっと、そういうわけですので私達が貴方達を砦まで護衛します。

 色々と分からないことが多いので指示や命令を出していただけると、その、助かります」

 最後部分が少々変になってしまったが、多分伝わったはずだ、と私が緊張のあまり言葉遣いが不十分になってしまったことに反省をしていると、ルイ殿とレオ殿が普通に話しかけてくる。


「分かりました。基本はそちらの好きにやってもらって構いませんが、必要なときはこちらから指示を出します」

「あ、ああ。俺、あいや、こっちこそ頼む」

 彼らの様子から特に変な風には見られていないのだなと安心した私は配置についてサラーとエミリーに指示を相手にきちんと聞こえるように出す。


「私が先頭を行きます。

 エミリーは護衛対象の右隣を、サラーは後ろを頼む!」

「「了解!!」」

 これを聞いたルイ殿は特に反論をすることもなく、彼らの配置について話し始める。


「こちらもそれで問題はありません。

 レオは中央にいろ。私は左を行く」

「了解!」

 配置についての話を済ませて皆が動く中、私は盾を持つ左手が震えているような気がして、一度心の中で大きく深呼吸をして未だに残る不安と共に鎮め、右手に短機関銃を持ってから声を張り上げる。


「行くぞ!」

 私の声と共に全員が大きな砦に向かって走り始めた。

 移動しながらの護衛はしたことが無いが、自分達の支援車両を囲いながらの移動は経験があったので、私はその経験を活かすべく、神経を耳に集中させて聞こえてくる数多くの音の精査をしつつ必要な音を漏らさないようにしながら走っていった。

 レオ殿はおそらく4つ分の鎧を持っているせいで脚が遅いのだろう、それに合わせるようにルイ殿も若干先行しているとはいえ足がかなり遅い、と後ろの状況把握を振り返ずに音でしつつ移動速度の調整をしていると、エミリーの走る速度が速いと判断したので私は顔だけ彼女の方へ向けて注意をする。


「エミリー、少し速度が速い! 対象の動きをよく見て合わせろ!」

「りょ、了解......!」

 彼女はまだ随行関連の任務や行動の経験が無い。なので、いきなりあれこれと指示を出すわけにもいかず、護衛として全く意味が無いが私は一番手っ取り早い方法を教えた。

 こんなことになるなら多少無理をしてでもエミリーとイザベラに経験を積ませておけばよかった、と私が後悔をしているとサラーから声が上がる。


「右前方から敵がくるよ~」

 彼女の言葉を聞き、すぐさま気持ちを切り替えた私は言われた方角を向き、かなり遠いが。明らかにこちらへ向かってきている鋼獣の集団を確認した。

 そして、私は気になることがあったので、それを調べるべく鋼獣の対応について話す。


「分かった。私がやる。

 この武器について知っておかないと。まずは牽制で様子見だ......」

 この短機関銃、イザベラが地面に撃ったものと同一のもだと思うが、弾や再装填、威力など諸々武器として必要な情報を調べ切れていない、サラーの使っている狙撃銃の能力を基準にしてみればかなりの高性能だと思われるが果たして、と無意識に右手に力が入るがすぐに気づいて適度に力を抜きつつ先頭を走る虎のような鋼獣へ短機関銃を右手のみで構えて軽く引き金を引いた。


 ビュビュビュンと3つの赤黒い光弾が寸分違わず綺麗に真っすぐ並びながら鋼獣へと飛び出していき、左前足の付け根付近に当たり、足が千切れ飛んだ。

 そのまま、前のめりに倒れながら地面を滑っていく様を見ながら私は短機関銃の感想を述べる。


「今まで使ってきた武器と基本的な部分は変わらないか。しかし、狙撃銃もだったがこの武器も凄い威力と命中精度だ。あんな遠距離なのにこの結果とは。そして問題は、弾数が分からないといったところか。

 無暗に撃てないが、威力が高いことが幸いか」

 最初は敵が弱すぎるかと思ったが、ここの兵士が苦戦している様子からすぐにこの武器が強すぎるのだと判断した私は、強すぎるが故に何らかの制限があるものと考え、慎重に扱っていこうと決めた。


 そして、3発ずつ撃つように心掛けながら他の鋼獣の前足を狙って撃っていると、私の右後方からビュンッという音が聞こえ、短機関銃のものではない少し大きめな赤黒い光弾が数発飛び出しては私が撃った身動きの取れなくなっていた鋼獣の身体を破壊していった。


「おそらく、この鎧にある魔力のようなものによって弾が生成されていると思う......」

 一瞥してみると突撃銃を両手でしっかり構えながらエミリーが聞こえるような声で自身の考えを喋っていた。


 なるほど、この鎧は防御や身体能力強化以外に魔力を蓄えるための容器のようなものの役割があるのか。となれば、青白い炎を出す能力強化のようなものも鎧に溜め込まれた魔力を使っている可能性があるのか。

 そう私が考えているとサラーが狙撃銃で集団後方の鋼獣を撃ちながらエミリーの説に反応する。


「僕もそれに同意かな~。

 この武器を使った時や皆で走ってた時に視界の隅にエネルギーゲージとかいうよく分からないものがあったけど、それと関係があるかもね~」

 確かに言われたとおりに視界の隅に青色で示された謎の棒状のものがあり、短機関銃を撃つとわずかに減り、減った部分が黒くなっていた。


「回復方法が不明だけど......どうやら時間で回復するみたい......

 まるで魔力みたい......でも魔力じゃない......

 詳しく調べたいけど時間が無い......イーザなら何か分かるかも......」

 そして、すぐに青色が黒色を塗りつぶして元の状態に戻った。


「エネルギーゲージとやらが減ったとしてもあまり疲れを感じないところが少々怖いところだな。ただ、再装填をする必要が無いという点では多少の便利さはあるな。

 まあとにかく、何か気になることがあれば遠慮なく言ってくれ」

 あまり希望的観測はしないほうがいいと思うが、この状況で出し惜しみは危険だな、と最終的に判断した私は近づいてくる鋼獣に短機関銃を連射で倒していった。


 この時、ふと、武器だけではなくこの鎧もかなり高性能な代物なのではないかと私が思い至っていると後方でルイ殿とレオ殿が驚愕した声を漏らしているのが聞こえてくる。


「あれが、アイアンメイデンの力......」

「す、すげぇ......

 この力があれば俺にも......」

 不味いな。詳しいことは分からないが、状況から察するにこの鎧は研究中の最新鋭試作機で、私達はこれの実験のようなものに巻き込まれたに違いない。

 これは、非常に不味い。軍の機密中の機密じゃないか。これを他国の私達が使っているなんてことが発覚したら機密保持のために拷問の末に射殺されてしまうのではないか?

 本当にどうすれば、と私の鼓動が今まで以上に早くなっていくなか、サラーに声をかけられる。


「右からくるよ~。あと後方からも~」

 我に返った私は言われた方向へ顔を向け遠くから迫りくる鋼獣の群れをじっと見つめた。

 やはり、なんとしてでも戦果を上げて私達の価値を示すしかないか。幸い、武器や鎧は正規兵と比べて高性能なようだし、これなら私達でも並みの戦果は上げられるはずだ。

 と改めて覚悟を決めた私はもう一度深呼吸をしてから指示を出す。


「エミリーは右後方を撃て。無理に狙わず足止めをするだけでいい。

 サラー、後ろは頼む。それが終わったらエミリーの援護だ。右横は私がやる」

「「了解!」」

 右後方からの方が数が多かったが、今のサラーとエミリーなら処理ができると判断した私は真横からくる鋼獣へ短機関銃で光弾をばら撒いて近接距離に近づかれる前に全てを処理した。

 盾や光剣の性能についても知っておきたかったが、護衛中なので下手に近寄らせることは避けておきたかったので後回しにすることにした。

 すべての敵を倒し終え、一息つく間もなくサラーから提案をされる。


「たいちょーサン、他の人も手助けしたほうがいいかな~?」

「待て。一度確認を取らないと」

 望遠システムのおかげで拡大して見ることができるとはいえ、私の目では詳しく見えないが遠方に苦戦している友軍がいるようだが、私の判断で援護を行って良いのか分からなかったのでルイ殿に聞いてみようとした。

 会話を聞いていたのか、私が尋ねるより前にルイ殿がサラーへ質問をする。


「で、できるのですか?」

「できるよ~。まあ、向こうの敵がこっちに来るかもしれないけどね~」

「そ、そうですか。ちょっと待って」

 彼女の回答を得て彼は誰かと通信しているのか無言になり、しばらくしてから声を上げる。


「隊長から許可が下りました。やってください!」

「了解~。ちょっと止まるね~」

 言うや否やサラーは立ち止まり、立射のまま狙撃銃の引き金を数回引いた。

 ビュインッビュインッという音と共に赤黒く細長い光弾がいくつも飛ぶ中、私達もサラーに合わせるべくいったん止まっていた。

 その後、少しして驚愕した様子でルイ殿が結果を報告してくる。


「鋼獣への命中及び撃破を確認......味方への損害は無し......ほ、本当にこんなことが......」

「結構な数の敵がこっちに来るよ~」

 やはり、サラーは凄い狙撃技術を持っているな、弾さえあればどれだけ活躍できていたことか、と私は隊長として申し訳なさを抱いていたが、構えを解かないサラーの言葉に思考を切り変えて返事をしつつエミリーに声をかける。


「分かった。エミリー、いけそうか?」

「大丈夫......」

「無理はするなよ。サラーもな」

「了解~」

 そして、私達は次々来る鋼獣を一度も近づけることなく葬りつつ砦へと向かっていった。

 時折、休憩を挟んで体調確認をして異常が無いことに安堵しつつ、気を引き締めて順調に進んでいく。


「なんなんだよ......こいつら......」


 しばらく走っていると大きかった砦の細部が良く見える位置まで近づいていた。

 私は周囲に敵がいないことを確認してから立ち止まって砦を見上げる。


「これが、砦か」

 この大きな鎧の目線から見上げてみても最上部をはっきり確認できないほど高さのある砦を見ているとエミリーとサラーが私の左右に集まってくる。


「遠くからでもそうだったけど......近くで見てみると......かなり大きい......横も、見えなくなるまで長い......」

「まるで大きな壁だよね~。所々に変な武器っぽいのが出てるし、この砦の奥に町とかあるのかな~」

 エミリーが左右を見渡し、サラーが所々にある武器のような構造物を観察していた。

 一体どうやってこんな巨大な建造物を造り上げたのか、こんな砦が皇国にあれば国民の生活は安全になっただろうか、などと考えているといつの間にか先に進んでいたルイ殿が砦に近づくと少しだけ周囲と色が濃い部分が突然上へ動き出し、通路が出現した。

 なんなんだこの砦は、と私が驚いているとルイ殿が手招きをしながら声をかけてくる。


「こちらに来てください。武器は納めてください」

「あ、了解!」

 私は急いで武器を仕舞って入り口をくぐり、通路を歩いていった。

 そして、大きな空間に出ると、そこには輸送機の格納庫のような空間であったが中にある物や人でごった返していた。


「レオのやつが、ゲルダが帰ってきたぞ!!」

「おいおい、無傷で帰ってきたってのか?! ヤベェな!」

「んなことよりも急いで達磨ガルドの付け替え作業の準備を始めろ!」

「おい、あれってアイアンメイデンじゃねぇか?」

「すっげぇ! ほんとに動いてるぜ!」

「おい!! 無駄話してんな! 口じゃなく手を動かせ馬鹿野郎!!」


 輸送機の中は必要最低限の物しかなく、人の動きも統一されていたようだったが、ここは、その、かなり喧騒的だな、と私が耳を澄まさなくても聞こえてくる声や物音を聞いているとルイ殿が再び手招きをしながら声をかけてくる。


「このエレベーターに乗ってください。

 レオはそこでおやっさんの指示に従え」

「了解!」

「りょ、了解!」

 下を走り回る人達を踏まないように気を付けつつ、私はエレベーターという他の床よりも厚みのある板の上に乗り、奥へ進み振り返って待機した。

 そして、サラーとエミリーが乗り込み、最後にルイ殿が乗ると床は上へと動き出した。


 エレベーターが空間の半分ほど昇ると真上の天井が左右に横へ動いて光が差し込んできた。そのまま昇っていくと私達は外に出た。

 周囲を見ると他にも多くの鎧がいたので、おそらくここは砦の最上部なのだろうと思い、そのまま周囲を観察しているとルイ殿が一人の白い鎧に声をかけていた。


「リュカ副隊長。アイア、いえ、特戦機を連れてきました」

「ご苦労。通信機の用意は済ませてある。ジュール軍曹!」

 ルイ殿に声をかけられていたリュカ副隊長殿が左後ろにいた白い鎧に声をかけた。すると、その白い鎧ことジュール軍曹殿は両手で収まるほどの大きさの鞄のような銀色の箱を開けながらリュカ副隊長殿に近づく。


「はい。こちらにありますぜ。

 規格が分からなかったんで、質は落ちますがユニバーサル仕様を用意しましたぜ。耳につけるタイプとなってるんで簡単に装着できるはず。それと、簡易設定を済ませてるんですぐに使えるはずですぜ。

 あ、ちょいとこっちに来てくれませんかね?」

 リュカ副隊長殿が箱から2つの灰色の四角い機械のようなものを取り出す様子を見ているとジュール軍曹殿が私達を呼んだ。


「あ、了解!」

 ジュール軍曹殿に呼ばれたので急いで近くまで歩いていくと、彼が別の黄色い鎧に箱を持たせ、代わりにそこから機械を手に持つと私に近づき、ゆっくりと私の両耳に機械を取り付けた。


「くっ!」

 キーンと耳鳴りがしたので耳に手を当てたくなったが、状況を鑑みて何とか我慢し顔をしかめている間にジュール軍曹は右側に寄り、私に向けて手を差し出しながら他の鎧に何かを話していく。


「このように左右の顔横につければあとは自動で通信設定が、って、え?」

「黒くなった? これはそういうものなのですか?」

「いえ、聞いたことがありませんぜ。ただ、今まで使ったことが無いんで、もしかしたら装着完了の目印的な機能の可能性があるかもしれませんが、確認するためには一旦格納庫に戻らないといけませんぜ」

「いや、今は悠長なことをしていられない。とにかく、使えるか今すぐに確認してみないと」

 私が耳鳴りを治めるために魔力の操作に集中し、治まった頃にはサラーとエミリーの耳にも機械が取り付けられていた。

 私は急いで止めようとしたが間に合わなかったが、2人とも耳を痛がる様子が無かった。

 我慢している可能性もあるので声をかけようとすると突然声が響いてくる。


『特戦機、聞こえますか? 聞こえるなら返事をしてほしい』

 これは、通信機によるものか? と突然の出来事に気を取られて考えているとサラーとエミリーの声が聞こえてくる。


『聞こえま~す』

『聞こえ......ます......』

 良かった無事みたいだな、と思った私は自分が返事をしていないことに気づいて慌てて返事をする。


『は、はい。聞こえます』

『全員、問題なく聞こえているみたいなのですがちょっと変ですね。普通、画面に表示されるのですが、これだから出ないのか?』

 何か問題があったみたいだが、大丈夫だろうか? と私が少しハラハラしているとリュカ副隊長殿はそのまま話を進めていく。


『まあとにかく、音声通信自体は問題ないみたいですね。

 第3研究所の方から右翼司令部経由で我々に簡易指示書が届き、許可が下りたのであなたたちのことは一時的ではありますが我々第3中隊が管轄することになります』

『了解』

 私達に関する公的な書類が通ったということは私達が変に疑われることなく事が運んだということだなと安心半分と複雑な気持ち半分といった心境で私は返事をした。

 あとはサラーとエミリーを砦に残してメリーナ達と合流し、全員が無事に生き残りつつある程度の戦果を上げるだけだな、と私がより一層気合を入れながら話を聞いていると彼の様子に変化が起こる。


『あとはこれを残りの特戦機に、ん? 少し待て......』

 突然通信が切られ、誰かと通信のようなものをし始めた彼に私は、まさかここにきて私達のことについて発覚してしまったのか、と内心でソワソワしながらいつでも弁明できるように身構えているとサラーから通信が入る。


『たいちょーサン、なんか、ネッサとイーザが暴れてるみたいだよ~』

『何だと?!』

 一体それはどういうことだ、ヴァネッサはともかくイザベラがそんなことをするとは思えない、と思っていた私にリュカ副隊長殿から通信が入る。


『あの、すみません。貴方方の仲間がアダン隊長の声が届かない範囲まで行動しているみたいで。急いで通信機を渡してほしいとのことです』

『す、すみません......急いで向かいます』

 何が起きているのか正確に確認をしたいところだが、ここからじゃ遠すぎるので確認ができない。だから、急いでメリーナ達と合流しようとした私は、サラーにはここに残って狙撃による援護を、エミリーにはサラーの補助を頼もうとしたが、それを言うより早くエミリーが私に話しかけてくる。


『隊長......私も行く......

 ヴァネッサお姉ちゃんと......イーザの2人を止めるのに......隊長と副隊長では大変......

 敵の対応も視野に入れれば......人手は多い方がいい......』

 これは、どうすべきか。ヴァネッサはともかく、イザベラが暴れていることなんて一度もなかった。ヴァネッサを止められる人物であったイザベラがその有様であるならばメリーナだけで抑えるのは無理だろう。それに、私1人行っても無理かもしれないし、下手をすれば怪我をさせてしまうかもしれない。さらに言えば、この鎧を着ていて、鋼獣という未知の敵と戦闘中であるという普段とは明らかに違う状況だ。そして、通信機を運ばなければならないので片手が塞がってしまう。盾と青白い炎を利用した高速移動でなんとか無傷で掻い潜れるだろうか、いや、できそうにもない。


 と、彼女の言葉に私は色々と思案していくが最終的に反論できないと至り、彼女を連れて行くことを決めた。


『......分かった。

 通信機を持っておいてくれ』

『了解......』

 通信機の入った鞄を持たせれば少なくとも無茶はしないだろうし、私も手が空くので対応がしやすい。

 そう考えてエミリーに指示を出した後、すぐにサラーにも指示を出す。


『サラーはここに残って援護を頼む』

『まかせて~』

 サラーのいつも通りな返事を聞いて少し緊張がほぐれた私が砦上部の城壁の隙間から下を見つつ、ここから飛び降りることができるかを輸送機から落とされたことを思い出しながら考えるが、そんなことを考えるよりも先ほどのエレベーターに乗って降りて外に出るのにかかる時間を踏まえれば多少危険でも飛ぶしかないと私は判断した。

 そして、私は大きく深呼吸をしてから声を上げる。


『よし、飛ぶぞ!!』

『ん......』

『ちょっ、いきなり――』

 私が飛び出すとエミリーも後に続くのが音で分かった。ついでに、リュカ副隊長殿が驚いた声を上げていたが私は特に何も返さずメリーナ達との合流を優先にして行動した。

 予想通り、空中で青白い炎が出る感覚と落下速度が緩やかになる感覚がして私はゆっくりと地面に着地した。

 そして、間髪入れずに地面を強く蹴ってメリーナ達がいる方向へ私は全速力で走り出した。

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