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残業と幽霊とストーカー  作者: オツタロ


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第9話 生きがい

20時。


高橋はオフィスに戻ってきた。


課長の方は残業して時間を潰していた。


「やっと来たか。来ないんじゃないかと思っていたよ。」


高橋が事務所の真ん中にまで歩いて止まる。


課長も立ち上がり彼女の正面に立つ。


高橋は両腕を組んで仁王立ちの姿勢、対する課長は腕を後ろで組んで余裕の表情である。


「5年前の推理を聞けばいいんだっけ?」


「そうです。橘楓さんにしたことを話してもらいます。」


「執念深いなー。そんなんだから行き遅れるんだよ。私が君の歳の頃にはもう子供がいたよ。」


そんな言葉に眉間に皺を寄せていると視界の端に白い靄が現れるのが見えた。


半ば佐伯の嘘ではないかと疑っていた小人が現れたのだ。


確かに当時のカエデにそっくりだ。


身長こそ小人サイズだが髪の長さなどの特徴を捉えている。


小人は課長を睨んでいる。彼女が恨みが形を成した姿に違いない。


「今も彼女はあなたを恨んでいますよ。」


「それがどうした?呪いとか信じてるのかな?」


クククと笑い始める。


いつもの仕事中に装っている温和な表情、雰囲気はない。


これがこの男の本性なのだろう。


「あなたは橘さんを残業させて居残らせ2人っきりになる状況を作り上げた。


そして書庫に資料を探しに行かせ背後から襲った。


逃げられたあなたは彼女を追いかけて廊下の突き当りで彼女を突き落とした。」


「んーだいたいあっているけど細部が違うなぁ。


時間はあっているね。昔はみんな19時すぎまでは残っていたからね。


20時からが私と橘くんとの2人っきりの時間だったよ。


書庫でってのは正解、よくわかったね。


でも俺が突き落としたんじゃない。勝手に落ちたんだ。


まぁ廊下でひん剥いてやろうとしたんだけどな。」


「このゲスが。」


「男と女なんだから仕方ないじゃないか。


こっちは毎日仕事と家庭で疲れているんだ。癒しが必要なんだ。


独身にはわからんだろうが家庭の維持するのは疲れるんだよ。」


その時背後から人が倒れる音がした。


高橋が音がした方向に振り返る。

そこには片手にスマホを握り締めた佐伯が倒れていた。


廊下から現れたのは管理チームの派遣社員藤田さんだ。


ベテラン3人衆として佐伯と鈴木に仕事を振って楽をしている1人。


手にバッドを持っている。息があがっているのか肩を上下さして息をしている。


「おい、よそ見をするな。」


課長の声で正面に振り向いた時彼女の頭に衝撃が走った。


彼女は課長が手に持っていた鈍器で殴られてその場に倒れこむ。


薄れゆく意識の中で課長が藤田さんに命令する声が聞こえる。


「こいつらを書庫に運ぶぞ。」


課長は藤田に命令すると彼女は佐伯の足を掴み書庫まで引きずっていった。


2人が目を覚ましたのは書庫に入ってからだった。


後ろには書類や備品を置いた金属製の棚がある。


引きずられている時の床との振動で目を覚ましたが体が思うように動かなかった。


ようやく意識がはっきりしてきた、2人とも書庫に入れられ入り口を派遣の藤田と課長が塞いでいる。


「藤田さんがグルだったのね。」


「・・・」


彼女は金属バットを持って何も答えない。


バットはこの書庫に置かれているものだ。


書庫と言いながらいろんなものが置かれていたので気にしていなかったが凶器として使われるとは思っていなかった。


「佐伯君、君が敵になるなんてショックだよ。君には期待していたのに。


男性嫌いの高橋君が佐伯君と話しているってのは割と社内の噂として上っていてね。


君のような嫌われものが誰かと仲良くするなんてすぐに噂は広がるもんだよ。」


課長は彼のスマホを持っている。


スマホで課長の会話を録音しそれを証拠として持っておこうという作戦だった。


確かめたかったのはカエデに何があったのか、それさえわかれば罪に問おうとは思っていなかった。


物的証拠がないので証言だけで罪に問えるとも思えない。


まさか課長の方も協力者を呼んでいたとは想定外だった。


「詰めが甘いな。そういうところは仕事でも注意しないとね。」


「どうしてこんなことをしたんですか。」


佐伯が課長に問いかける。


佐伯の悲壮に塗られた顔とは対照的に侮蔑するような目で彼を見ている。


「ストレスだよ。中間管理職の辛さがわかるか?上からの命令、下からの反抗、うんざりだよ。


家族も重荷だ。子供は口答えばかり、妻は愛想がない。家に帰ってもつまらん。


せっかく課長になったんだ。力は活用しないといけないだろう?」


「それで源さんを・・・」


「ああいう初心な子がいいんだ。社会に出たばかりで何も知らんガキがいい。


君も歳をとればわかるさ。」


「最低だ・・・」


「お前も俺と変わらんだろうが、ストーカーに悩む後輩のために一緒に帰ってあげてたんだろ?


下心があったんじゃないのか。」


「そんなことありません。」


「それならなんでお前は他の人に相談しないんだ。


上司である俺には?同期の鈴木には?そもそも女子の問題なら女子社員の誰かに相談するよな?


なんで一人で解決しようとしていたんだ?」


「それは・・・彼女が内緒にしてほしいと言っていたので。」


「ニュースとか見ないのか。ストーカーが犯罪を犯したなんてニュース毎年やっているだろう。


そんな危険なことを1人で解決するだけの力が君にあるのかね。


手柄を独り占めしたかったんじゃないのか。」


佐伯は俯いて悔しそうな表情をしている。


事実を言い当てられて図星だったのだろう。


「でもこれで晴れて正式な犯罪者ね。さすがに人を殴っておいてやってないわ通用しないわよ。

あなたもよ藤田さん。」


「私は・・・課長から命令されて仕方なく・・・。」


「そうだな君たちが警察に行けばそうなるだろうな。」


「だったら行きたくてもいけない状況を作ってしまえばいい。」


課長がニヤニヤと品のない顔で笑う。


「脱げよ。お前らの裸をスマホで撮ってやる。


警察に行ったら裸の映像をネットにばらまく。」


「最低ね。」


「お前らは俺のおもちゃになるんだよ。」


「藤田、脱がせろ。抵抗するならバットで殴って黙らせろ。」


藤田はバットを肩より高く構える。


脅されて無理やりやらされているというその顔は気味が悪いほど溌剌(はつらつ)としている。


「仕方ないのよ。私は悪くない。」


そんなことを言いながら近づいてくる。


「はーい、ばっちり撮りました。」


課長の後ろから女の子の声がした。


全員がドアの方を向く。


開け放たられたドアの先、廊下に源めぐみがスマホを構えて立っていた。


「今日は休みだったはず。」


課長がたじろいでいる。


表情は見えないが声が震えている。


「高橋先輩から今日課長と話すってチャットあったんで勇気を出して来たんですよ。


あーもう、最悪、その顔見ると吐き気がする。」


普段の明るく爛漫とした彼女が言わなそうな単語が出てきた。


「ここでの会話全部カメラで撮ってあるんで。」


彼女が画面をこちらに見せる。


そこにはSNSの投稿画面が映っている。


「会社名に課長の名前も書いてます。


それにSNSのみんなが使えるように会社の電話番号を思いつく限り書きました。


いろんな部署の番号を書いたのでSNSの正義マンがいっぱい電話してくれますよ。


昔は箝口令ってので闇に葬ったかもしれませんが今回はできないですね。」


SNSに投稿して炎上させようというのか。


そんなことしたら・・・


「そんなことしたら源くんだって無事じゃすまないよ。


会社はダメージを負うだろうね、下手したら潰れるかもしれない。


そしたら多くの社員、その家族が路頭に迷うことになる。


君1人の自己中心的な行動で多くの人を不幸にすることになる。


そんなことは止めるんだ。」


「潰れたらいいじゃないですか。


社員が飛び降り自殺して、課長が変態な会社なんて潰れればいいんですよ。


それに箝口令が出たからってみんなして黙ってなかったことにした人たちも同罪ですよね。


やっと罪を償うことができてみんな嬉しいんじゃないですか。」


「小娘が!」


寄越せ!と言って課長が飛び掛かった。


彼女は扉を思いっきり閉める。


課長はドアに顔をぶつけて痛みに悶えている。


しかしすぐに我に戻り扉を乱暴に開けて彼女を追って出て行った。


その様子にたじろいでいた藤田はバットを持つ手が緩み、胸のあたりで抱くような格好になっていた。


その隙を見逃さず、高橋は藤田に体当たりした。


続けて佐伯も加勢する。


取り押さえられた彼女は叫び手足をばたつかせるが大人2人の力に抜け出すことはできなかった。


「ごめんなさい、私課長に脅されていただけなんです。言うことを聞かないと派遣の契約を切るぞって、それで仕方なく、仕方なかったんです。」


すらすらと言葉が出てくる。まるであらかじめ用意していたかのようだ。


高橋は辺りを見渡してすぐに部屋の隅にあった梱包用のビニールひもを持ってきた。


誰かがここで作業した時に戻し忘れていたのだろう。


そのひもで藤田の手足を縛った。


「すぐに追うわよ。」


高橋と佐伯は課長を追いかけることにした。




源は非常用の階段で上の階に駆けあがっていった。


課長の鬼の形相にびっくりして走り出したはいいが下に下りたらよかったものを上に逃げてしまったことを後悔していた。


この建物に非常用階段は一つだけ。あとはエレベーターが2基ある。


エレベーターだと掴まってしまう。


しかし上に逃げてどうしようかと考えていた。


それでも段々と課長の追いかけてくる靴音が大きくなっている。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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