第6話 飲み会
高橋さんに社内のチャットアプリで個別メッセージを送った。
時間を見計らい社員食堂で落ち合った。
俺たち以外に誰もいないことを確認する。
思い切って後輩ちゃんのことを相談することにした。
「その件なら知っているわ。」
既に知っていたことだったとは、俺は呆気に取られた。
「いつ知ったんですか。」
「最近相談されたの。あなたが残業続きで大変そうだからって。」
すでに高橋さんに相談していたとはさすが後輩ちゃんである。
「それなら話が早いですね。昨日彼女はストーカーにつけられていました。
課長が前を歩いてくれて課長と一緒に駅まで帰ったので大丈夫でした。」
高橋さんは「そう」と短く答えるだけだった。
でもどうして今さら高橋さんに相談なんだろうか。
それなら最初から相談しておけばよかったのでは?と思っていると。
「なんで今更私に相談されたのかって顔に書いているわよ。」
言い当てられてしまい狼狽する。
「慌てる必要はないわ。別に女子社員全員と仲が良いわけじゃない。
私を嫌っている人もいる。おそらく彼女の近くにそういう人がいるんでしょうね。
それで私のところに話が来るのが遅くなった。
別に私も無理に聞き出そうとか思ってないからね。言いたくないならそれでいいし。」
高橋さんは女子社員たちから信頼が厚いと聞いていたが女子社員も一枚岩ではないということか。
後輩ちゃんの相談が高橋さんが最初ではなかったのはあのベテラン3人衆のせいだろう。
彼女に圧力をかけていたに違いない。
俺は話を元に戻すことにした。
「相談なんですが源さんのストーカーの犯人候補なんですが情報チームの人はどうなんだろうかって思っていまして。」
「それは何か証拠があるの?」
「証拠と言うか俺たちがいないときに源さんに話しかけていたことが何度かあったようです。」
「それで?」
「ああいうモテない人はかわいい女の子から話しかけられちゃうと好きになっちゃうんですよ。
それできっとストーカーになったんじゃないかって。」
高橋さんが呆れたようにため息をついた。
「たったそれだけでよく犯人候補にできたわね。もっと頭を使ったほうがいいわ。」
「男ってのは結構単純で・・・」
「そうね、そんな短絡的な考えしかできないなら単純でしょうね。」
俺のことではないのだが。
「彼女のストーカーとカエデのこと、私は偶然とは思えないのよね。」
「同じ部で起きているからですか。」
「そうね、5年という月日は空いているけど源さんも相談しにきたわりには相談しづらそうな雰囲気だったわ。
カエデの件と重なるのよね。」
彼女は何かを決心したようだ。
「私が源さんと話してみるわ。」
「俺も一緒にいた方がいいでしょうか。」
いなくていい、と袖にされた。
彼女が食堂から出て行ったのを見送った。
昨日書庫で見た白い橘さんの幽霊についても話すべきだっただろうか。
今日一日そのことばかりが頭にちらついている。
話したら私も見ると言って聞かないだろう。
それで小人と同様に彼女には見えないということにならないだろうか。
俺が見えて、彼女は見えない。
そのことでまた彼女は酷く落ち込むだろう。
そう考えると話さなくて正解だった気がする。
その日の定時後、高橋と源の2人が会社から離れた喫茶店にいた。
「ここタバコ臭くごめんね。」
「いえ、大丈夫です。」
新入社員の源の方はたまに咳をしている。
壁紙の黄ばみ、椅子のクッション、ありとあらゆるものからタバコ臭がしていた。
「でもここなら会社の人も来ないと思うし、来てもここからなら店内が一望できるからすぐに気づける。」
「そうですね。」
「早速本題に入るわ。
この前はストーカーの件相談してくれてありがとう。
心当たりはないって話なのよね。」
源は頷く。
そして高橋は5年前に起きた事故について話し始めた。
「そんなことが起きていたなんて知りませんでした。」
「せっかく入った会社がいわくつきだなんて怖いわよね。」
源は頷こうとしたが止めておいた。
「私は正直会社の人全員が怪しく見えていて全員敵だって思っちゃってる。
それは間違いだって気がついているはずなのに止めることができない。」
高橋が源の目を見た。
「あなたの会社から支給されているスマホを見せてくれない?」
源は困惑の表情であったが高橋の目は真剣そのものであった。
その気迫に圧され源はバッグから会社支給のスマホを取り出すとそれを高橋に渡した。
11月になり毎月恒例の部署飲み会が開かれた。
場所は会社のすぐ近くの居酒屋である。
部長を筆頭に各チームの課長、そして一般社員たち。
基本的には全員参加である。
飲みニケーションなど廃れたとSNSでは声高に叫ばれているがうちの会社ではまだまだ現役である。
だが今回はチャンスだと思った。
ストーカーはこの部署の誰かである可能性が高い。
飲み会でそのしっぽを掴めるかもしれない。
席順は部長と3チームの課長が上座で順番に座っていく。
その後は自由だ。
とは言っても下座は後輩ちゃんが座ることになっている。
俺は注文や皿の片づけのフォローに入るためその隣に座った。
飲み会は恙無く終わった。
後輩ちゃんのフォローに入るはずがいつの間にか俺はべろんべろんに酔っぱらってしまっていた。
お店を出て店前で集合している時には情報チームの等々力さんに肩を貸してもらわなければ立つことすらできなくなっていた。
おそらくこれが情報チームとの入社して初めてのスキンシップだろう。
俺のウザ絡みにも相槌を打ってくれている、自分であほみたいなことを言っている自覚はあるがなぜか口が止まらない。
2つの路線が通勤圏内にある立地であるためそれぞれが自分の最寄の路線に歩いていく。
俺は等々力さんにもたれかかる形で同じ路線を使っている人たちと一緒に歩いた。
意外とこちらの路線を使用している人が多いことが嬉しかったのか周りの人に話しかけながら進んでいく。
最近残業など色々あったせいでフラストレーションが溜まっていたようだ。
高橋さんが迷惑そうな感じでペットボトルの水を渡してくれた。
渡されたペットボトルの水を勢いよく飲むが酔いが覚める気配がない。
何かを忘れているような気がするが今日のところは家に帰って早く眠りたかった・・・。
一方もう一つの路線に向かっていたグループでは課長と源、他数名が歩いていた。
「いいお店があるんだよ。」
もうすぐ駅に着くころにそんなことを課長が言う。
「どんなお店ですか。」
「いい雰囲気のお店だよ。源さんは入社してまだ半年だよね。貯金とかしているの?」
「1人暮らしなんでなかなかたまらないですね。」
「それなら毎日ひもじい思いしているんじゃないの?」
「結構自炊頑張っていますね。休みの日に作り置きしたりとかしてまとめて作って冷蔵庫で保存しています。」
「家庭的でいいね。高校しか出てないのにしっかりしているね。」
「まぁ・・・はぁ・・・」
「それなら今から行くお店は気に入ると思うよ。
ちょっと高めだけど私のおごりだから気にしないで。」
「え、いや明日も仕事なんで」
「いいからいいから、社会勉強だよ。」
周りをみるとまだ先輩方はいる、この人数なら問題ないだろう。
奢りというのが気になった。さっきのお店では部長、課長が多めに払ってくれていたがそれ以外のメンバーは残金を均等割りらしい。お金自体は明日にオフィスで渡すと連絡が来ていた。
それなのに次はおごりなのか?
違和感がある。
この人数だと相当な金額になるはず。
駅が見えて駅の入り口が見え始めた時
「私たちはこっちだから。」
課長の隣にいた私は左腕をがっちりと握られる。
何が起こったのか頭の中が真っ白になる。それに物理的に動けない。
「「「お疲れ様でーす。」」」
さっきまで一緒に歩いていた先輩たちが何食わぬ顔で挨拶をしている。
そのまま背中を向いて駅に入っていく。
私と課長だけがその場に残される形になった。
私も駅に行こうと思った瞬間、課長に肩を掴まれた。
痛みすら感じる。課長の顔を見ると仕事中の優しい温厚な表情ではない。
獲物を狩る狼のような目が私を見ている。こんな表情ができる人なのか怖くて声がでなかった。
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