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残業と幽霊とストーカー  作者: オツタロ


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第4話 カエデと小人

社員食堂でお互い自販機で飲み物を買う。


高橋さんも無糖のコーヒーを買っていた。


イメージ通りすぎる。


2人とも席に座ることなく机に腰かける。


「この髪飾りは橘楓の物なの。」


「タチバナカエデさんですか?」


「5年前になるかな、あなたのチームにいた先輩よ。」


「すみません。知らなくて。」


「まぁ無理もないわね、5年前に彼女飛び降りたから。」


「え・・・飛び降りって・・・」


「幽霊の話知っているわよね。」


鈴木から聞いた話だ。


「少しだけ・・・でも全然詳しくないです。


鈴木くんから聞いただけなので。」


「そう。あの幽霊のモデルになったってのがカエデなの。」


実在した人だとは思わなかった。


よくある話のネタ程度にしか考えていなかった。


「でもそれって橘さんって人がモデルってのも確証ないですよね・・・?」


「見たって人に話を聞いたわ。カエデの特徴にあっているのよ。」


その顔はどこか悲しそうに見えた。


「カエデはまだこの会社に囚われているんだわ・・・。


だから幽霊の噂が無くなればカエデも楽になるのかなって思って。」


「それであの時俺たちの側に来ていたんですね。」


「そうよ。」


斜め向かいに机に腰かける高橋さんがものすごく睨んでくる。


「私の気も知らないで・・・」


「ごめんなさい、俺そんなつもり全然なくて、あの話だってただの作り話だと思ってましたし。


それにあれはほんとに鈴木くんが持ってきた話でして。」


「知っているわ。彼はお調子者だからね。」


高橋さんはため息をつく。


この話をしている彼女はみんなから嫌われている彼女とは大違いだ。


ずっと噂になっている橘さんを不憫に思いその噂をかき消そうと躍起になっている。


「その橘さんと高橋さんは先輩後輩の間柄なんですか。」


「私に始めてできた後輩だったわ。チームは違ったけど同じ管理部のメンバーとして仕事を教えてあげていた。


物覚えのいい子で素直でかわいくて配属されて数日でみんなのアイドルみたいになっていた。」


その目線は在りし日の橘さんを見ている。


「いつからかカエデが落ち込むことが増えて、事情を聴いても話してくれなくて”先輩の迷惑になりますから”って言うだけで。


それから少しして彼女が飛び降りたの。」


「じゃあ、その飛び降りた原因はわからないってことですか?」


「そうね、彼氏がいたかどうかもわからない。そういう話は恥ずかしがってしない子だったし、本人が話したがらないから聞かなかった。


だからカエデがあんなことになって自分なりに調べてみたけど何もわからなかった。


しばらくしたら社内でカエデの幽霊を見たって人が現れて、一気に社内に広がった。


中にはそれで体調不良になる子も出てきてしまって社長から箝口令が出たの。」


それで俺は橘さんのことを知らなかったのか。


「俺が見た白い靄の小人は橘さんかもしれないと」


「その可能性はあるわ。あなたが見たって言ったところはカエデの席だったところよ。


カエデがあんなことになって誰もその席に座りたくなくなって仕方なく備品置き場にね。


書庫に持っていこうって話もでたけど大きくて持ち運びづらいってことで事務所の端に置かれることになったの。」


その表情は怒っているように見える。


大切な後輩の机を単なる備品置き場にしてしまう部署メンバーたちの無神経さにだろう。


「私にもその小人は見えるかしら。」


「どうなんでしょうか。俺も昨日初めて見たんで。」


「何時ごろに見たの?」


「20時過ぎでしたかね。」


「今日は私も同席するわ。本当にカエデに関係があるのかこの目で見てみたい。」


高橋さんは邪魔したわねと言って先に事務所に戻って行った。


20時。


定時で退勤した高橋さんがオフィスに戻ってきた。


「近くの喫茶店で時間を潰していたの。」


と話し自分の席にバッグを置く。


数日前までは目が合えば睨まれる。仕事の相談をしたら無視されるという扱いだったのに普通に会話しているのが恐ろしい。


普通に会話しているところを鈴木にでも見られたら変な噂を流されるだろう。


「高橋さんは、カエデさんの事故の原因が社内の・・・男性社員に原因があったと思っているんですか。」


「そうよ。カエデが言いにくそうにしていたところからして誰かに言い寄られていたんだと思う。


それくらい彼女はモテていたわ。


それでも人に話せないってことはおそらく既婚者との不倫とかかなって思ってる。」


「それで高橋さんは男性社員を目の敵にしているんですね。」


「その通りよ。カエデをあんなことにしたやつが社内にいるかもしれないと思うと虫酸が走る。


犯人を突き止めるまでは絶対にこの会社を辞めてやるものですか。」


彼女の顔が一瞬で憤怒の表情になる。


異常なほどの男性嫌いの原因がわかったので一歩前進と言った感じだ。


それを鈴木にでも話したら社内に拡散してくれて誤解も解けるかもしれないがこの人はそれを喜ばないだろうなと思う。


黙っておこう。


時計を見ると20:15になっていた。


橘さんのだった机を見るとそこに昨日と同じ白い靄が出ていた。


俺は机に近づく、それを追って彼女もついてくる。


白い靄は小人の形になり俺らがいる方向を見ている。


「出たの?どこ?」


え!っと思う、今目の前にいるのに彼女には見えていないようだ。


小人に指さして「ここです」と言うが彼女は訝しんだ表情になる。


「本当にいるの?全く見えないわ。」


「いますよ、今事務所の方を見ています。」


「あなた私をだましているんじゃないでしょうね。」


「だましていませんよ。ここですよ、ココ!」


彼女はその小人がいるところに手を伸ばす、そして小人の体を貫通して机に触れた。


「何も感じないわ。幽霊って触ると寒気がするとか聞いたことがあるけど。」


「・・・どうなんでしょうか、俺も幽霊見るの初めてなんで。というか俺にしか見えないってことは俺が幻覚を見ているだけみたいな。」


彼女は机に触れていた手を元に戻しハンカチで拭いた。


「どうしてカエデをこんなに思っている私が見えなくて、あなたが見えるの?どうして?」


「俺もわかんないっすよ。というか小人が本当に橘さんと関係あるのかわからないじゃないですか。」


あっ!と思い、「髪飾りを置いてみましょう。」と口走った。


彼女はスーツのポケットからハンカチに包んだ髪飾りを取り出す。


「持ってみたけど何も見えないわ。でもこれはカエデのに間違いないのよ。カエデのお気に入りなの。」


そういってもう片方の手でスマホを取り出し画面を俺に見せる。


色んなアイコンで埋め尽くされている画面に2人の女性が映っている。


どちらも若い女性だ、1人は高橋さんの在りし日の姿。ということはその隣に映っているのが橘さんだろう。


ロングヘアで右側に花をあしらった髪飾りをしているのが見える。


たしかにそっくりだ。体の大きさは全然違うがそれを除けば橘楓さんである。


これほど似ていて無関係ということはないだろう。


小人の方はというと髪飾りを凝視している。


「こいつもこれをめっちゃ見ています。


見た目の大きさ以外はそっくりですね。」


左手に持っていた髪飾りを彼女のすぐ隣に置く。


「どうして見えないの・・・カエデ・・・私だよ・・・」


見えなかったショックからか泣き出した。次第に涙が床にぽたぽたと落ちる。


こういうときどうしたらいいんだろうか。


ドラマとかだと抱きしめているような気がするが、今は正解とは思えない。


横であたふたしていると彼女は自分の席に戻りバッグを持ってそのまま帰ってしまった。


「・・・お疲れ様でした。」


姿が見えなくってから声をかけた。


俺はというとまだ残業が残っている。


残業をしつつ時折自分の席から小人を眺めていたが21時を過ぎたあたりで小人が消えていることに気がついた。


夜通しずっと姿を現しているわけではないらしい。


とは言っても橘さんに関係があるようだが友達だった高橋さんには見えない。


俺に霊感があるのか、それとも幻覚か。


謎だけが残ってしまった。


それからしばらくは残業の日が続いた。


他の人は鈴木も含めて18:30には帰ってしまう。


俺一人だけがオフィスに残っている。


他の部署でも残業している人はいるので会社全体で俺だけと言うことはないが管理部はノー残業の考えが生きている。


今はプリンターの入れ替えの案件と新卒採用の業務が重なってしまっていた。


プリンターの仕組みとかも知らないので用語の一つから調べながらやっているので時間がかかるのは仕方ない。


新卒採用は昨今の売り手市場と建設業界の人気のなさから毎年難易度が上がっている。


今年も予定人数を採用するのは難しそうだ。


今から要望を出している部署には言い訳を考えておかないといけないかもしれない。


あっという間に20時になりいつものように小人が現れた。


髪飾りを拾ったからだろうかそれで何か縁ができたのかもしれない。


彼女の側に行き眺める。


意外と愛らしいと思ってしまう。


「お前は橘さんって人なのか?なんでそんなに小さいの?」


そんな言葉を語りかけていた。


小人は21時には消えてしまう。


形が崩れて白い靄に変わり、靄も消滅する。


そんな日々を過ごしているとこの小人との語らいが残業の楽しみになっていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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