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残業と幽霊とストーカー  作者: オツタロ


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3/10

第3話 過去と髪飾り

その日はいつもよりも遅く残業をしていた。


オフィスには俺一人しかいない。


電気代節約のためオフィス内の照明は不要な部分はOFFになっている。


俺のいる列だけが明るかった。


過去の資料をデータとして打ち込む。


最初からデータとして残っていたらよかったのだが昔のせいなのか電子データが残っていなかった。


そんな状態だったのでわざわざ書庫にまで行き原本を探す羽目になった。


そしてその原本から使えそうなデータを作成中の稟議書の資料としてパソコンに打ち込んでいた。


「前回担当は橘さんって人か。聞いたことないな。」


資料の発案部署が管理部になっている。


しかし橘さんって人は今は在籍していない。他部署に異動になったのだろうか、それとも退職したのだろうか。


橘楓。名前からして女性だろうか。


丁寧にまとめられた資料。仕事の丁寧さ、性格のマメさが資料を見ているだけで伝わってくる。


次のこういう情報が欲しいと思ったらきちんとそれが書かれている。


正直今の自分にここまで完成度の高い資料は作れないと思った。


読む人のことを考えて作った資料とはこういうのを言うのだろうな。


カタカタとキーボードを打っている時パソコンの画面の向こうに白い靄のようなものが見えた。


なんだ?と思い手を止める。


残業のし過ぎで目が疲れてしまったか。


いやいや残業は確かにしているが世間のサラリーマンほどしてはいない。


セルフツッコミをかまして白い靄の傍まで近づく。


その靄は今は物置として使われている机から出ているようだ。


誰かがドライアイスを放置したとか?


近づいて机の表面を眺める。


最初は単なる靄にしか見えていなかったが段々と形を成してきた。


少しずつ輪郭がはっきりとしてくる。


形を成したそれは小人の姿になった。


小人?


大人の女性を小さくしたような15cmほどの大きさだ。


手のひらに乗りそうである。


靴屋の小人ならぬオフィスの小人である。


仕事を手伝ってくれたりするのだろうか。


代わりに残業をお願いしたい。


この備品置き場と化した机の空いたスペースに机の縁に座るように存在している。


俺たちの島の方を見ているようだ。


どのあたりを見ているのかと視線を辿ってみるが体が小さい為よくわからない。


時折顔を動かしてオフィスの扉の方も見ている。


これが噂に聞いていた女性の幽霊なのだろうか。


顔は真剣そのもので妖精のイメージにあるようなにこにこ笑っている様子もない。


どちらかと言えば睨みつけているような感じにも見える。


小さいせいか恐怖感はまったくなかった。


これなら1体と言わずもっと出現してくれても構わないと思ってしまう。


「夜遅くまで残りすぎたかなー。」


自分では疲れていないと思っても実は肉体は疲れているのかもしれない。


まだ案件には余裕があるので今日のところは帰ることにするか。


気晴らしに腕を大きく振ったときに手の先が何かに触れた。


何だろうと思ってポケットに手を入れると書庫で拾った髪飾りだ。


髪飾りを手に持って眺めていると小人と視線があった。


彼女もこれを見ている。


試しに髪飾りを右に動かしてみる。


小人の頭も右に動いた。


髪飾りを左に動かすとそれを追うように彼女の頭も動く。


どうやらこの髪飾りが気になるようだ。


「これ、欲しいのか。やるよ。」


どうせ落とし物だ。書庫に落ちていたから社内の誰かが落としたのだろう。


本来は落とし物ボックスに入れないといけないがそんなに目くじらを立てるようなことでもない。


俺は彼女が座っている横にかわいらしい花をあしらった髪飾りを置いた。


次の日の日中、昨晩の続きをしているとあの机の前に誰かが立っていることに気が付いた。


資料から目を離してそっちの方向を見る。


立っていたのは経理チームのエース、お局社員こと高橋さんだ。


彼女は机を凝視している。


俺以外は誰も気が付いていないようだが不自然なまでに机を見ている。


その机は昨晩白い小人がいた机だ。


今はそれは見えていない、白い靄も見えない。


もしかして彼女には見えているのか。


昨日はあの後すぐに帰ってしまったので小人がどうなったかは知らない。


彼女が手を伸ばして机に置いてあった髪飾りを手に取りポケットにしまった。


そして何事もなかったかのように歩いていった。


その日はお局社員から目が離せなかった。


髪飾りの件を聞かなくては、しかしみんなが見ている前で言えばトラブルになるのは目に見えている。


事実を指摘するのだから仕方ないのではと思いつつ、それはあまりにも会社員としては大きな十字架になってしまう。


彼女が1人になるところを見計らう。


彼女の席は俺の背中側になっているので音と気配とで察知するしかない。


当然この事務所には彼女以外の人もいるし、経理チームは彼女一人ではない。


背後で誰かが席を立つ気配があればさりげなく見てみる。


そんな風に過ごしていた為仕事は全くと言っていいほど捗らなかった。


15:00過ぎ、定時まで3時間を切ったときにチャンスが現れた。


高橋さんが席を立ちオフィスを出て行った。


後を追うように俺も席を立ち彼女の後を追いかける。


廊下を歩く彼女が見えた。


「高橋さん、待ってください。」


呼ばれた彼女は足を止めて振り返る。


男に名前を呼ばれて嫌だったのか振り返ったその顔は眉間に皺を寄せあからさまに不機嫌だった。


「備品置きの机の上にあった髪飾り盗りましたよね。


落とし物ボックスに置いてくれているのかなと思いましたがそこにもありませんでした。


返してください。」


短めに用件を伝える。


俺もこの人とは世間話などしたくない。


何があったか知らないが男だという理由だけで挨拶しない、仕事の相談をしても無視する。


同じ部署で働く人として関わり合いたくない人である。


この人が社内の男性社員から嫌われて陰口を言われているのには半分は同情するがもう半分は妥当だと思っている。


「なんのこと、知らないわ。」


「ちゃんと見てましたから、今朝髪飾りを見てましたよね、それでそれを持っていった。


あれ俺が書庫で拾ったやつです。」


「あーそう。あれ私のだから。」


彼女が再び歩き出そうとする。


「待ってください。そんなわけないですよね。普段髪飾りとかしてないじゃないですか。」


「はぁ、きもっ。」


「それにあれはあなたには似合わない。あなたが付けている姿が想像できない。」


「はぁっ。なめてんの。くそオスが。」


彼女は歩き出してしまった。


段々とその姿が遠くなる。


どうにかして話を聞いてもらわないと、髪飾り一つで何本気になってんだって感じもする。


あなたには似合わないとかたしかに侮辱した発言だった。


言い過ぎてしまったがそうではない、言いたいことがあるんだ。


両手を握り締めて気合を入れた。


走って彼女を追い越した。


そして振り返って彼女の前に立ちふさがった。


きっと怒っているだろう、般若のような顔になっているだろうと思ったが彼女の表情はとても悲しそうだった。


顔はややした向き、眉間に皺は寄っているがそれは眉毛がしょんぼりとしているからだ。


言い過ぎてしまったと思った。


「失礼な物言いすみませんでした。


でも話を聞いてください。


信じてもらえるかわからないですが俺昨日見たんですよ。


その・・・なんていうか・・・幽霊みたいな・・・」


彼女は目を見開き驚いているようだ。


「どんな?」


てっきりバカにされると思っていた。続きを促されるとは驚きだ。


「髪飾りを置いた机なんですけど、白い靄みたいなのが見えたと思ったらそれが女性の小人が現れたんです。特に何かをするってわけでもなくてオフィスを見ているような感じで。


それで・・・髪飾りを見せたらそればっかり見ていたんで机にそれを置いて帰ったんです。」


俺は小人の大きさを表現するために両手で形作ってみる。


「・・・」


高橋さんは顎に手を添えて考えているようだ。


「他には?」


「え・・・あ・・・いえ、他には何も」


彼女はそうなんだと言って「今から時間ある?」と口にした。


首を縦に振ると、彼女は社員食堂で話しましょうと言われ一緒に行くことになった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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