第2話 ストーカー対策
後輩ちゃんに恋人がいないことに嬉しくなり舞い上がってしまう。
「それはごめんね、てっきりいるのかと思っていたよ。」
「えー、私全然モテないし、社会人になったばかりなのでまだそんな余裕ないです。」
なんていい子なんだ。涙が出てきそうだよ。
とは言ってもストーカーについてはどうしたらいいものだろうか。
いつまでも浮かれていては彼女からのせっかくの信頼が水泡に帰してしまう。
考えていると注文した料理が届いたのでとりあえず食事をすることにした。
食事後、サービスのコーヒーを飲んで一服する。
会社から少し歩いたところまで来てしまったから長居はできない。
もうそろそろ帰らないと。
席を立つまで、いや会社に着くまで、いや事務所に入って席に座るまでに何か解決策を出さないと。
ムムム・・・
と思った時にあるアイディアが天から降りてきた。
「俺が帰り駅まで送ってあげるってのはどう?」
後輩ちゃんは首を傾げている。
「俺と源さんは路線が違うから会社から出て少しすると分かれてしまうけどさ。
俺が源さんの最寄り駅まで送っていくよ。
今のところ駅までつけられているってことだからこれなら対策にならないかな。」
「ええーそんなの悪いですよ。先輩は反対方向ですから駄目ですよ。」
「いいよ良いよ、気にしないで。
最近仕事多くて残業することが増えたんだよね。
残業中に食べるご飯も買わないといけないからそのついでに送るよ。
駅までもそんなに離れてないしさ。」
「ええーでも・・・」
「ストーカーも男が側にいたら諦めてどこかに行くでしょう。
そしたら俺も送るのは止めるよ。
何日かくらいで終わるんじゃないかな。」
「それくらいなら・・・」
よし、彼女がOKしてくれた。
ここから仲を深めることだってできる。
まずは会話だ。話さない事には相手の視界に入ることはないのだ。
「それなら早速今日から始めようか。」
「お願いします。」
彼女が頭をぺこりと下げる。
「ところで先輩はどうして残業しているんですか。」
「んーそれがね。複合機の入れ替えを俺が担当することになってね。今見積もりとかを取っているんだよ。」
「複合機?」
「プリンターのことだよ。正しくは複合機プリンターって言うんだ。」
彼女はへーと関心しているようだ。
それから俺たちは事務所に別々に戻りいつも通りの時間を過ごした。
定時になり後輩ちゃんが帰宅の途に着く。
目線でお互いに合図をする。
これはフラグ立ったね。
25歳にしてとうとう春が来た。
周りの人も帰り支度をする人がちらほらいる。
あと30分も経てばみんな帰ってしまうだろう。
その前に行動を起こさねば。
「おれ、残業の時に食う飯買ってくるわ。」
少々わざとらしかったかもしれない。
隣の鈴木はうぃーすっと言っている。
彼も明日返信するメールがないか確認しているそれが終わったら帰るはずだ。
俺はそそくさと事務所を後にした。
待ち合わせに指定した自販機の前で彼女と落ち合う。
「お疲れ様です。」
律儀に頭を下げて挨拶してくれる。
こんな子と一緒に帰れるなんてなんて幸せなんだ。
駅までの道はオフィス街を少し抜けるとあとは住宅街が続いている。
もう少し歩けば駅近くとなり居酒屋などが増えていく。
こちらの駅は使ったことはないが飲み会で何度も来たことがある。
2人で雑談をしていると彼女が突然足を止めた。
「どうしたの?」
彼女は振り返り指をさす。
ここはまだ住宅街のところだ。
指を指した場所には電信柱があった。
「あそこの陰に隠れていたんです。」
今は10月。18時を過ぎたこの時間は黄昏時というのだろうか、夕方から夜に移り変わるタイミング。
薄暗く街灯の明かりは意味を為さない。
たしかにここで誰かが隠れていたらぞっとする。
普通の人は電信柱の裏に隠れることなどしない。
「私怖くなって走って逃げちゃったんです。あの時顔を見ておけば先輩に迷惑をかけることもなかったのに。」
「いやいやそれは危険だよ。源さんに何かあったら職場の人みんなショックを受けるし、会社としても大ごとだよ。自分を大切にしてね。」
「本当にすみません。」
「そんなに頭下げないで。俺はここに残業中に食べるご飯を買いに来ただけなんだからさ。」
彼女が少し笑ってくれた。
どうにかフォローできただろうか。
彼女が困っているのに暢気にデート気分だと思っていた自分が情けない。
本当に彼女は困っているようだ。
「今日は大丈夫そう?」
「はい、今日はつけられていないと思います。」
それはよかったと心の中で思う。
俺は彼女を駅の改札まで見送るとコンビニによって夕ご飯を買った。
事務所に帰るまでの道、改札で彼女が手を振ってくれたことを思い出す。心がふわふわする。
これが幸せってやつなのか。
それから数日間俺は後輩ちゃんを駅まで一緒に歩き送って行っていた。
幸いストーカー野郎はついてきていないという。
まだ数日だがもしかしたら相手も諦めたのかもしれない。
俺のことを彼氏と思ってショックを受けて手を引いたかな。
そんなある日のこと、課長から「佐伯君、残業の初めにご飯を買いに行っているみたいだけど戻ってくるの遅くないかい?」と言われてしまった。
「残業時間中も会社は君にお金を払っているわけだからね。
飯を食うなって言っているんじゃないよ。
ただね、ご飯を買いに行って戻ってくるのが遅いんじゃないかなって」
駅までは片道15分ほど。
後輩ちゃんのスピードだともう少し遅くて20分はかかっているだろうか。
30-40分のロスだ。
たしかに飯を買いに行くにしては戻ってくるのが遅いと言われても仕方ない。
「すみません。気を付けます。」
「ご飯も食べるの大事だからね。身体には気を付けてね。」
課長は優しい声で注意してくれた。
たれ目で優しい顔の課長。初めての配属の時建設会社だからおっかない人もいるだろうと思っていた。
自分が管理部管理チームの所属になると聞いて採用面接、研修時のまとめ役などでお世話になっている課長だと知って嬉しかった。
決して目立たない人であるが常に会社のことを考えて部下思いの人だ。
「先輩すみません。私のせいで怒られてしまって。」
昼休み、後輩ちゃんと昼ご飯を食べている時に謝られた。
「いいや俺が悪いんだ。たしかに30-40分の離席は長いわな。」
「最近は全然つけられている気配がないのでもう相手も諦めたんだと思います。
私の方は大丈夫です。」
ここが潮時かもしれない。
この楽しい片道デートも終わるのか・・・。
「しばらく様子を見ようか。
またストーカー野郎が来たら俺に連絡してくれ。」
「先輩にばかり迷惑かけられないです!」
彼女が頑張りますと言わんばかりの声で答える。
「いや、実際本当にストーカー野郎だったら危険だからね。
それに残業中の抜けもきちんと勤怠入力時に私用外出ってのに時間を書けばその分は残業代発生しないからまたサポートできるから。」
「そんな機能があるんですか、知らなかったです。」
こうして俺と後輩ちゃんとの片道デートは中断となった。
いつもの仕事中のこと、複合機プリンターの買い替えプロジェクトを任されている俺は過去の同じ案件がどのように対応したかを確認するために書庫に来ていた。
事務所にある資料に見当たらなかったので書庫に移動されてしまったのだろう。
書庫に入ると紙特有のにおいが充満していた。
本屋に来たような気分だ。
しかし本屋よりも空気が淀んでいる。それに埃っぽい。
”書庫”と鍵のプレートには書かれているが実質倉庫として使われている。
予備の椅子や事務机なども置かれている。
辛うじて書類関係が半分以上はあるだろうか。
このままいけば書庫の名を返上する日も近いかもしれない。
稟議書の保管棚には段ボールがいくつも置かれている。段ボールには年度が書かれておりその箱の中に稟議書をまとめたファイルバインダーが何冊も入れられている。
過去のプリンター入れ替えは5年前に行われていることは突き止めた。
5年前の書類を入れた段ボールを探し一つずつ箱を開けていく。
ファイルバインダーを取り出し稟議書の日付を確認する。該当の月に当たるまでそれを繰り返した。
何個目かのバインダーを開いた時に目当ての資料である”複合機プリンターの更改案件”の稟議書を見つけた。
そのバインダーを取り出し脇に抱える。
元に戻すときのために段ボールの番号もメモしておく。
書庫を出ようとした際床に何か光るものが目についた。
なんだろうかと思い拾うとそれは髪飾りだった。
花をあしらった髪留め。
綺麗だなと思う。
誰かが落としたのだろう。あとで届けようと思いポケットにしまった。
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