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第26話 ある噂について

「エミリオ、最近学園で流行っている噂を知っているか」


エドが俺にそう聞いたのは、一緒に図書室に行ってから1週間ほど経った頃だった。

最近学園で流行っているある“噂”。

それはもちろん、俺も知っている。


「あぁ知っているよ。明日の食堂のメニュー、ステーキなんだろう」


朝からあちこちから聞こえてくる噂、それは明日のメニューの話だった。どうやら、世にも珍しいユニコーンのステーキが出るのだとか。それを聞き、俺は朝から心が弾んでいた。


しかし俺の言葉に、エドは眉を顰め、苦い顔をする。額に手を当て、はぁとため息を吐いた。


「やはり知らないのか……」

「なんの事だよ?」


そう首を傾げれば、エドは何か躊躇うように、珍しく口をモゴモゴとさせる。


「言うか……?いや、でも、エミリオだぞ……僕の勘違いという可能性もあるか……?」


何やらブツブツと唱えているエドに、早くしろと急かす。するとエドはまた息を一つ吐き、俺に向き直った。その翠眼は、意を決したような色をしていた。


エドは静かな声で、扉の方を指す。


「エミリオ、まず、あそこにいる令嬢達の話をよく聞いてくれ」

「?あぁ」


エドが指す方を見ると、教室の扉の前で令嬢達がキャッキャウフフと話していた。

何故話を聞くのか不思議に思いつつ、その会話に耳を傾ける。


「――で、……アーベン…――」

「様…―あい―――アーベント様……―」


どうやら、アーベント・ヴァイゼについて話しているらしい。そういえば彼には、ファンクラブなるアーベント親衛隊があったなと思い出す。


「アーベントについてか?」


エドの方に向き直る。

エドはそうだ、と頷くと、最近流行りの“噂”とやらについて詳しく説明しだした。


「最近、アーベントが恋をしたのではないかと話題になっている」

「はぁ」


それを俺に言われても、と曖昧に相槌を打つ。


「そのような謂れがあるのは、彼の家のある伝統にある」

「ヴァイゼ家の伝統?」

「そうだ」


エドは一拍置くと、コホンと咳払いをした。


「ヴァイゼ家は代々、愛する者に家の伝統曲を改曲した曲を贈っている」

「へぇ。それは素敵だね」

「……そういうところだぞ」

「何がだよ!」


エドは眼鏡をクイッと上にあげ、顔を近づけた。そして少し低い声で、口を鋭くして言う。


「さて、ここからが本題だ」


「アーベントが最近、その曲を作り始めたらしい」



「…………え?」


エドのその言葉に、俺はたっぷり3秒間思考が停止した。

俺はアーベントルートを数回しか通っていない。何故なら最推し(サリー)が出てこないからだ。そのため、裏設定まではよく知らなかった――が。


彼が曲作りをするのは、少なくともヒロインに出会ってからのはず。失恋した等の描写は、ゲームには無かったはずなのである。


「そ、そうか。まぁ、いいんじゃないか?外野がともかく言う事でもないし」


もしかしたら、運命をねじ曲げて生徒会に入ったことで、彼の恋もまたねじ曲がってしまったのではないか?


(……ん?生徒会に入ってから変わった……?まさか……)


俺は知っている。ヒロイン並みのステータスを持つ圧倒的才女を。そしてその才女が、生徒会に居ることも。


「まさか……」

「気がついたか?」

「もしかしてアーベント、ルイン先輩に恋しているんじゃ……!!」

「…………はぁ?」


ルイン先輩に恋人が居るのかどうか、それは分からない。しかし彼は、俺のせいで運命が曲がったような物だ。責任は、しっかりと取らねばならない。


「俺、アーベントの恋を応援することにする……確かに先輩と後輩、それも生徒会長と書記なんて関係、業が深いけど……それでも俺は――」

「落ち着けエミリオ」


エドが俺の口を塞ぐ。そして静かに長く息を吐き、またブツブツと何かを言い出した。


「まさか本当に分かってないとは……しかもアーベントが生徒会長に恋してる?……それは違うだろ。むしろ――……これ、俺が解かなきゃならないのか?あー、面倒臭い」


「エ、エド……?」


エドは口から手を離すと、心底嫌そうな顔で言った。その顔に、何かしてしまっただろうかと不安になる。


「エミリオ……もう説明が面倒臭くなった」

「え」

「よってこの話は無かったことにしよう。あと図書室にはもう行かない方がいいぞ」

「えぇ……」


エドは遂に面倒臭いと言い切ると、テキパキと魔導書を鞄に詰め始めた。困惑しながら周りを見ると、次の授業が生物室で行われる魔獣学だということに気がつく。


急いで鞄に魔導書を詰め込みながら、廊下に出た。


「次魔獣学か!」

「あぁ。僕は魔獣学Iを専攻しているから、エミリオとは違うな」

「そうか。俺は更に魔獣に詳しい魔獣学Ⅲを専攻してるからなぁ」


そんな他愛のないことを話しながら、それぞれの教室前で別れる。その別れ際、エドの言ったことを思い出し、俺は手を振りながら言った。


「エド、悪いけど今日も図書室行くから!というかそもそも、なんで図書室に行っちゃダメなんだ?」

「……何故行く?」

「そりゃあ、ファンとしてね」


エドは顔を背けると、ぽそりと言った。


「……そういうところだぞ」

「だから何がだよ!」

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