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Die off  作者: 千三屋きつね
第六章「グラドマリステレス/グッデンハイム」

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第五節


多くの明かりに照らされて、昼日中と同じ――と言うと言い過ぎだが、洞窟内とは思えぬほど明るい大鉱道メインストリートのどん詰まりに、このオアシスの――この()の中枢たる鉱窟ギルドは存在した。

中に入ってみれば、壁や天井はそのまま剥き出しの岩肌で、ここが鉱道そのものを施設として使った場所なのだと判る。さすがに床は石畳で、そこに見事な敷物が敷き詰められており、ここが洞窟の中である事を忘れてしまいそうだ。

鉱道を利用した施設故に、鉱窟ギルド内もいくつか脇道が掘られていて、各部署はそちらに配置されているようだ。親方こと鍛冶師部門長グルドムンドは、エンジエルたちを引き連れ鉱窟ギルドを真っ直ぐ奥へと進んだ。

五十mも進んだ先で、開け放された豪奢な両開きの扉を抜けると、そこには大きな円卓が鎮座しており、小柄な人影がいくつも集まっていた。

「おう、来たな。待ち兼ねたぞ。」

ひとりのドワーフが、グルドムンドに気付き声を掛けた。他の者も一向に注視していたが、誰も口を開こうとはしない。

「そちらの方が、そうなのか?」

皆を代表して話すのは、立派な体躯でも窮屈にならないように、多少ゆったりとした大きめな――しかし絢爛豪華な衣服を身に纏った、壮年のドワーフだった。……いや、エンジエルたちには、見た眼でドワーフの年齢など判らない。ただ、威厳のある風体が、相応の年齢を感じさせた。

「おう、その通りだ。こちらの剣士殿がダイ・オフ殿。魔剣デッド・エンドの使い手だ。」

おぉ、と他の面々からも感嘆が漏れる。やはりドワーフ、その職種を問わず、武に纏わる事柄には多大な関心があるようだった。

「それから、盗賊(シーフ)のエンジエルと……、……」

そう言えば、持ち前のコミュニケーション能力でエンジエルは親方とも親しげに話していたが、シェードが鍛冶師たちと言葉を交わすところは見ていない。

「こっちのはシェード。こう見えて錬金術師(アルケミスト)よ。そしてこっちがウーミン。」

「ぎげぎゃあ。」

今はシェードの肩で大人しく、首をくるくる回していたウーミンが挨拶をした。

そのウーミン――では無く、シェードを見てひとり、堪らず駆け寄って来た者がいた。

「ちょっとちょっとあんた、何その服。素敵じゃない。」

「!……お、おぉ……」

思わず声を上げたのは、声を掛けられたシェードでは無くエンジエルであった。

「え、何?どうかした、お嬢ちゃん。」

「……ドワーフのお姉さん――ですよね。」

「あらやだお上手。おばちゃんよ、おばちゃん。あそうか、ドワーフの女の人見るの初めてなのね。おばちゃん、正真正銘のドワーフ女よ。お髭生えてなくて吃驚した?」

矢継ぎ早に喋繰るその女性は、エンジエルの胸元辺りまでの背丈にがっちり体型、しかし胸回りや腰回りは女性的な肉付きで、髭だって生えていない。服装も、パンツルックではあったが女性的なデザインに見える。ドワーフの特徴から髭だけ除き、その上で女性的。正しく女性ドワーフらしい女性だった。

「あたし、メーベリス。職人部門長なんてやってるの。こう見えてもう四百歳超えたおばちゃんよ。あでも、あくまでおばちゃんよ、おばちゃん。まだお婆ちゃんじゃ無いわよ。孫もいないし。」

「はい、そこまで。貴女、興味があったのはこっちの男の人でしょう。と言うか、この見慣れぬ服よね。すぐ脱線するの、悪い癖よ。」

「あらやだ本当。またおばちゃんやっちゃった。ごめんね、お嬢ちゃん。」

エンジエルすら口を挟めぬ早口を制したのは、もうひとりのドワーフ女性だった。こちらの女性は眼鏡を掛けており、メーベリスよりも知的に見えた。履いているのもスカートだ。

「私はエッテハンナ。食糧部門長よ。メーベリスのお目付け役みたいなものだけど、勘違いしないでね。私はまだ三百代だから、彼女よりもずっと若いのよ。」

「もーエッテちゃん、すぐそう言う事言うー。十個も違わないじゃない。おばちゃんよ、おばちゃん、ふたりとも。」

「止めてよ、メー。私はまだ若いの。貴女と違って独身だし――」

おっほん――とわざとらしい咳払いが聞こえた。

「あーご婦人方、私の挨拶がまだなんだがね。少し静かにして貰えんか。」

「あら、ごめんなさいね。どうしても我慢出来無くって。だって見て下さいよ、この――」

おっほん――再び。

「ほらメー、ちょっと黙ってなさい。」

エッテハンナに腕を掴まれて、少し後ろへ引き摺られて行くメーベリス。そこへ、豪奢な衣服の壮年ドワーフが、女性ふたりを遮るように歩み出た。

「挨拶が遅れたな。儂がこのグッデンハイムを取り仕切る、ガンデムスだ。あんたらのような客人なら大歓迎だ。メーベリスの馬鹿の暴走も、判らんでは無い。儂も、立場が無ければその魔剣に飛び付いておったかもな。」

若干偉そうにも見えるが、この地の王とまで呼ばれた男にしては、気さくとも言えた。

「この男が、鉱窟ギルドマスターだ。ドワーフ王国を倣った政治を行っているのでな。この男が王の代わりだ。」

ガンデムスの隣に並んで、グルドムンドが説明を加える。王と呼ばれたガンデムスは、少しだけ胸を反らせた。

「その王を監督する元老院制を敷いているんだが、儂のような部門長は言ってみれば王の近臣に当たる。ここにいる他の面々が――あぁ、あともうひとり、上で会ったか?アルテムスがオアシス部門長で、ここにいる者が残りの部門長たちだ。」

そう語った後、後ろを振り返り眼で促すと、

「はいはい。さっきも言ったけど、あたしが職人部門長のメーベリスよ。」

「私は食糧部門長エッテハンナ。」

そこへ、他のドワーフたちもぞろぞろとやって来て、

「採鉱部門長ウォドスだ。」

「都市計画部門長キリトネンタ、よろしく。」

「戦士部門長ゴイドヴォイド。」

最後のひとりだけ、鎧を身に付けている。紹介通り、戦士なのだろう。常在戦場を体現していた。

「ゴイドは、壊れぬ金鎚の異名を持つ伝説の戦士だ。この男のお陰で、グッデンハイムは平和でいられる。」

「ふん、壊れなかっただけだ。それに、お主の鍛える武具が無ければ、疾うに壊れておったろう。後を任せられるような若い奴が育たんから、仕方無く戦い続けとる老トロール(※)よ。」

「謙遜すんなよ、爺さん――って、ドワーフの歳は判らねぇが、こうしてるだけでも感じるものがあるぜ。あんた、今でも相当強ぇじゃねぇか。」

珍しく、ダイ・オフが他人を褒めた。思わずそう声を掛けたくなるほど、ゴイドヴォイドからは歴戦の戦士特有の空気が醸し出されていたようだ。

「おう、兄ちゃん、嬉しい事を言ってくれるな。お前さんのような強者にそう言って貰えるのは光栄だ。」

ダイ・オフとゴイドヴォイドの周りで男連中がデッド・エンドを肴にし始めると、メーベリスとエッテハンナがシェードを挟んで話に花を咲かせ始める。輪の中には王たるガンデムスまで加わっており、全体が纏まる様子は無かった。

「……え~と、それで元老院の話だっけ?」

「うん?おう、そうだったな。」

輪の外にいたエンジエルは、親方に話の先を促した。

「まぁ、元老院議員は八人いるんだが、形だけと言っても過言じゃあ無いな。ここは砂漠の中。本物のドワーフ王国とは事情が違う。グッデンハイムのありとあらゆる物が、鉱窟ギルドを通さなければ成り立たんからな。ギルドマスターと各部門長の意見が優先されるんだ。元老院議員たちは、元王国貴族たちだけに軽視は出来んが、実際にグッデンハイムを動かす力は無いに等しい。」

「へぇ~……それで親方は、単に親方と言う以上にお偉いさん――と言う訳ね。」

「ま、そう言う事だ。」

「ところで、あたし初めてドワーフの女の人見たんだけど、もしかして少ないの?」

「うん?あぁ、なるほど。確か、人間族の間じゃあ、儂らドワーフは土の中から産まれて来るから、女はいない、男だけだ、なんて言われているんだったか。」

「……それは初めて聞いたけど、とにかく全然見掛けないから。」

親方は、愉快そうに笑いながら、

「ははは、儂らは精霊じゃあ無く妖精だからな。普通に男と女で子供を作る。女だけ少なかったら、中々子供なんて出来んだろう。」

真顔に戻って、

「向こうも盛り上がっておるようだし、詳しく話してやろうか。まずオアシスだ。あそこにはひとりも女はおらん。あそこは人間相手の商売だから、ドワーフ女は役に立たんのでな。」

どうやら、髭こそ生えてはいないが、メーベリスとエッテハンナを見る限り、その他の特徴は伝え聞くドワーフそのものだ。人間よりも背は低く、しかしがっちりしていて横幅は広い。小さいだけなら可愛らしいかも知れないが、頼り甲斐のある体付きは人間族男性の好みには合うまい。無論、そう言うのが好きな物好きもいるだろうが。

「だが、地下には普通にいるぞ。お前さんたちは真っ直ぐ鍜治場に来たから会わなかったようだが、メーベリスのとこやエッテハンナのところは女の方が多いだろう。」

メーベリスは職人部門、エッテハンナは食糧部門。鍛冶師のような力仕事はドワーフであっても男向きだが、手先の器用さが必要な裁縫となれば女の方が得意であるし、作物を育てるのみならずその管理、調理と全般を見渡せば、男女関係無く従事するのも当然だ。

「ただひとつだけ、特別な部門もある。それが戦士部門だ。」

「戦士部門?ドワーフも女の人の戦士は少ないの?」

「まぁ、少ないと言えば少ないが、儂らドワーフは生粋の戦士。多かれ少なかれ、全てのドワーフが戦う事に関心がある。それは性別を問わんから、戦士になりたい女も少なくは無い。」

「それじゃあ、何が特別なの?」

「なりたいから、はいどうぞとも行かん。ドワーフも女しか子供を産めんからな。種族としては、女は戦場に出さず守っておきたい。だが、闘争本能を無理矢理抑え込む事も出来ん。だから、ドワーフの女戦士は女戦士団としてひとつに纏める。戦士にはしてやるが前線に出さん。」

エンジエルは、少し難しい顔をした。理屈は判るけど、女だからって区別されるのは何か嫌。守られるだけなんてあたしは嫌。そんな顔をしていた。

「ははは、お前さん、女どもと同じ顔をしておるな。」

「え?」

「女だろうと戦士となったからには戦うのが仕事。女どもはそう言って、大人しく後方に下がろうとはしなかった。それにな、力一辺倒の男どもと違い、多少非力なところを補うように、女戦士は女戦士らしい戦い方も編み出した。その結果、かなり強くなってしまったんだよ。戦力として温存するには勿体無いほどな。」

頑健な体を持つドワーフたちは、どうしても力に頼った戦い方をする。だからこその脅威ではあるのだが、どうしても自らも傷付きやすくなる。攻撃に比して防御が甘くなりがち――と言うより、その頑丈な体と性能の良い鎧に頼り切ってしまう。戦果は高いが損耗も激しい。

そんな馬鹿正直に正面から当たる男どもと同じ戦い方が出来ぬからこそ、相手の攻撃を躱したり、盾を用いて受け流す事で、力で劣る男どもすら手玉に取れるようになった。

「やっぱり女は強いのよ。それでそれで。」

「まぁ、それでも守りたい事に変わりないのでな。女戦士団として独立した部隊を編成し、今では一番危険なエリアの偵察を受け持っている。ただし、他の部隊と必ず合同で任務に当たる。その実力から遊ばせておくのは勿体無いが、もしもがあってはいけない。だから戦力として組み込みながら、盾となる男どもをお守りに付ける。多くの場合、男の方が格下になるくらい、女戦士団の方が強いんだがな。」

ドワーフ世界の話である。つまり、何百年も前にそう言う形が生まれた訳だ。月日が経つ内、すっかり女戦士団の方が実力者揃いになった。それでも、理念として女戦士だけで戦わせる訳にも行かない。すでに、形骸化していると言って過言ではあるまい。

「だから、女戦士を見掛ける事は無いだろう。前哨基地もあって、ほとんど街には帰って来んしな。」

「ふ~ん、そうなんだ。それはちょっと残念。でもさ、と言う事はよ。やっぱりドワーフの女の人って、ここへ来なくちゃ会えない訳ね。あ、あと、ドワーフ王国?」

「うん?いいや、世界中、どこにでもいるんじゃないか。」

「え~、うっそぉ~。あたし、外でドワーフの女の人に会った事なんて無いわよ。」

「……気付いていないだけだろう。あのふたりを見てみな。」

親方に促されて、シェードを囲んでいるメーベリスとエッテハンナを眺めてみる。

「どうだ。ちょっとがっちりして小柄な人間族と言われたら、そんな風に見えないか。」

ドワーフの特徴は、小人族でありがっちり体型。そして一番の特徴が……髭。ドワーフの女性には、その一番が欠けている。エルフのように長い耳をしている訳で無し、小柄な人間族の女性が少し体を鍛えたら、見分けが付かないくらいドワーフの女性っぽくなるだろう。

エンジエルには、思い当たる節もあった。

「ここもそうだが、元々ドワーフ王国でも、国を出て行く者は少なくない。ありがたい事に、鍛冶師や職人、戦士として需要があるから、人間族の領域内でも他の種族ほど暮らしにくく無いのでね。ドワーフの居住区がある国もある。比較的、ドワーフを見掛ける機会はあるんじゃないか。」

直接会った訳では無いが、つい先日までいたハンターヴェイル領エルドリードには、ドワーフ戦士団が軍に在籍している。その事は、盗賊ギルドで自称トーマスから聞いて知っていた。

「さっき話した通り、女戦士たちは特別だから外へ出ては行かないが、夫に付いて行く妻、裁縫などを生業にする女職人など、男連中と変わらず女たちも人間族の街へ移住しているよ。きっと、お前さんもどこかで会っているんじゃないか。気が付かなかっただけで。」

「そう……かもね。」

ミスティリア夫人――エンジエルは彼女の事を思い出していた。雰囲気など、メーベリスと瓜ふたつでは無いか。やっぱり、ただの噂では無いのかも知れない。気付かぬだけで、身の回りにドワーフ女性は溢れていたのかも知れなかった。

「しかし、これじゃあ話が進まな――」

みっつに分かれて井戸端会議が開催されてしまった場を見渡して、親方が溜息混じりにそう漏らしたその時、いつの間にか閉じられていた入り口の扉が、ばん、と大きな音を立てて開け放たれた。場違いな騒音は、皆の注目を集める事に成功した。

「親父ー!俺様を除け者とは、連れねぇじゃねぇか。」

そうして現れたのは、ひとりの若いドワーフだった――いや、後ろにふたりほど引き連れているようだ。若いと言うのも、その髭の長さ――短さだ。まだ部門長たちほど生え揃っておらず、口髭顎髭が少し伸びている程度で、ドワーフとしては短いと言える。

……そうだろうか。ドワーフ族は、五百年を生きると言われている。若さで髭が短いと言う事はあるまい。歳を取るほど髭を伸ばしがち。人間にはそんな傾向があるが、ドワーフもそうなのかも知れない。長い髭は、若者には受けないのかも知れない。

その容姿はギルドマスター・ガンデムスに良く似ており、親父との言葉から子息なのだと窺えた。違いと言えば、息子の方がより派手な格好をしていた。

「お、その人間どもだな。もう話は終わったのか?だったら、俺様の話を聞くが良い。親父たちもな。」

ガンデムスの眉間には深い渓谷が刻まれ、部門長たちは白けている。それが、この男の評価を物語っていた。


招かれざる客の登場は、しかし場を落ち着かせ話を進める役には立った。円卓にギルドマスターと部門長が着席し、部屋の右方に客人――エンジエルたちが椅子に腰掛け、その反対左方に若いドワーフ三人が着座した。

「あ~、取り敢えず自己紹介は済んだが、追加でもうひとり紹介しておこう。私のひとり息子の――」

その言葉を遮るように、がた、っと椅子から乱暴に立ち上がり、

「トットトム。俺様の名はトットトム様だ。次期ギルドマスター候補第一位の――」

「座れ。何度も言わせるな。ギルドマスターは世襲じゃ無い。お前のような馬鹿息子は、候補にすら入っておらんわ。」

「まぁまぁ親父、良いから聞いてくれ。俺様はこれから、素晴らしい功績を残すのさ。それで文句を言う奴はいなくなる。」

さらに渓谷は深くなり、

「はぁ、お前のような放蕩者に、一体何が出来ると言うのだ。」

「千載一遇の好機到来。今こそ、前々から俺様が発案していた計画を、実行に移す時なのさ。」

「計画?」

「……封鎖区画。」

その言葉に、部門長たちは(ざわ)めいた。

「トットトム、お前本気だったのか?」

「当たり前だろ、親方ぁ。俺様達の悲願――はさすがに無理だとしても、もし何か見付かればその悲願も果たせるかも知れねぇ。探索する価値はあるだろう。」

「ふざけるな!」

どん、と円卓を叩いて立ち上がったのは、壊れぬ金鎚ゴイドヴォイド。

「どれほどの犠牲を払って封印したのか判っておるのか!得体の知れぬ遺跡なんぞの為に、危険を冒す事などあり得ん!」

遺跡――エンジエルたちは聞き逃さなかった。やはりあるのだ、何かしらの遺跡が。であるならば、それはきっと古代魔族の遺跡に違いない。何せ、ダイ・オフには聞こえているのだ。古代魔族の遺産の声が。

「危険危険危険。栄光あるドワーフ戦士が嘆かわしい――とは言え、長年封印したままなのだから、ドワーフの負けを認めたようなものだよなぁ。」

「満足に戦斧(バトル・アックス)も振れん若造が、利いた風な口を利くな!」

ゴイドヴォイドも判ってはいるのだが、つい激昂してしまう。あからさまな挑発だ。だがそれだけ、忸怩たる思いあっての事。

「……確かに、些か戦斧は重過ぎる。あんな物は、護衛の兵にでも持たせれば良いんだ……。ともかく!」

トットトムもやはりドワーフ。少し気にはしているようだ。

「ドワーフ戦士だけで危ないと言うなら、是非協力を願おうじゃないか。魔剣の持ち主が当地を訪問したのも何かの縁。そうだろう?」

「なっ!?」「……そう言う事か。」

ある者は絶句し、ある者は納得した。この馬鹿息子は、自らの功績の為に利用しようと言うのだ。確かに特別な存在だろうが、外部の人間族を。

「お前……本気で言っているのか?」

父親は、心底呆れながら問い掛けるが、息子にその思いは伝わっていない。

「あぁ、本気だよ。もう何年だ。天下のドワーフ戦士団がただ守るだけで何も出来ずにいるのは。すでに恥だよ。より強い者に縋って何が悪い。」

「貴様っ!」

「おぉっとぉ、まさか壊れぬ金鎚ともあろう者が、感情に任せて暴力でも振るうつもりかい?それに俺様、何か間違った事を言ったかね。手に負えないモンスターどもを鉱道ごと封印して、臭い物に蓋をしただけじゃないか。その奥にあるお宝を諦めて。」

「ぐぬぬ……」

「言い過ぎだ、トットトム。」

親方が、ゴイドヴォイドを宥めながらトットトムを窘める。

「それに、元老院の認可はすでに下りている。あとは親父の承認を受けるだけだ。」

「な?!お前、いつの間に……」

親方、首を振り振り、

「そう言えば、お前に似て根回しだけは上手かったな。」

今度は親方、ガンデムスの肩を叩いた。

「いくらギルドマスターが全権を担っているとは言え、元老院の正式な認可を蔑ろにも出来ん。困ったもんだ。」

「ぬぅぅ……しかし、これは話が違うぞ。とにかく危険過ぎる。当時探索隊の救助に向かった戦士団にも犠牲者が出たのだ。敵の正体も良く判らんではないか。そんな場所へ再び人を送り込むなど――」

「そこで彼らの出番さ。大層立派な魔剣じゃないか。こう言っちゃ何だが、そこの老トロールよりよっぽど強そうだ。どうだ、魔剣士殿。力を貸してくれれば、相応の報酬は約束するぞ。」

水を向けられたダイ・オフ、本来ならばこんな不躾な馬鹿息子の言う事など聞く耳持たないところだが、今は少し事情が違った。馬鹿息子の話が実現すれば、望み通り遺跡へ向かえる。

遺産を掠め取るつもりは無いが、今までの遺産が遺産だ。仮に彼らが手にしても、きっと良くない結果を招く。ならば一緒に発見して、場合によっては処理する事が彼らの為にもなるだろう。

仮に今この話を断っても、その内この馬鹿息子は計画を実行に移すだろう。無視は出来無い。

「あたしたちは冒険者なの。面白そうな話じゃない。任せといて。」

「な?!」

「お、話の判る女がいるじゃねぇか。人間なのが惜しいな。ま、俺様の女に加えてはやれんが、報酬は弾むぞ。」

顔を引き攣らせながらエンジエル、

「ありがとう、トットトム様。やるからには、ちゃんとお役に立って見せますわ。」

「どうだ、親父!これなら文句は無ぇだろう。」

鬼の首を獲ったように、トットトムは父親へと迫った。その陰で、親方がエンジエルの許まで来て耳打ちする。

「どう言うつもりだ?」

「う~ん、一応確認取れるまで断言は出来無いけど、その遺跡には悪い物があるかも知れないの。ダイ・オフなら、それを何とか出来るわ。このままあの馬鹿息子を放置して、勝手に遺跡に向かわれちゃうのが最悪だと思うの。それに、あたしたちの目的もその遺跡だったから、利用させて貰う――ってつもり。」

「……なるほど。お嬢ちゃん、思った以上にやり手の盗賊なんだな。」

「へへ、まぁね。……そう言う家で育ったから。」

「えぇい、儂はもう知らん!好きにしろ!ただし、最低限の戦力としてゴイドヴォイドが選りすぐった戦士たちを連れて行け!犠牲者を出したら、功績などより罪が重いと心得ろ。良いな!」

終に折れたガンデムスが声を荒らげた。トットトムの封鎖区画再探索計画は、こうしてギルドマスターの承認を得た。これでエンジエルたちも、声の許へと進めるようになったのだった。


※老トロールは、例の異世界っぽさを単語で表現しようの一環。ロートルが中国語由来の言葉なので変えてみた。まぁ、年老いたトロールは役立たずと言う、そのまんまの意味(^^;

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