第四節
何人かは足を引き摺りながら、族長アルヴォスターとその息子エルヴィヴィエンド、そして黒衣の客人ふたりの後を付いて行く。
傷ひとつ無いが、生命力を吸われた者は気力体力共に減退する。まだヴァルハロスは、O・D・Iを加減して操れはしない。何とか動けるのは、エルフ離れしたその体のお陰だろう。
「!お――族長!まさか本当に神樹様の許へ案内する気か?!」
とある場所までやって来た時、エルヴィヴィエンドが声を荒げた。
「……当たり前だ。そう言ったはずだ。」
「しかし……」
「エルヴィ、不服なら付いて来る必要は無い。ここで衛兵の真似事でもしていろ。」
「親父っ!……く、いや、族長。俺たちも付いて行きます。」
「……失礼した。どうぞ、こちらです。」
息子には冷たい一瞥をくれて、客人には礼儀正しく頭を垂れる。そんな様子を、ヴァルハロスは無表情に受け流した。
その場所は、何かの祭事でも行うであろう、他とは趣の違う建物だった。宗教的な、民族的な特徴は判らずとも、ここが特別な場所であると感じ取れる荘厳さがあった。
そして、何より古かった。周囲の建物とは、明らかに年代が違って見える。にもかかわらず、手入れは行き届いており破れた感じは見受けられない。
大きさは周りの家々よりも小振りで、生い茂った緑が包み込んでいるのも特徴的だった。
その建物の扉を押し開き、族長は中へと消えて行く。その後に息子が体を小さくして続き、ヴァルハロスも背中の大剣が引っ掛からぬよう注意して進んだ。
その建物の中には、階段しか無かった。つまり、ここが目的地な訳では無かった。階段は、地下へと続く。それは、O・D・Iが感じ取った目的の方向に一致する。
神樹――と愚息が口走ったそれが古代魔族の遺産なのだろうが、樹が地下に生えているのだろうか。
その疑問は、すぐにも解決した。螺旋状に地下へと続く階段を下りて行くと、数mほど下ったところで中央の広大な空間に葉が生い茂っているのが見て取れた。どこからか光が差し込み、それを反射でもしているのだろうか、その空間は光と影に彩られていた。直径数十mほどの地下空間の中央に巨大な樹が根付いており、その高さ――空洞の深さは、二十~三十mほどもあるだろう。
「これはまた……見事な大樹ですわね。神樹と呼びたくなるのも頷けるわ。」
アマンダは、その巨木の姿に感嘆した。そして、アマンダ独自の感性でも感嘆する。――蟲、そして虫の気配が無い。
普通、自然の樹にはそれがどれほど荘厳な巨樹であろうと、様々な虫――蟲が棲み付いているものだ。特殊な力を持ってはいても、蟲も自然の一部なのだから。
だが、ここには一切棲息していない。これほど自然に溢れているのに、蟲の気配はまるで無い。
悪い波動ではあるまいが、虫や蟲が忌避するような、特別な何かが発せられてでもいるのだろう。それが、神の如き樹であるからか、古代魔族の遺産であるからか、本物の魔法使いでは無いアマンダには判断が付かない。
螺旋を下り切り、大樹が根付く広い空間へ出ると、その大樹の前に祭壇らしき物があり、その祭壇の前にひとつ人影があった。
「……ツィリギ。来ていたのか。」
族長に名を呼ばれた少年――そう、まだ幼さの残るエルフの少年だった。とは言え、人間族で言うなら十代前半――愛妹エンジエルの少し歳下くらいの外見だ。あくまで、人間族で言えば――であるが。
「族長、おはよう御座います。これも私の務めですから。……今日は、随分たくさんご参列なんですね。」
族長以下、その息子エルヴィヴィエンド、見知らぬ人間がふたり、自警団の残りのメンバーまで揃っての訪問に、ツィリギは不思議そうな表情を浮かべた。
「おう、ツィリギ。今日は特別だ。お前はこっちへ来ていろ。」
エルヴィヴィエンドはツィリギを捕まえて、自警団の仲間の許へと連れて行った。そして、自分はすぐさま取って返し、油断無く闖入者に注意を払った。
族長は祭壇前まで先導し、そこで踵を返して客人へと向き直る。
「……これがお探しのものでしょう。」
「……あぁ、そのようだな。」
神々しい巨木を前に、ヴァルハロスは無表情のままそれを見上げた。全く、古代魔族とやらは何を考えてこんな物を。間違いなく遺産と呼ばれる魔導器だが、こんな大きな魔導器――しかも、土地に根付いた物をどうしろと言うのだ。
「それで、こいつはお前たちにとって……何だ?」
きっとこの遺産は、自分には関係の無い代物だ。そうは思うが、可能な範囲で正確な情報は欲しい。理解もせず、早計に判断を下す事は避けるべきだろう。ここまで思い込みだけで行動し、痛い眼にも遭っている。腕を磨くだけで無く、人としても成長せねば、己の願いなど叶えようも無い。
「……繁茂の神樹……私どもはそう呼んでおります。この地が緑豊かなのは、全てこの神樹のお陰。私たちエルフは――いえ、本来この地に住む者全て、神樹の恩恵に感謝し、祈りを捧げて生きて来たのです。」
「それをあの人間どもは、増長して神樹様への感謝も忘れ、我が物顔で支配者気取り。俺たちエルフにも非道な行いを――」
「エルヴィ、お前は少し黙っていろ。」
「しかし、親父!」
対立する父と息子。血が繋がっていようと、種族が違えど、父子とはそう言うものなのか。ヴァルハロスはそんな事を思いながら、大体の事情も察していた。
なるほど、ここグラドマリステレスは、こいつの力で繁栄した訳だ。都中が緑豊かなのも遺産の力。そして、その恩恵は元々、この地に住む者全てに平等に与えられていた。
だが、エルフ族と人間族には、決定的な違いがある。寿命。こればかりはどうしようも無い。
もしかしたら、この族長、当時からずっと生き続けて来た生き証人なのかも知れない。見た眼は若くとも、エルフは千年を生きる長命種。族長と言うくらいだ、見た眼通りの訳が無い。
だが人間は、長く生きても数十年。代を重ねれば、当時の事など伝言ゲームで正しく伝わらないだろう。
いつかどこかで、エルフと人間の認識にずれが生じた。都の人間たちの態度を見るに、都の中心に国の繁栄を司る樹が存在する事など、知りもしないのだろう。
権力者の発想だ。これほどの恩恵、他国に知られれば争いの元ともなり得る。秘匿する事を決めた時、民から神樹の恩恵は消え去り、何故か異民族だけが残される。
真実を知らない民はエルフを疎み、むしろ自分たちに代わって神樹を守ってくれている事を知る権力者はエルフに罪悪感を抱く。それが、この地の歪さの正体なのだろう。
「とにかく!神樹様の事を知られたからには、このまま帰す訳には行かねぇ!」
「……愚か者が。」
すると、エルヴィヴィエンドの足元から大量の蔓が湧き出し、その筋骨隆々な体を締め上げた。
「ぬぉ!親父、手前ぇ、何しやがる!」
その光景に、部下である自警団員たちは騒めくが、どう反応すれば良いのか判らず動けなかった。ヴァルハロスとアマンダは、少しも動じていない。敵意が自らに向けられていない事くらい、彼らには判る。
「……今姿は見えませんが、もうひと方は――吸血鬼――ですね。」
「何?!」
「しかも、陽の下を歩く者。真祖とお見受けする。」
「馬鹿な!そんなお伽話の存在、いる訳が……」
「……いるんだよ、本当に。千年も前には、どんな土地にも貴族として君臨していたものだ。幸い私は、出遭う事が無かったから今もこうして生きているがな。」
「っ……」
「……今はどちらに?」
「ふ……族長ともあろう者が自棄に腰が低いと思えば、そう言う事か。確か……奴も元はどこぞの伯爵だったな。今は上にいる。俺の眼として、一応な。」
やはりアルヴォスターは、千年以上生きているのだろう。実際の吸血鬼を知る者は、その脅威を決して軽んじたりはしない。
「!お、親父!確かに吸血鬼は恐ろしいんだろうが、今そいつは傍にいねぇ。だったら――」
やれやれと首を振りながら、愚かな息子に向き直り、
「本当に愚か者が。何故傍にいないか、考えもしないのか。」
「……どう言う事だよ。」
「……吸血鬼は、個人で能力にも違いがある。もしかしたら、いつでもすぐ傍まで瞬時に移動出来るのやも知れん。」
「そんな……能力が?」
「蝙蝠や狼に姿を変える者もいる。あの巨体を小さな鼠の群れに変えて、ここまで一気に駆け下れるかも知れん。実際のところは判らないがな。」
「……」
「それに――」
アルヴォスターは、愚息からヴァルハロスへと向き直り、
「ひとつ勘違いしておいでだ。私は貴方に敬意――いえ、畏怖を感じている。」
「な、何でだよ!」
「そんな吸血鬼を従えているのは誰だ?」
「あ?!……」
「お前は大人しくしていろ。相手の力量も判らぬ未熟者に、どうこう出来る相手では無い。私たちの運命は――この国の運命はすでに、この方次第なのだ。私たちは、貴方の慈悲に縋るより他に無いのです。」
「……」
すっかり大人しくなったエルヴィヴィエンドにも、ようやく父の考えが理解出来たようだ。
買い被りだ。俺はまだそこまで強くない。ヴァルハロスはそう思ったが、と同時に、今の自分でもこのエルフたちを鏖にする事は難しくあるまい――とも思う。強さには天井が無い。癪だが、あの男に負けてから身に付けた力は、それまでの常識を覆すものだった。自分はまだまだだが、疾うに常人の域は超えている。
「っ――」
口を開き掛けたヴァルハロスだったが、その前にアルヴォスターが言葉を紡いだ。
「すぐに答えを出さずとも良いでしょう。どうぞ、存分に検分なさってからお考えをお聞かせ下さい。それまで、しばし当地にご逗留下されば幸い。」
そうして、深々と頭を垂れた。蔓に巻かれたままの息子も、もう反対の声は上げない。
ヴァルハロスは、あくまで自分が、乃至アマンダが利用出来る古代魔族の遺産を手に入れ、戦力の充実を図るのが目的だ。こんな土地に根付いた巨木をどうこうする事は出来無いし、その気も無い――が。
「判った。そうさせて貰おう。」
「ヴァルハロス様?」
「何、急いで結論を出す事は無いだろう。何事も――な。」
「……判りました。」
アマンダはヴァルハロスの真意を測り兼ねたが、元より逆らう事などあり得ない。何と無く、天使との再会――いや、死神との邂逅から、少し考え方に変化が見受けられた。これもそうなのだろう。アマンダはそう理解した。
「それでは、私の家に客人用の離れがある。そこへご案内しよう。ツィリギ。」
アルヴォスターは、少し離れて待機していた自警団の陰にいた少年に声を掛けた。
「は、はい。」
「悪いが、お客人を案内しておくれ。それから、お前にお世話役を申し付ける。……出来るな。」
「お、おい、親父、一体どう言う――」
「はい、お任せ下さい。立派にお務めを果たしてみせます。お、お客様方、ど、どうぞこ、こちらへ。」
ヴァルハロスは無言のまま族長と少年を交互に見交わしたが、何も発さず少年に付いて行った。
「おい、お前達、手を貸してくれ。馬鹿息子をこの蔓から出してやってくれ。」
「な、何?!親父手前ぇ、こいつをどうにか出来無ぇのか。」
「ふん、相手の自由を奪う魔法だ。自然である蔓を操っている訳では無いのでな。こうなった物をどうこうする魔法は知らん。」
「こ、こんの糞親父……」
暴れてさらに蔓が喰い込んだエルヴィヴィエンドの苦鳴を背中に聞きつつ、ヴァルハロスたちはツィリギとともに螺旋を上って行くのだった。
「どうぞ、こちらです。」
遠巻きに訝しむ視線を浴びつつ、少年の案内でヴァルハロスたちは目的の場所へ辿り着いた。どうやらそこは、人間族の客人を迎える為の離れなのだろう。造りが都のそれと同じで、且つそれなりに豪奢であった。つまり、普段迎える客人は貴人と言う事だ。
「えぇと……お泊りする方はほとんどいないので、寝室はひとつしか無いんですけど……」
「ふふ、気にする事は無いわ、坊や。」
特に意図せず、それがいつもの行動故品を作ったアマンダに、顔を赤らめる少年エルフ。
「つ、ツィリギです、お客様。」
「……ヴァルハロスだ。こっちはアマンダ。」
無表情に自己紹介をするヴァルハロスへ、
「えぇと……そちらの方は……」
少し後ろを付いて来ていた、他の住人には視えていなかった黒衣へ眼を向けるツィリギ。
「ほう、視えるか。O・D・Iだ。気にする事は無い。奴は中へは入らん。」
そう言うと、O・D・Iの姿が掻き消える。屋根の上へと翔んだのだ。デイ・ウォーカーとは言え吸血鬼。もしO・D・Iに自我があるなら、せめて陽陰にと要望したかも知れない。あくまで陽光への耐性を持つだけであり、陽光が弱点である事に違いは無いのだ。幸い離れは、木々によって影の中にあったが。
「ツィリギと言ったか。良ければ少し話を聞かせて貰えるか。」
「え、えぇ、もちろん。ぼ、私で宜しければ。」
これにはアマンダ、少し驚いた。とは言え、わざわざ話に乗って留まると決めたのだ。自らの眼で見て、耳で聞き、肌で感じて知ろうとの考えであろう。その一環なのだと納得する。
ツィリギが香茶を用意するのを待って、客間で三人は話し始めた。
「そ、それであのぅ……どう言った事をお話しすれば……」
アマンダが香茶を味わった後、ひと呼吸置いてヴァルハロスも香茶をひと口啜り、
「……若く見えるが、いくつなんだ?あまり異種族との交流は無いのでな。エルフの年齢も良く判らん。」
「あ、はい。私は聖地では一番若くて、もうじき百になります。」
これにはふたり、少し驚きが顔に出る。
「わ、若い――のかしら。」
「これは失礼した。こちらの方が遥かに若輩者だったな。」
「い、いえ、とんでも無い!エルフは長命種だから、その分成長も遅いんです。私など本当にまだまだで……」
「族長は、千年を生きて来たようだな。」
「は、はい。今では聖地で唯ひとり、神樹様をお祀りし始めた頃を直接お知りになっているお方です。」
あれが古代魔族の遺産である以上、その出自は千年を遡る。そしてエルフは千年を生きるのだから、当時を知る者がいてもおかしくは無い。むしろ、族長しかいない事が意外と言えるかも知れない。
「ツィリギはあれ――神樹について何を知っている?」
「え?えぇと……」
「どう聞かされている?」
「あぁ、はい、そうですね……元々この地は、不毛な土地だったと言います。しかしある日、急に一本の巨木がそそり立っていた。それが神樹様です。」
なるほど――と、ヴァルハロスは思案する。何某かの魔導器を種のように植えて、それが神樹とやらになったと思っていたが、端からあの姿の魔導器だったと言う事か。……しかし、古代魔族とやらはどんな奴腹なのか。あんな規格外の物を置き去りにするなど。
「神樹様によってこの地は緑に溢れましたが、不思議な事に森とはなりませんでした。あくまでも木の実や野菜など、食べられる植物が中心だったと。」
……それが、神樹と言う遺産の力――か。単に植物を繁茂させるだけのものでは無く、人が――いや、もしかしたら、古代魔族が食える物――と言う事か。自然を作り出すと言うよりも、食糧を得る為の手段。
何故、古代魔族がこんな代物を作ったのか疑問だったが、もしかしたら極寒の地と聞く魔界に使うつもりだったのか。……いや、だとしたら、何故魔界では無くこんな場所に。
「不毛な土地で豊富な食べ物が得られるようになって、たくさんの人々が集まりました。当時は、エルフや人間だけで無く、様々な人たちが人種を問わず集ったそうです。」
「あら、だけど今は人間とエルフしかいないわよね。」
「えぇ、その通りです。何百年かすると、役割が出来て来ました。エルフは神樹様のお世話をし、人間は街を築く。そうして国が興り、形がはっきりして来ると、エルフ以外の亜人種たちは時代の流れとともに姿を消して行きました。」
魔法種族を中心に、亜人種たちが人間族に駆逐されて行ったのは、この地特有の話では無く、その通り時代の流れ。むしろ、この地には神樹があるからエルフだけ居残ったと言った方が正確だ。
「……あら?そう言えば神樹様って、地下にあったわよね。古代魔族はわざわざ穴の中に樹を植えて行ったの?」
「古代?……その方々が、神樹様をこの地にお与え下さったのですか?」
「あ、えぇと……まぁ、そんな感じね。ほら、いきなりあんな大きな樹が生えたりしないでしょ。古代の誰かが持って来たって話よ。」
古代魔族――などと言う存在があった事を、今の世界は知らない。彼らがどんな存在だったか。それは、数少ない古代魔族を知る者ですら知らない。
「そうですね、たったいち日であんなに大きな神樹様が現れたと言うのですから、自然に生えたものとは思えません。その神樹様ですが、最初は小高い丘にお立ちになっていたそうです。」
「え、そうなの?でも……」
「長い年月で段々と地面が陥没して行き、地下に埋まって行ってしまったと聞いています。」
あくまで魔導器。本物の植物では無いのかも知れない。であれば、地面の下に根を張り巡らしていない可能性もある。その上で、あれほど巨大であれば相当重いだろう。……とは言え、自重だけであそこまで沈下してしまうものだろうか。
「……特に、神樹様がお力を失い掛けた時に、地面が沈んだと言う事です。」
「力を――失い掛けたのか。だが、今も健在と見える。力を取り戻す方法があるのか?」
常に笑顔を絶やさなかったツィリギが、少し俯き表情を曇らせた。
「……はい。神樹様がお疲れになり、そのお力が弱ってしまった時には……生贄を捧げます。」
「……」
アマンダは絶句したが、心は痛まなかった。生贄など、珍しい話では無い。ここにも、里の生贄となった女がいる。
ヴァルハロスは合点が行った。この神樹と呼ばれる魔導器は、未完成品――いや、失敗作だったのだろう。どのような形で必要とするのか判らないが、生贄無くば力を失う。そんな失敗作を故郷で使う事など出来ぬ。だから、姿を消す際に棄てて行った。
「生贄と言っても、何十年、場合によっては何百年かにひとり。それで神樹様が――仲間や多くの人々が飢えずに済みます。尊い犠牲です。」
エルフが神樹の世話を焼く。道理で人間の権力者たちが、エルフに罪悪感を抱く訳だ。恩恵だけは受けながら、何を差し出す訳でも無い。常に血を流すのはエルフ。
そして、それを知らず恩恵だけ享受している国民たち。この国の歪な姿は、古代魔族の遺産の歪さそのものだった。
「……それで、次の生贄はもう決まっているのか?」
次――動力なりが枯渇したら命で補わなければならない。そう言う魔導器である以上、もう生贄が必要無い――と言う日は、終わりの日以外に訪れない。今も尚グラドマリスト王国が繁栄を続けている以上、生贄は必要であり続ける。
「……はい。まだ当分先だとは思いますが、その時まで私が神樹様のお世話を承っています。」
そうしてツィリギは、それまでの明るいだけの笑顔とは違う、決意を秘めた笑顔を浮かべた。あぁ、そう言う事か。アマンダは、そこにエンジエルを見た。
顔形が似ている訳では無い。ただ、その強い笑顔はエンジエルを思い起こさせた。天使も、心の奥に重いものを秘めていた。それでも、笑顔を絶やさなかった。
そんな妹と重なるところがあったのだろう。だから、この子を気に掛けたのかも知れない。アマンダにはそう思えた。
「……そうか。」
ヴァルハロスは、それ以上は何も尋ねなかった。




