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13.庭園にて

 男たちは、13回目の最後の勝負を終えたばかりだった。

「いやー、今回も負けてしまった。これ以上、私から財産を取らないでくださいよ」

 勝負に負けてしまった男はポリポリと頭をかき、賭けの対象である大きな宝石がついた指輪を赤毛の男に差し出した。


「今日の主催はあなたなんだから、勘弁してほしいですよ」

 そう男は不満を言いつつも、勝負自体は楽しかったのか表情はにこやかだ。

「いやいや、私が勝てたのはまぐれですよ。現に、この勝負はなかなかの接戦だったではありませんか。では、この指輪は息子への結婚祝いとして頂きましょう」

 そう言って、赤毛の男はコートのポケットの中に指輪を入れた。



 勝負に決着がついたのを確認し、次の対戦相手が彼のいるテーブルが着く前に、キースは赤毛の男の元へと駆け寄った。

 椅子に座っている彼よりも低い位置に屈むと

「アーロン様」

と声を掛けた。


 普段、この屋敷では聞きかない声の主だ。はて……とアーロンが目を落とした先には、この屋敷には絶対いるはずがない、キースがいた。

「どうした、キース……! なぜ、こんな所へ? さては、あの子の身に何かあったのか?!」

 驚いている様子だが、大声ではなく静かな声で、アーロンは必死な目をしたキースにそう聞いた。


「はい、実はエル様がパリに行くと置き手紙をして、家を出て行かれたのです」

「なぜ、そんな急に……あの子の周りで、何か変わったことは? 手掛かりになりそうなものはないのか?」

「手掛かりというか……数ヶ月前、諸事情で一夜の宿を借りたいと、貴族か富豪の令嬢とその婚約者が現れまして。彼女たちはパリへ戻る途中だと言っていました」


 数ヶ月前、令嬢と婚約者、パリ……アーロンはふとした事を思い出した。

 以前、自分の息子が婚約者と一緒に彼女の祖母の家から帰る途中、馬車の故障で困っていたところ、少年に声をかけられ、婚約者を彼の家に泊めさせてもらった。

 そのお礼として、今日の舞踏会に招待すると息子が言っていたのだ。


「キース、その令嬢と婚約者の名前を教えてくれないか」

「ファーストネームしか分からないのですが、クリスティーヌとユリエルとおっしゃっていました」


 なんて事だ。こんな偶然があるだなんて……! だが、あの子が彼女たちに会いに来たならば、この屋敷内にいるはずだ。

 アーロンはそう思うと、すぐに他の招待客の相手をしている3人のおじたちを呼び寄せて事情を話し、エルの捜索を依頼した。


◆◆◆


 夜の花が咲く庭は、昼と異なるロマンティックな様相を呈し、どこか妖しげな雰囲気も醸し出している。

 その中を少年少女らしき人物たちが歩いていた。少年は初めてのエスコートだったのでどこかぎこちない。

 だが、一生懸命さだけは伝わってくる様子だ。


 彼らは目当てであるガゼボを目指していた。丸い屋根に凝ったデザインの円柱。東屋の役割でありながら、庭の可愛らしいアクセントとなっていた。

 そして、そこに到着すると、ガゼボのデザインにマッチする、優美な曲線が印象的なベンチが置かれていた。

 少年は少女をそのベンチに座らせると、自分もゆっくりとそこに腰かけた。自然と二人は見つめ合う。


「本当にそっくり……」

 エルは思わずラウルの顔を手で撫でた。ラウルは、エルの行動に驚きつつ、そして赤面した。

「君、さっきからすごく大胆だね」

「いや、本当に驚いた。まさか、こんな自分によく似た人間がいるなんて」

「そうかなあ」

「そうだよ!」

 思わずエルは声を荒げる。ラウルは一瞬ビクッとしたが

「僕だって驚いたよ。だって、君、亡くなった母様にそっくりなんだもん」

と言葉を発した。


「なんだって!」

 今度はエルの方がビクッとした。母様にそっくりって……どう言う事だ? と彼は首を傾げた。


 というのも、エルは自分だけ田舎に住まわされていたこと、父親や母親は通いで会いにきていたこと。

 その点を踏まえて、実は自分は父と母の私生児で、ここは父が本妻と住む屋敷なのではないかと推理していたのだ。

 だが、ラウルの言葉でその予想は外れた。母様は同じなのか……? じゃあなんで? エルはより一層混乱していた。


「それじゃあ、まさか、お前の母親の名前はミシュリーヌと言うの?」

 興奮気味に、エルはラウルにそう聞いた。

「うん、その通り!」

「うそー……実は、自分の母親の名前もミシュリーヌって言うんだ」

 その言葉に、今度はラウルが目をまん丸くする。彼らは自分の年齢、父やおじたちの特徴を確認しあった。


「信じられないけど、僕とエルはきょうだいってことだ」

 ラウルが結論づける。

「でも、なんで、離れ離れにさせられてたんだろう」

 エルはそう言って首を傾げた。

「なんでだろうね……でも、僕は嬉しいよ。だって、こんな可愛らしい姉か妹がいたんだから!」

 万年の笑みを浮かべるラウル。だが、そんな彼の笑顔を見て、エルは思わずぶーっと吹き出した。


「ちょ、ちょ、ちょ、姉か妹って……ギャハハハハ! あー、おかしい。ラウル、本当にお前って女に免疫ないんだな」

 なぜ、エルは笑うのだろう。

 そして、小馬鹿にされたことに対し、ラウルは眉間にしわを寄せた。そんなに風にいわなくても……とぶちぶち何かをいっている。


「じ、じゃあ、い、言っちゃ悪いけど! 君だって、さっきから言葉使いが凄く悪いじゃないか。だから、強制的にそんな田舎に住まわされて、淑女になる教育でも受けさせられてたんじゃないのか?!」

「あー、ごめん、ごめん。悪かった。だから、そんなにムキになるなって」

 エルは興奮するラウルを宥めた。


「あのな、お前は一つ間違ってる。自分はお前の姉でも妹でもない」

 ラウルの顔は眉間にしわを寄せたままだが、エルの今の言葉で、混乱している表情が加わった。

「まさか、ここまで騙されてくれるとはね。コルセットでギュウギュウ締め付けられた甲斐があったかな。嬉しいよ。じゃあ、タネ明かしになるけど……俺は男だ」


 そんなー! とラウルは大声を上げた。

「うそだ、うそだ! じゃあ、なんでそんな格好を? まさか、君、いわゆる……お、お、」

「おいおい、変な方向に勘違いし始めてるけど、女装したのはこれが初めて。まっ、いろいろ事情があってね。それよりも、ふー、長時間締め付けられてたせいで疲れてきた。悪いけど、お前の部屋に連れてって服着替えさせてくれない? 案内してよ」

 そう言って、エルはスカートをたくし上げるとベンチから立ち上がった。

 

◆◆◆


 一方、アーロンからエルの捜索を命じられた三人は、なんとも言えない表情で彼を探し回った。

 ミカエルは大広間、ラファエルは大広間以外の屋敷内、ザラキエルは厩舎の中。しかし、エルはどこにも居なかった。


 三人は大広間に集まって結果を報告し合うが、見たと言うものは誰もいない。

 よくよく考えたら、パリに来たことがない人間がここまで辿りつけるだろうか。

 あの家からこの家まではかなり距離があるし、道に迷って今頃大泣きしているのでは。あり得なくはないな。と三人が同じく思っていると、お喋りに夢中の若い女性たちの声が入ってきた。


「きゃー! 本当なのそれ? あなたの見間違いではなくて?」

「いえ、本当よ。残念ね〜。だから、いつも遅刻するのはよくないっていってるのよ。そういう面白いものが見れたりするんだから」

「だって〜、ユリエル様に見られると思ったら、ドレスの色もなかなか決まらないんだもの」

「なあによ、今更。私たちのユリエル様はもう、クリスティーヌ嬢のもの。まあ、弟君のラウル様だったら、まだ空きはありそうだけど」

「え〜、嫌よ。確かにお顔は可愛らしいけど、陰気臭いんだもの。ラウル様は。それに、今夜はどこかのご令嬢とご一緒なんでしょ? お庭に出かけられたなんて、きゃー、破廉恥! ぜひ、その令嬢のお顔を拝見したいものだわ」


 あのラウルが? 三人とも彼が小馬鹿にされている事には腹が立ったが、彼女たちの言う通り、ラウルが女性をエスコートしているなんてやはり変だ。

 何かあるのかもしれない。彼らはコクっと頷くと、ラウルを探しに広大な庭へ走った。

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