体の母
お父さんは仕事で忙しく今は地方に行っている。祐希は春休みだがバスケ部の朝練に参加するため少し早く起きてくる。
そんな日常。だが今日は1ついつもと違うことがある。美穂が入学式なのだ。
いつもは行かないパン屋で買ったクロワッサンをトーストに入れる。バターの甘い香りでキッチンが満たされる。フライパンにバターを敷くとパチパチと音が鳴る。
そこに卵を割り入れるとシューと一層派手な音を鳴らす。卵の濃厚な香りがバターの香りに包まれ頭が黄色くなる。
せこせこと朝ごはんを作っていると「おはよー」と、まだ少し眠気を感じる声が聞こえる。
「おはよう」と返して祐希を見るとツノのような寝癖がついていて思わず笑ってしまう「何その寝癖」と笑いながら伝えると「ん?」と一瞬考え、自らの頭に手を伸ばす。想像より高い位置で髪に触れ理解する。
「過去1ででかい寝癖かも!」そういい洗面所に向かう。朝から笑顔にしてくれる息子。立派に育つとはいろんな解釈があるとは思うが私の中では凄く立派に育ってくれたと思う。
洗面所から帰ってきたら祐希は満足そうな笑顔で「これやばいね、このまま部活行ったら皆んなビックリするかな」と話す。
笑いながらやめときなさいと話すと、はーいといいまた洗面所へと向かう。
「あ、そういえば」と祐希の足が止まる。「今日って美穂入学式だよね?」「そうよ、どうしたの?」「もうこんな時間だけど大丈夫?」時計を見て驚く。
起こして欲しいと言われた時間を数分過ぎていたのだ。急いでご飯を用意し、美穂を起こしに行く。
部屋から眠そうな声で返事があり安心する。
一階へ戻ると寝癖を直した祐希がご飯を食べている。1分もないこの時間でどうやってあの寝癖を倒したのかと驚いていると、後ろから足音が聞こえる。祐希の目が輝く。
「お、美穂おはよう!今日は入学式だな!頑張れよ!てかまだ着替えてないけど間に合うのか?ネクタイの結び方、分からなかったら教えるぞ!」「こっから着るし女子はネクタイつけないの。」「たしかにそうだな!」下手くそな冗談はお父さんに似ている。
優しくて家族思い、いつも家族を明るくしてくれる。だけど少し不器用で空回りするところもある。そんなところも愛されるようなそんな子どもだ。
美穂だってそう。今は思春期に入りかけているが根は純粋で誰よりも家族を好いている。去年までは兄にべったりだったが最近になり距離を感じるようになっている。だがそんな変化でさえ幸せだと感じる。
美穂と準備をすすめ、最後に制服の確認を行う。離れてみると、こうも成長していたのかと知る。近過ぎて気づかなかった。
よく転ぶ子だった。いつも膝には絆創膏をつけて。転ぶたびに大粒の涙を浮かべ私が手当てをする。泣き止む頃にはお父さんと祐希が美穂を笑わせてくれていた。
その手はいつの間にか大きくなっていた。最後に手を繋いだのはいつだろう。小さくて柔らかい、私が守らなければと感じていたあの手。いつから離れていたのだろう。
プリンセスになると意気込み伸ばしていた髪の毛も入学式に合わせて流行りのアイドルに似せたミディアムヘアーになっていた。
思い出と今が重なる。涙が出そうになるが必死に堪える。貴女が娘でよかったと、生まれてきてありがとうと、そう思う。
キッチンで食器を洗っている間に祐希が「いってきまーす!」と家を出た。その数分後娘も「行ってきます」といい家を出た。制服に身を包んだ、新しい日常が始まった。
2人が出た後家事を済ませ、思い出のアルバムを振り返る。家族写真を見るたび小さかった2人をみてまた、涙が溢れる。
ヴーヴー。スマホが鳴る。見知らぬ電話番号。一瞬体が強張る。嫌な予感がする。思い当たる節を考えながら電話に出る。
「もしもし、祐希さんのお母様でしょうか?」聞き馴染みのない声が聞こえる。「はい。祐希の母です。」「息子の祐希さんですが、、、おそらく登校中に事故に遭いまして。今✖︎✖︎病院にて治療をしております。正直助かるとも言い切れない状況です。」
様々な疑問が頭に浮かぶも整理しきれず言葉が出ない。なんとか「分かりました。今向かいます。」とだけ伝え一度電話を切る。何も、わからない。とりあえず家族に電話を。




