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第9話

 ツクツクボウシの声がまだ絶えぬ残暑きびしき日の午後。

 この日はマーケティング課の予算編成準備会議であった。来年度の予算計画を立てるため、課員全員に召集がかかった。

 社長から予算編成方針は降ろされていて、来年度増設する下関と熊本の物流拠点に予算を割くため、全課5%の予算削減が厳命されていた。

このプラン、遠藤がさきのプレゼンで社長に提案した戦略である。当然、遠藤は気をよくしていた。予算削減に強い同調がある。

彼の所管するマーケティング課の場合、300万円の予算削減が命じられていたが、遠藤は聖域なき断行で臨むつもりでいた。

 ところがだ、

「テマヒマには手はつけられんだろう。重点商品だぞ!」

 一商品の販売促進費に遠藤はこだわりを見せた。この商品、正式名称を“手間ひまかけた雪塩大福”となが~い名前がついているが、彼らは略してテマヒマと呼んでいる。遠藤のこれまたこだわりでマーケティング課の指定する重点商品枠に残っている。

 これにオヤブンが異議を唱える。

「せやけどテマヒマの売り上げは8%落ちてます。にもかかわらずこの商品には120万の販促費用をかけてます。強化期間は終わったと考えるべきやないですか。これを削るのはおかしな話やないと思います」

 乗じて冴子がオヤブンの肩を持つ。いつもオヤブンが盾になってくれている安心感からだろう。

「塩テイストのニーズはピーク過ぎたんじゃないかしら」

 これに遠藤がカチンと来た。

「ピークが過ぎただと? 客観的な証拠は示せるのか? なあ、おい、東原!」

 遠藤は平静さを失った。

「おまえ、思いつきでいうんじゃないぞ。会議というのは女子会のおしゃべりの場じゃないんだ。言うにはそれなりの根拠がいるんだよ! 根拠を示してから言え!」

「はーい! はい!」

 オヤブンが手をあげた。

「なんだよ、清水?」

 遠藤がオヤブンをにらむ。

「思いつきは大切やと思います。僕らの仕事って過去のセオリーでやるもんやないでしょ? 思いつく奇抜な発想が売れる商品つくる基(もと)やと思うんです」

「知ったようなこというな!」

「お言葉ですが、テマヒマは遠藤課長の思いつきで始まったと聞いてます。けどその時は売れる客観的根拠なんてなかったんと違います?」

 オヤブンは食い下がった。隣には遠藤の一撃で撃沈した冴子がうつむいている。

「あのな。この商品は俺が綿密な調査をして、製品企画課と何度も打ち合わせをして、味、形、包装、ネーミング、すべて裏付けを取って作った商品なんだよ。他の商品と一緒にしてもらっては困る。売れる客観的な根拠? 当然あったよ。それだけの事前調査して作ったんだからな」

 オヤブンが渋い表情をした。

「ちょっと違うんやないですか? 製品企画課から聞きましたけど、その時遠藤課長は調査データだけ渡して、あとは製品企画課に丸投げしたそうやないですか。ネーミングは東原が、パッケージは堀口が考案したって聞いてます」

「誰の手柄かという話をしているんじゃない!」

(この人からこの言葉を聞くとは・・・)

 姫花は頭の中で失笑した。

「言いたいのはだな、テマヒマはまだ可能性のある商品だということだ。売り上げが落ちたのは、おまえらの販売努力が足りなかったからだ。重点商品枠から外すことは俺が認めん。よって販促予算は取っておく」

 遠藤のくだらないこだわりの理由を姫花たちはわかっている。わかっているが姫花はミスタージコチューのばかげた理由をシェアマインドで覗いていた。

『テマヒマつぶすと俺の評価が下がるだろうが。黙って言うこと聞けっつんだ!』

(やっぱりね。彼の頭にはいつもご自分の評価しかないのよ)

 毎度呆れさせられる。

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