第80話
姫花の怒りが恐怖に変わった。
「再见(あばよ)!」
諫若が引き金を引く寸前、琴実が行動に出た。諫若の光の波動を操作した。諫若の赤の光の波動を最大限拡張した。
諫若の表情が一変した。冷徹なものから柔和なものに。構えていた銃をゆっくりと下ろす。
続けて琴実は諫若の青の光の波動も最大限拡張した。青は哀しみを顕す。諫若を哀愁に溢れる性質に変えた。
諫若に琴実が囁く。
『もうよか。こんだけたくさん犠牲ば出して・・・』
諫若の表情が柔和な微笑みからみるみる苦悩に満ちていく。
『どげんすっと?』
琴実の謂わんとするのは、自分たちと会社の解放だった。だが、諫若の取った行動は琴実の予想を完全に裏切った。
諫若が再び銃を構える。
『な、なしてね!?』
琴実は焦った。操作を誤ったかと。しかし諫若の光の波動は赤と青が太く強く発せられている。あまりに強く。
諫若は銃をさらに高く持ち上げ、向きを変え自分のこめかみに当てた。
「こうでもしなければ償いきれない」
『や、やめんなっせ!』
琴実は慌てて拡張した光の波動を弱めにかかった。が、諫若の行動の方が早かった。
「再见(ゆるせ)!」
銃声とともに弾が諫若のこめかみを貫いた。
姫花がとっさに叫んだ。
「琴ちゃん、そこから出て! はやく!!」
諫若の自戒後、琴実はただちに彼の意識から脱した。留まっていれば五感シェアマインドしている彼女の意識も諫若もろともこの世から消えるからだ。
すんでのところで、姫花も、琴実も、命拾いした。
静まりかえった管制室。
二人は互いの顔を見た。姫花は琴実の、琴実は姫花のぼろぼろになった感情をじかにシェアマインドした。
そこには姫花と琴実の、朋輩と祖先に繋がれた命のさざなみが、儚くも運命の波にのまれていた。




