第75話
「いらっしゃい姫花」
まさみが憎らしいほどの微笑みで言った。
「今日は何の用だい? 愚痴を聞いて欲しいのかい、それとも飲みに来たのかい?」
姫花はこのどうでもいいまさみの設定をうざったく思った。
「わたし一人で来たわ。さあ、仲間を釈放して!」
まさみの表情が一気に冷たく変わった。
「そうだね。約束どおりあんた一人で来た。それも琴実が言った時間内に。立派だよ。それで覚悟はできてるんだろうね。ここで死ぬまで働く」
「もちろん。だからあなたと交渉したのよ。損な話ではないでしょ!」
「損かどうか、あんたの働きを見ないことにはまだわからないよ」
「わたしが堀口と同じ技を使えること、さっきわかったでしょう」
「紅鷲に尽くすかどうか、見せてもらわないことには信用できないね」
「約束やぶる気?」
「守るよ。ただし、あんたが我々の望む情報を1つ取るごとに1人ずつ釈放してあげるよ」
「そんなことしてたら、彼死んでしまうわ」
「さあね。あれで結構しぶといよ。あの男」
「まず、彼を釈放して! 仕事はそれからするわ」
「釈放ね。いいよ。じゃあ、まず奴からにしようかい」
まさみは後ろに控えていたバットに言った。
「連れてきな」
雅臣は固い床に放り出された。ピクリとも動かない。無惨なその姿に激烈極めたリンチの跡が生々しく残っている。
「確認しな。生きていたら、ここから出してあげるよ」
「ひ、ひどい・・・」
こうまで惨たらしい状態にされた彼を姫花は憎む気になれなかった。血糊のこびり付いた肌けた胸に恐る恐る手を伸ばした。微かな鼓動が指先に伝わった。
「脈があるわ。すぐに、いますぐに救急治療をさせてあげて!」
「救急かい」
意味深な言い方に姫花は不安を覚えた。
「それじゃ集中治療室へ連れて行ってあげな」
「集中治療室?」
そう呟く姫花の横を、バットが雅臣を担ぎ上げ、佐古丸と共に管制室を出て行った。
「治療するから、そこで待ってな」
不安がさらに高まった。




