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第74話

 姫花の腰から下が反り返り通気ダクトから外れる。そこをめがけて荷電粒子砲が発射される。彼女のふくらはぎをジーンズごと切り裂いた。

 周は自分の体を両足でしっかりと通気ダクトに挟み込んで固定してからリュックを外し、中からロープを取り出して姫花の胴体に巻き付けた。姫花が落下しないようにするためだ。

「保持你的手!(手を離さないで!)」

 周は、もう片方の手を伸ばして姫花の腰のベルトをつかんだ。そして力づくで姫花の体を引き上げた。

 助けを借りてどうにか姫花は体を戻した。ふくらはぎに激痛が走った。

「あ、ありがとう周さん」

 姫花は痛みを堪え(こら)た。

 周はわずかに笑った。

「さ、急ごう」

「うん」

 姫花は表情を固めた。


 たどり着いたのは広い半円形の空間で、そこには巨大な大理石《だいりせき》の壁が前を塞いでいた。通気ダクトもそこで途切れ壁の向こうに繋がっている。

「この壁の向こうが管制室《じごく》ね」

 周が声震わせ言った。そして再びロープを取り出し通気ダクトに縛りつけ、それをつたって下へ降りた。姫花も続いて降り立った。ふくらはぎがさっきより痛んだ。

 目の前には巨大な大理石の壁とその壁をくり抜いて作られた鉄の扉。

「姫花さん、もう一度聞くよ。覚悟はいい?」

「とっくにできてるわ」

 姫花は拳を胸に当てた。

 周がリュックから何かを取り出した。ハンドガンだった。

「きっと話し合いでは解決しないね」

 周はわかっていた。姫花たちの秘術だけでは太刀打ちできないことを。

「決裂したらすぐにわたし出るから、いいね!?」

 周はさらにわかっていた。こんなハンドガン一個では奴らに歯が立たないことも。

 だが周には秘策があった。奴らの狙いである姫花を逆に人質にとり、姫花を失いたくなければ雅臣、オヤブン、琴実の解放に応じろと要求するつもりだった。簡単に応じる相手ではない。だがこれは時間稼ぎである。その間に自分は隠し持っている小型爆弾で自爆するつもりだった。管制室を爆破すれば一時的とはいえ紅鷲の動きを止められる。姫花たちを巻き添えにする危険は否めないが、こうでもしなければ奴らと伍《ご》することなどとうていできないと周は思っていた。

 無論そんなことを誰にも話していない。また姫花に銃を突きつけてもよもや発砲することなどあり得ない。紅鷲とのすれすれの駆け引きだ。

 そんな周の捨身の策など知らず、姫花は黙ってただ頷いた。


 最後の扉にも鍵穴がある。周は鷲の印の入った一番大きな鍵をそこへ差し込んだ。ハンドガンを翳《かざ》しながら解錠《かいじょう》した。ゆっくりと扉を押した。眩しい光が飛び込んで来た。

 次の瞬間。姫花が周から鍵を奪い、周を後ろに突き飛ばした。周は扉の向こうで尻餅をついた。

 その隙に姫花は自分だけ管制室内に入り、周を分厚い扉の向こうに残し内側から施錠《せじょう》した。

「姫花さん!」

 周の声がちいさく聞こえた。

 姫花は扉に向かって声を張る。

「ここからはわたしひとりでやるから。あなたは逃げて!」

 周が叫ぶ。

「無理だよ! 殺されちゃうよ!」

 消え入りそうな周の叫びを無視して姫花はゆっくりと振り返る。

 まさみが腕組みして立っていた。

 琴実と約束した1日のタイムリミットがこの時経っていた。

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