第73話
姫花はきっぱりと言った。
「なんだって?」
『わたしがやるから、あとの4人を自由にして』
4人とは、琴実、オヤブン、周、そして自分たちを裏切った雅臣を含めてことだ。姫花は彼らを助けるため自分が犠牲になろうと考えたのだ。
「本気かい?」
『みんなに手を出さないと約束して。それならばわたしが情報を集めるから』
「ホッホッホッホッ。いい友達だよ、あんたは。でもね、それ信じられるかい?」
『両方拒否したら困るでしょ。それなら、わたしと取引したほうが賢くない?』
「あんたが本気でそう言うなら、いいよ。一人でここまでおいで。話はそれからにしようじゃないか」
『わかったわ』
そこで姫花は意識を自分の体に戻した。戻るなり周に向き直って言った。
「それじゃあ、行こうか!」
「済んだのか、調べごと?」
「済んだわ」
姫花が先を急ごうとしたその時、
「姫花さん、そこダメ!」
周が姫花の腰のベルトを引っ張った。バランスを崩し姫花の上半身がくの字に曲がった。その鼻先を何かが掠めた。姫花の鼻が熱をおび、切り裂かれたような傷跡から血が流れた。
素粒子を飛ばす荷電粒子砲という兵器が壁に仕掛けられていた。当たればひとたまりもない。姫花の頭を素粒子が貫通していただろう。
この通路のいたる所に荷電粒子砲が仕掛けられている。迂闊に行けば、体中穴だらけにされるところだった。
「むこうで解除しない限り、ここは進めないね」
周の変な落ち着きに姫花は苛立った。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「あそこから行くしかないね」
周が指差したのは天井の通気ダクトだった。そこなら荷電粒子砲は飛んで来ない。
「あれをつたって行くのね、わかった。行きましょう!」
とはいえどうやってあそこまで登ればいいか姫花には想像がつかない。すると周が背負っていたリュックからロープを取り出した。先っぽには手かぎが付いている。周はロープを天井の梁めがけて投げた。ロープはきれいに梁に引っ掛かり絡み付いた。周が強く引くとギシッと撓む音がした。
周が先にロープをつたいするすると登った。
「你能上去吗?(登れる?)」
通気ダクトにまたがり周が姫花を促す。
姫花はロープを握った。周よりずっと時間がかかったが最後は周が引き上げてくれた。
「こうしてイモムシみたくはっていくよ」
そう言って周は通気ダクトに体を密着させた。
「頑張ってついていくわ」
周の後に続く姫花。全身の筋肉とバランスを要するこの動き、鍛えていた周はまだしも姫花には過酷だった。
姫花は足を滑らせてしまった。体がくるりと半回転し通気ダクトの下に上半身だけで取りつく姿勢になった。必死に丸いダクトにしがみつく姫花。
「姫花さん!!」
周が叫ぶ。




