第72話
姫花と並んで周は言った。
「ここでは合言葉以外、違ったこと言うと落とされるね」
「オ、オヤブンはどこに!?」
深い穴をのぞき込んで姫花は尋ねた。周が呟く。
「毒气室」
「なんて?」
「ガス室」
「ガス!?」
「処刑される」
「簡単に言わないでよ!」
「姫花さん、何度も言うけど、ここは紅鷲のアジトね。無事に帰れる可能性は0パーセントだよ」
あまりに周が冷静なので、姫花は固唾を飲むのが精一杯だった。
スマートスピーカーのようなものに周が呪文のような言葉をゆっくりと唱えた。
「ニー・ファン・フェン・ライライ・ヨー」
すると目の前の壁が左右にスライドした。壁の向こう側に長い地下通路があらわれた。
「この先に地獄が待っているね」
周が振り返って姫花に言う。
「覚悟はいい?」
周が進み出ようとしたところを、姫花が止めた。
「ちょっと待って」
「どうした?」
姫花が怖気づいたのかと周は思った。
「調べておきたいことがあるの」
「調べておきたいこと?」
「うん」
「ここでか?」
「そう」
「何をする?」
「シェアマインド」
「時間ないよ」
「わかってる、ほんの少しよ」
そういうと姫花は周のかたわら意識を飛ばした。向かった先はまさみだった。姫花はまさみが紅鷲であることを聞いていた。そこで姫花はまさみと事前交渉を試みたのだ。
まさみはアジトの中央管制室にいる。そこに姫花の意識も宿っている。
『話があるの』
突然の声にまさみは驚くも、すぐにそれが姫花であることを悟った。
「おやおや、ついに主役のお出ましかい?」
『不思議ね、こんな形であなたと話をすることになるなんて』
「悩みは聞いてあげるよ。ホッホッ。だけど解決しないだろうけどね、その悩みは」
『あなたたちの目的って、結局国家機密よね』
「あたしは言われたとおりやるだけさ。国家や軍事なんて関係ないよ。情報を集めるだけさ」
『じゃあ、情報が取れればいいのよね』
「そういうことさ。琴実が働いてくれれば、あんたは自由にしてあげられるのにねえ。琴実はできないと言い張るよ」
『わたしがやるわ、その役』




