第7話
清水治郎、オヤブンにも彼女がいる。
姫花と雅臣がつきあうようになった舞台のワインバー。そこでオヤブンの隣に座っていた、そう、東原冴子。彼女がオヤブンの女である。
オヤブンはあの晩、雅臣同様、あらかじめ狙いを定めて2次会に望んでいた。つまり冴子に接近するために、雅臣とはお互い紳士協定で相手を決めていた。
あの日の晩に時間を巻き戻すと、例のワインバーでオヤブンと冴子が話し込んでいる。その隣では雅臣が姫花を口説いている。
冴子は新しい部署への不安を口にした。
「あの課の人たちって、みんな恐そう・・・」
「恐い? 誰がや?」
「誰ってわけでもないけど・・・」
「みんなウサギさんみたいに優しいで」
「うさぎ?」
冴子は苦笑いした。オヤブンはさらに付け足して・・・
「ウサギさんのほか、パンダさんも、コアラさんも、シマウマさんも、アライグマさんもおるかな」
「なにそれ? みんな可愛いじゃん」
冴子は吹き出しそうになった。
「可愛いやろ。全員動物のお面かぶってるって思えばええねん」
「それなら怖くないわね」
「ん~っ ただ一匹扱い注意がおったな」
「扱い注意?」
「貪欲なハイエナがな」
「それって、ひょっとして」
「ひょっとして、そや」
「E課長?」
オヤブンは正解だと目で合図した。
「厳しいひと?」
「厳しいというより、どないいうんかな、難儀な人や」
「清水さんでも?」
慣れない呼ばれ方にオヤブンは、
「オヤブンでええよ」
「なれなれしいわ」
「選手登録名はそっちなんや」
「じゃあオヤブンね、これから」
オヤブンは顔をほころばした。
「なんせやな、接っしてみいひんことには、あの難儀さは」
「ハイエナのお面だったら逃げ出しそう」
オヤブンは高らかに笑ってワイングラスを傾けた。
「心配ご無用。俺が追っ払ったるさかい」
「強いねオヤブン、百獣の王だ」
「そない立派やない。せいぜい後ろ足で砂掛けるシマウマや。けど冴ちゃん守るくらいはでけるで」
「うん。ありがと」
この日オヤブンは最後まで詰めなかった、というより詰めきれられなかった。柄にもなく躊躇した。
「今度また動物たちの感想聞かせてや」
そう言うのが精一杯だった。
「いいよ、じゃあ頑張って観察しとく」
この日はこれでグッバイした。
その3日後、二人は食事を共にする。その場所は渋谷路地裏酒場「まさみ」だった。雅臣行きつけの。
はじめにここを見つけたのは雅臣であるが、オヤブンは雅臣から紹介してもらい、たまに立ち寄っていた。
オヤブンはまさみちゃんに応援を求めた。実をいえば冴子のような控えめのタイプはオヤブンにとって初めてで、どう口説き落とせばよいかわからなかったのである。そこでオヤブンは前の日の晩、まさみちゃんに冴子のことを話しておいた。
これを聞いたまさみちゃんは、
「要するに、あんたの点数あげればいいってことだね。任せときな!」
と快く引き受けてくれた。
二人は手垢にまみれたのれんをくぐった。
「いらっしゃい。おやおや、オヤブン、珍しいね、今日は彼女連れかい!?」




