第65話
「おかげで簡単に捕まえられたよ」
「……」
雅臣はうな垂れたまま力なく琴実を見た。
「ただね、この娘、協力を渋っているんだよ。あんたから説得してくれるかい?」
まさみは、今度は肩の筋肉の盛り上がった小兵力士のような男に言った。
「喋れないか・・・それじゃあ、佐古丸、代わりにおまえがお願いしてみな」
まさみからそう言われて、佐古丸を名乗るその男は脇にあった鉄パイプを手にして雅臣に近づいた。
琴実は次に起こるであろう凄惨なシーンを予想せざるを得なかった。目を背けたい衝動を振り払って暗がりを切り裂く切なる金切り声を上げた。
「やめてぇぇ!!」
琴実の制止も構わず佐古丸は、鉄パイプを雅臣のすねあたりめがけて力一杯殴った。何度も殴った。
関節のないところで足がぐんにゃりと曲がっている。明らかに足の骨が粉砕されている。
続いて、佐古丸は雅臣の脇腹を鉄パイプで続けざまにぶっ叩いた。肋骨の砕ける音が打撃音に混じって聞こえた。
雅臣の鼻と口から血しぶきが舞った。
それでもまさみは止めようとしなかった。
「佐古丸、まだお願いが足りないねえ」
琴実がまさみを睨む。
「悪魔かね、あんたは!」
琴実の声は虚しくまさみを通り抜ける。
佐古丸は鉄パイプを放り投げ、鎖に繋がれた雅臣の片方の手錠を外した。だらりと落ちた雅臣の手を持ち上げ中指だけを引っつかんだ。上着のポケットから工具ドライバーのようなものを取り出し先端のカバーを外した。氷を砕くアイスピックだった。
「な、何をすったい!」
琴実の顔が恐怖で引き攣った。
佐古丸はアイスピックを雅臣の中指と爪の間にねじ込んだ。
死んだような雅臣の土色の顔がわずかに歪んだ。しかしもう声は出ない。
雅臣の中指から小さな破片が冷たいコンクリートに落ちた。彼の生爪だった。雅臣の中指から血が滴り落ちた。
「もうよか! もうよか・・もうよか・・・」
琴実の喚きに絶望を感じさせる泣訴が混ざる。




