第63話
悪い予感がした。琴実は意識を自分の体に戻した。
『う!』
声を出そうとしたが出せなかった。
『な、なにが起きとるたい?』
さっきいた路地ではないことは明らかだった。目も口も塞がれていた。手足も縛られていて身動きもとれない。
どうやら車のトランクの中のようであった。エンジンの振動音が下から響く。足を伸ばせば工具箱のようなガチャガチャ音のする物にぶつかる。時々止まったかと思うと、また急発進する。その都度丸太のように体がごろごろと転がった。
『も、ちっと優しく運転しなっせ!』
琴実はひとりで行動したことを後悔した。
琴実が罠にはまった。周は琴実が尾行していることをわかっていて、彼女がシェアマインドするタイミングを見計らっていた。そこを狙って琴実を捕縛した。意識の抜けたもぬけの殻の琴実を捕まえるのは容易いことだった。
雅臣の入れ知恵だった。シェアマインドを知る雅臣が、シェアマインドの弱点を紅鷲に教えたのだった。
琴実は紅鷲のアジトに向かっている。しかし、その場所は琴実には全く分らない。
車が止まった。
トランクが開く音が響いて、男たちの野太い声がやけに木霊した。どうやら地下駐車場らしい。琴実はトランクから引っ張りだされ、男に担がれた。琴実は逃げ出すことはおろか四肢を動かすこともできなかった。
寒々とした地下道。男たちの不気味な不揃いの足音が琴実の恐怖を引きずる。やがて目隠し越しに強い光が忍び込んできて、いずこかの広い空間にたどり着いたことを琴実は察した。
固いフロアの上に琴実は荷物のように降ろされた。
「取下(外せ)!」
どこかで聞いたような声だった。琴実の目隠しと猿轡が外された。そこはさまざまな機器が並ぶ管制室だった。まばゆい光に霞んで浮かぶそのふくよかな体型に琴実は見おぼえがあった。
「どうだい気分は?」
まさみだった。
琴実は事態が読めない。
「な、なして、ここに!?」
まさみが不敵に笑う。
「あんたも今日から仲間だよ」
「わりゃあ、紅鷲とね?」
「そうだよ」
まさみが縛られた琴実に近づく。
「あんた、どうしてここに来たか、わかってるね?」




