第57話
未明に、オヤブンからLINEが来ていた。
“さっきはごめん。もっと冴ちゃんの意見聞いてあげるべきやった。”
オヤブンは優しい、優しすぎる。こんな最低な自分にも愛を注いでくれる。それがかえって冴子には辛かった。それなのに冴子はここでもひねくれた態度をとってしまうのだった。
“もうわたしのことは放っておいて。”
すぐにオヤブンから返信がきた。
“あほか、ほっとけるかい! 雪山なんてどうでええ。もいっかい会って話すぞ!”
だが、これに冴子は既読無視した。オヤブンの好意を偽善だと疑ってしまったのである。またもうひとつに、まだ自分のわがままが通る余地を愚かにも試し、冴子は自分を破壊したがっていた。心のうちではオヤブンのお節介をとことん期待していたくせに。
翌日、体調不良を理由に仕事を休んだ。心配した同僚のうち、冴子は姫花にだけ返信した。オヤブンからは続け様にメッセージが来ていたが既読にさえしなかった。
“聞いてほしいことがある”
それを見た時、姫花は悪い予感がした。
“オヤブンと一緒にお見舞いに行くわ”
事情を知らぬ姫花がそう返すと、
“姫ちゃんだけできてほしい”
とあった。ますます悪い予感がした。
仕事帰り彼女のマンションを訪れると、冴子は生気のない瞳をちぐはぐに並べ姫花を迎えた。
冴子が姫花を指名したのは数少ないわがままを聞いてもらえる親しき存在だと思ったからだが、その感情のポジションはオヤブンを立腹させた時と似ていた。
昨夜のことをひととおり話し終えて冴子はポツリと呟いた。
「ぜんぶ捨てたかったの。こんな最低な人間、誰にも愛される資格なんてないから」
まだ乾き切っていないかさぶたの張った手首を見せて、自死を思いとどまったことを、冴子は泣きながら姫花に告げた。
手首の傷を見て、姫花は冴子の衝動的行動を危ぶんだ。たかが恋人との喧嘩ぐらいで自殺する愚かさを諫めたかったが、それを言えば、冴子は自分にも扉を閉めてしまうかもしれないから、できるだけ彼女を混乱させないよう姫花は留意した。
「落ち着いて冴ちゃん。誰もあなたのこと最低だなんて思ってないよ」
「そんなことない。みんな言わないだけ」
「ううん、そうじゃない。オヤブンは言わずもがな、わたしも冴ちゃんのこと好きだし、琴ちゃんも、里美ちゃんも冴ちゃんのこと好きなんだよ」
「ぜったいにない」
「どうして言い切るの。それはわたしたちの感情だよ。冴ちゃんが否定することじゃない」




