第54話
里美は冴子が変わった原因を知りたかった。しかし冴子の答えははっきりしなかった。
「よくわからないのよ。自分でもなにが起きたのか」
わからない? 自分が変わった原因を? そんなことがあるだろうか。
「でも変わりましたよ、確実に冴子さんは」
冴子は頷いた。きっと他の者からも言われているのだろう。
「いまの冴子さん、外見は変わらないけど、中身がすっぽり誰かと変わったみたい」
言って里美は失礼だったと口を押さえた。
「すみません」
しかし冴子は笑ってそれを肯定した。
「いいのよ。暗い子だったからね、わたし。強いて言えばオヤブンのお陰かな」
冴子はオヤブンとつき合い始めてから少し明るくなった。それは周りも認めている。しかし里美が言った変わり様はそれに留まるレベルではなかった。まさしく人が変わったようだった。
冴子が人事課の前を通りかかった際、村上が冴子に声をかけた。
「あっ、冴えちゃん。これ持っていってもらってもいいかな?」
書類はマーケティング課の扶養控除等申告書だったので別段冴子に頼んでもなんの不思議もない。だが村上の言い方が今までと違う。いつもは上からおっかぶせるように言う。今日はかなり謙譲的だった。
「いいわよ」
冴子の受け取り方もこれまでと違い堂々としていた。以前の冴子は村上を苦手にしていた。冴子ははっきりもの言う人に弱かった。特に村上に対しては、何か一言いわれれば押し黙ったが、いまの彼女は平然としている。村上もそんな冴子にこれまでと違ってフランクに話してくれるようになっていた。




