第52話
「周さん?」
姫花は琴実を人気の少ない非常階段口へ引っ張っていった。立ち聞きされてはまずい。
「どういうことよ?」
「詳しいことまでつかめとらん。ばってん周は堀口の居場所を知っとる」
「なにか彼女言ってたの?」
「囮作戦成功って」
「おとり? それじゃあ、周さんって・・・」
「紅鷲たい」
「うっそお!」
姫花は思わず大声を上げてしまった。非常階段を伝い彼女の声が響き渡る。
「堀口を囮においたちをおびき寄せとる」
「つまり罠ってことね」
「そんとおり。ばってん罠とわかっとっても周に近づくしかなか。どぎゃんすっと?」
「行かざるを得ないでしょう」
直後、背後で声がした。
「俺も行くで!」
姫花と琴実はびっくりして振り返った。
「なんや、ようわからんけど、要するにおまえら堀口を助けにいくつもりなんやな」
オヤブンだった
「いつからそこに?」
姫花が尋ねる。
「人事課で見かけたんでつけてたんや」
「話、聞いてたの?」
「聞いた。けど、なんや、その紅鷲とかいうの?」
「しょんなか人ね」
琴実が呆れて言った。
「それ知ると、あなたも危険な目に会うわよ」
姫花が忠告した。
「おまえらその危険なとこに行こうとしてるんやろ? 女子だけで」
「女子は関係ない!」
姫花は力んで言った。
「ええから、俺もまぜてくれ」
「そういうの大阪ではいっちょかみっていうのよね?」
「おお、そうそういっちょかみ・・・ってなんてこというんや! まじに助けたろ思てんのに」
「やけに肩入れするわね」
「金貸してるからな、あいつに」
「そういうことか?」
琴実が尋ねる。
「どぎゃしこ?」
琴実の熊本弁をオヤブンは理解できない。
「なんて?」
姫花が通訳する。
「債権いくらかって」
含み笑いのあとオヤブンは言った。
「このあいだの唐揚げ弁当代や」
「せこーっ!」
思わぬ援軍に気持ち励まされ、姫花はつい声を弾ませてしまった。




