↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/84

第47話

「あんたー!」

 劉泰然は(りゅうたいぜん)悶《もだ》え苦しみ床に崩れた。のたうちまわり、やがてピクリとも動かなくなった。

「是不是死了?(Did he die?)」

 白いスーツ姿の男が呟いた。ミノルと名乗っているが、本名かどうか定かでない。

 ガラス越し呼びかけたのは原口まさみ。ガス室で倒れた男、劉泰然は彼女の夫だった。

「なんてひどい・・・」

「掟《おきて》だ」

 ミノルが言った。

「神経ガスだね。いまの」

「改良型が送られてきた」

「試したってこと?」

 ミノルは満足げだ。

「多くの人間を殺せる」

「血も涙もないね・・・」

「ここでは特別なことではない」

 

 18年前の冬。東京六本木。

 紅鷲のアジトはすでにここにあった。原口まさみの夫、劉泰然は紅鷲東京支局組員だった。彼の任務は日米軍事機密を極秘裏《ごくひり》に集めることだった。

 多くの諜報員《ちょうほういん》を、政界はじめ官僚、経済界、企業、市民団体、教育関連などに送り込んでいた。東京だけでその数およそ2000超。東京だけにとどまらず全国には8つの支局があった。北海道、仙台、金沢、名古屋、大阪、広島、福岡、沖縄。各地で諜報活動を行っていた。日本全体にいる諜報員の数は10000人を下らない。

 劉泰然は各地から集まる情報の管理を任されていた。

 ところが、彼はこの仕事で失敗した。日本の公安警察に嗅《か》ぎ付けられたのである。原因は諜報員の一人が紅鷲組員に扮《ふん》した公安警察に収集した情報の一部を漏らしてしまったのである。公安警察はそこから劉泰然の名前を割り出し、彼を追っていたのである。紅鷲はまず情報を漏らした組員を消した。そして追われている劉を公安警察に捕縛される前に処分したというわけである。

 まさみが、劉泰然と出会ったのは、彼が日本に来てまだ間もない頃だった。

 当時、劉は東京の大学に交換留学生として来日していた。交換だから中国の大学から推薦を受けて学問にきていたわけである。しかし、この留学は紅鷲の諜報活動が目的だった。

 劉は諜報活動を手助けしてくれる日本人を必要とした。それには私情を絡めるが早い、そこで下宿先の娘、原口まさみに近づいた。

 まさみは当時、同じ高校出身の男子とつき合っていた。劉はこの二人の間を割くため諜報員の中国人女性をまさみの彼氏に近づけた。若い彼氏に隙だらけのかわいい中国人女性が誘惑するトラップ。効果はテキメンだった。

 ある日、劉はまさみに古本を買うのでついてきて欲しいと頼み一緒に下街に出かけた。帰り道、連れ込み宿から出てくる彼氏と中国人女性に、偶然を装いまさみと遭遇させた。まさみがそんな彼氏を許すはずがない。また彼氏もこれを機にかわいい中国人彼女に乗り換える気だった。劉も劉でこれに乗じてまさみに求愛した。二人はまんまと劉が仕掛けたシナリオ通り別れた。

 やがて劉とまさみはぼろアポートを借りて一緒に住むようになった。ただし婚姻届は出さなかった。劉は在留期間が切れ一旦中国に戻り、その後不法入国していたからである。

 まさみは劉に促され諜報活動を手助けするようになった。劉はまさみを組織に引き込むことに成功したのである。

 まさみが渋谷に居酒屋を経営したのも、諜報活動のためだった。酒場という人が本音や秘め事を漏らす場では有力な情報が集められた。彼女が積極的に人の話を聞くのも実は情報収集のためであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。