第45話
深夜の東京六本木。
一人の女が歩いている。ビルの隙間から冷たい風が彼女のコートの裾を捲り上げる。
女は西麻布グランドパレス森という名のマンションの前で立ち止まった。マンションに入る前、前後左右を見て誰も自分を追う者がいないことを確認した。
人との接触を避けてのことか、エレベータを使わず階段で6階まで駆け上がった。上がったところで階段下を覗いた。ここでも自分を追う者がいないことを確認した。足を忍ばせ、階段踊り場から一番奥の部屋に進んだ。
605号室。表札はかかっていない。ベルも鳴らしていないのに扉が開いた。ドアチェーンがかかったままのわずかな隙間。中から何者かが女を確認し小声で囁くと、引き締まった腕が伸びて女に小さな布袋を手渡した。渡すと扉は閉まり、女は立ち去った。
女はマンションを離れ数分ほど歩いた。そこは某国の大使館の前だった。そこで立ち止まり、またも前後左右を確認した。大使館のはす向かいにラーメン屋がある。ラーメン屋の横に人一人がやっと通れそうな狭い路地がある。女はあたりを注意しながら路地に入り込んだ。路地の奥には空き地があって、その空き地に頑丈そうな倉庫らしき建造物がある。
女はリュックからさっきのマンションで受け取ったとみられる布袋を取り出した。布袋の中には鍵が入っていた。3つ束になっている。そのうちの1つをこの建物の扉の鍵穴に差し込んだ。扉が開いた。中は真っ暗で見えない。
建造物内に入り電気を灯す。実験室か? 怪しげな瓶が並んでいる。部屋の奥の地面にまた別の扉が見える。観音開きの鉄の扉だ。女はさっきの鍵とは別の鍵を取り出しかがんでこの扉を開けた。
重たい金属の擦過音とともに両側の扉を持ち上げた。階段が見えた。地下へ続いている。女が階段を降りて行く。途中、つまづいたのか3段目の階段を踏み飛ばした。足下を気にしながら降りて行く。
階下は白壁に囲われた地下房だった。5坪程度の広さで粗末なスチール製のテーブルと椅子が4脚置いてあるだけだった。
女は椅子に座った。何かを待っている。
すると、女から対面側の白壁が突如横にスライドした。隠し扉だった。壁が全開すると長い通路があらわれた。
「请进入(Come in!)」
どこからか声がする。女は地下通路を進んで行く。
通路の壁には何やら不気味な口径がいくつも並んでいた。
女は周麗華である。
地下通路をしばらく行くと、また扉があった。これもまた鉄製の頑丈な扉だ。周は3つ目の鍵を使ってこの扉を開けた。
眩しい光が飛び込んで来た。
「很高兴见到你(Nice to meet you!)」
向こうに誰かがいる。光が強くて顔まで判別できない。




