第39話
横浜。加藤の家。
雅臣はインターホンごしに話しかけた。
「すみません。突然お伺いして。私は大学院で日米相互防衛協定の研究をしている鮎川と申します」
偽名を使った。のちのちややこしいことになることを恐れ。
「ご用件はなんですか?」
奥さんらしき女性の声だった。
「加藤さんに、自衛隊の情報危機管理取り扱いについて個人のご見解をお伺いしたいのですが」
返答がない。沈黙が暫く続いた。しかし向こうのかすかな生活音がインターホンごしに聞こえてくる。まだ繋がっている。やや間があって野太い声がインターホンから聞こえた。
「俺になにを聞きたい」
加藤だった。
「加藤さんはご存知ですか? イージス艦の性能に関する情報が国外に漏れていることを」
単刀直入に尋ねた。確信は得ていない。秘術を使って確かめたわけでもない。しかしカマを掛けた。そのほうが彼をおびき出せるだろうと思って。
雅臣の思惑どおり、加藤は罠に掛かった。玄関の扉が開いて出て来た人物は、白髪交じりの角刈りの男だった。退役したとはいえ立派な体格をしている。開口一番雅臣に、
「おまえは何者だ? 海自警務隊か?」
と尋ねてきた。海上自衛隊警務隊、略して海自警務隊は犯罪に関する司法警察業務を任務とする機関である。
加藤は目の前の男を訝しんでいる。雅臣にすれば加藤の核心をついて彼の意識を波立たせ、そこを覗きにいけば語らせずとも情報は得られると思った。質問はより直截的であればあるほど効果的だ。
「失礼ですが、ご自宅のパソコンを見せていただけませんか?」
加藤の怖い顔が一層険しくなった。
(やはり隠しているな)
そう雅臣は思った。
「ご安心ください。私はただの大学院生です」
「ばか野郎。ただの大学院生がイージス艦のことなんか聞いてくるか!」
雅臣は可笑しかった。加藤の焦りが面白いほど表情に出ていたからだ。
「私が誰であってもいいんですけど、加藤さん。あなたの持ち出した次世代型イージス艦の情報、あれは退役されたとはいえやばいですよ」
声を抑えて言った。周りに誰もいなかったが、さすがにこんな話を屋外でするには憚られた。
これで否定するなら秘術を使わざるを得ない。が、意外にも簡単に加藤は白状した。
「おまえがどうしてそれを知っているのか知らぬが、確かにそのデータは私のもとにある」
雅臣は歯を見せ笑った。
「そのまま保持していれば秘密保護法違反で本物の海自警務隊にお世話になるでしょう」
「どうしたいんだ?」
「黙って渡してください。悪いようにはしない」




