第38話
東京都練馬区にある陸上自衛隊駐屯地。
昨年3月。防衛省はこの場所で自衛隊体験スプリングツアーを企画した。このツアー、目的は自衛隊員との交流を通じて、ありのままの自衛隊を実感してもらおうというものである。本来このイベント、学生までしか参加できない。が、堀口雅臣はこのツアーに大学院生と偽って参加していた。学生証や在学証明書の提出までは求められなかったからそこは容易に潜り込めた。
彼の参加目的は国防の機密情報収集である。
(どうやら狙いを退役自衛官のPCに絞ったほうがよさそうだな)
雅臣は隊員との懇談でセキュリティ機能の不備が指摘されている官品パソコンのことを質問していた。相手の隊員は若い男性自衛官だった。
「官品パソコンからのデータ転送の制約が緩く機密漏洩がおきていると耳にしましたが、それ本当ですか?」
雅臣の質問に自衛隊員は苦い顔をした。
「どこでそれを?」
「ちょっと小耳に挟みまして」
「知らないな」
雅臣は呟く。
(怪しいぞ)
そこで雅臣は共有を使ってこの隊員の意識に潜り込んだ。
『こいつ、なんでそれを知っているんだ』
(やっぱり事実なんだな)
『ひょっとして、この間の隊員の個人情報流出も知っているのか?』
(ははん、そんなのも流出しているのか・・・)
雅臣はかまわず質問を続けた。
「他にも武器庫内の見取り図や部内専用の訓練資料も外部に流れていると聞きましたが、どこまで本当なんですか?」
「すまないが、そういった質問にはお答えしかねる」
若い隊員は雅臣の質問を打ち切った。
『こいつ、本当に大学院生か?』
(やばいやばい)
去り際、さらにこの隊員の意識を覗いてみると、
『退役自衛官の個人パソコンにデータが散逸していても回収は難しいんだ。或いはそこから漏れているかもしれなんだが・・・』
(なるほどね)
雅臣はこの隊員にこれ以上深入りせず、別の隊員からも情報を探ることにした。駐屯地にいる隊員の意識に次々と潜り込み、機密情報をかき集めた。
そして、退役自衛官のなかに海上自衛隊の特別情報を秘匿している隊員がいることがわかった。その隊員、名を加藤という。一昨年前に退職していた。今は横浜に住んでいる。雅臣は共有を使って彼の所在を突き止めた。




