第37話
姫花は身震いした。事が自分の想像を遥か超えている。
「う、うわさって・・・。どこまで確かなの?」
「おいもようわからん。ばってん、それを確かめるため彼に接触しとる」
「そ、そういうことだったのね、琴ちゃんが雅臣さんに接近してたのは」
「ひとつわかったんは、堀口が共有を使えんようなってきとるこったい」
「さっき使えるって」
「使えてた。ばってん、いまはうまく使えん」
「どうして?」
「私利私欲で使うとるけんね、そりゃあ、そうなるたい」
「そっか。使えなくなっていくんだ。だったらさあ、もうほっとけば。あんな人」
姫花は自分の彼氏をあんな人呼ばわりしていた。
「それもそうはいかんたい」
「どうして?」
「堀口は紅鷲においたちの存在も知らせとるけん」
「使えなくなってきてるんでしょ。 ・・・もしかして・・・ああ、そうか、ひょっとして、わたしたちが危ないってこと?」
酔いと事態の大きさに、姫花は頭が熱く痺れる思いだった。
「つぎに紅鷲はおいたちを狙うたい」
「かかわりたくないわね、そんなやつらと」
姫花は呟いた。
「だけん堀口はおいたちに近寄ってきよっとよ」
姫花は酔った頭を振って思考を整理した。
「堀口の真の目的は、自分の代わりになるおいたちの能力たい」
「わたしたちに国家機密を集めさせようとしているってこと?」
琴実は頷いた。
「うそ。わたし何度も見たのよ彼の真意を。そんなことを考えてたならわかるはずでしょ」
「そういう芸当もできるたい。シェアマインドには」
「どういうこと?」
「本音を裏に隠しておいて、表に嘘の意識で虚飾する。見かけごまかし本音は見せん。共有を使える堀口ならそげなコントロールができても不思議はなか」
「どうして琴ちゃんそこまでわかるの?」
「おいもできるけん」
「あっ! もしかして・・・」
「じゃっじゃ、姫花さんがおいの意識覗いた時も使いわけたばい」
思い出した。姫花は試合の時の琴実の意識の声を。
「あの時、堀口を意識したあの囁きは・・・」
「もちろん嘘たい。姫花さんにおいのと堀口の関係を匂わせるための」
「ちょ、ちょっと待ってよ。何が何だかわからなくなってきたわ」
姫花は頭を抱えた。ワインの代わりに水をがぶりと口に含んだ。
「でもさ、でもね。おかしいじゃない。さっき堀口は共有を使えなくなっているって言ったわよね。だったらそんな芸当できないんじゃないの」
「意識を他人に飛ばすことに比べて、自分の意識の中だけで表裏をコントロールすることはたやすか。このレベルならできてもなんら不思議はなか」
「やったことないからわかんないけど。まあいいわ。それより、わたし騙されてたってことね、堀口に」
「はじめから姫花さんを紅鷲に売るつもりだった、そう考えるのが妥当たい」
もう一口水を口に含んでから姫花は声を震わせて呟いた。
(ぜったい仕返ししてやるんだから)




