第35話
「だって南澤ハルには二人の娘しかいなかったんでしょう? どこから堀口が出てくるの?」
「琴乃が恋した男、それが堀口。堀口和男たい」
「てことは、琴乃さんのご亭主?」
「うんにゃ、琴乃は堀口和男と夫婦にはなっとらんばい。ばってん娘はもうけちょる」
「ややこしいわね。つまり内縁の夫ってこと?」
「一緒には暮らしとらんけん、内縁でもなか」
「じゃあ、シングルマザーね」
「いまならそういうこったい」
そこにジンジャーホットワインが運ばれてきた。二人は話を一旦止めた。同時にワインを手に取った。琴実は舐めるように一口、姫花は熱さ堪えて続けざま三口飲んだ。姫花のペースが速い。
琴実が続きを語る。
「堀口和男は、おいと堀口雅臣のひいじいちゃんたい」
「えっと、ちょっと待ってよ。そういうことになるのか。琴ちゃんのひいばあちゃんのお相手だから」
「じゃじゃ」
「つまり、その支流は琴乃さんの恋のお相手から枝分かれしたわけね。でもさ、基本的なこと聞くようだけど、どうして男である堀口が使えちゃってるわけ?」
姫花は母からこの技は女だけの秘密だと教わっている。
「自分の娘に指南させたばい」
「えっと、それはあなたのおばあさんにあたるひと?」
姫花は頭の中で複雑な人物関係を整理した。
「美琴ばあちゃんたい」
「指南って・・・。ハルさんは女子に限定したのよね?」
「美琴ばあちゃんはそれを破ってしもたばい」
「ど、どうして!?」
「堀口和男には他にも女がおった」
「あちゃ、浮気か。でもないか、琴乃さんと結婚してなかったのなら」
「ばってん琴乃は和男を愛しとった。夫婦になれんかったんは和男に別の妻子があったためたい」
「ひどい男ね、和男って。あっごめん、あなたのひいじいさんだったわね」
「よかよか」
琴実は苦笑した。
「それでも腑に落ちないわ。自分の父親が他に女を作っていたからって掟を破ってまで指南する理由ってなに?」
「美琴ばあちゃんは語りかけてしまったたい、父親の意識に『かあちゃんのところにもどってくれ』と」
「それは驚いたでしょうね。頭の中で娘の声がしたんだから」
「和男が共有を知ったんはそれが最初たい」
「なるほど、それを自分も会得したいと思った・・・」




