第33話
「ご先祖様たい」
「どれくらい前の?」
「ひいばあちゃんのかあちゃんたい」
姫花は苦笑した。
「そんな昔の人のことを言われても・・・」
しかし南澤で自分の先祖ということは・・・。
「ひょ、ひょっとしてわたしたちって、親戚だったりするわけ?」
琴実が頷いた。姫花は、はたと周りを気にした。こんな場所で、わたしたち親戚よねって話はまずい。
「つ、つづきは外でしましょ」
本社近くのオープンカフェ。
姫花は時計を確認してから、カフェラテを気ぜわしく飲んで、早口でこう言った。
「ストレートに聞くね。わたしたちはその、こう、こう・・」
「高祖母たい」
「そう、その高祖母のハルさんの子孫ってことね」
琴実が頷く。
「で、シェアマインドを最初に会得したのが南澤ハルさんってこと?」
琴実は不思議そうに尋ねる。
「ばってん、姫花さんは南澤ハルば知らんで、どぎゃんしてシェアマインド会得したと?」
「もちろん母から教わったわ。絶対人に話しちゃダメって前置きされて。でもはじめてそれを破ったわ」
「心配なか。おいたちは親戚だけん。ばってん、姫花さんのかあちゃんは南澤ハルのことなんも話さんかったとね?」
「話す間もなく他界したわ、わたしに伝授したあと」
「それでな、申し訳なか」
「いいのよ。それよりわたしの聞きたいのは、どうして別々に暮らしてきたあなたとわたしが同じ技を使えるかってこと」
「ハルには二人の娘がおったたい。ひとりは北島姫乃、もうひとりは南澤琴乃」
「なるほどね、ハルさんはその二人の娘にシェアマインドを伝授した。そしてその娘たちが自分の娘にそのまた娘にと、わたしたちまで伝わって来た。そういうことね?」
琴実は抹茶ラテをすすった。ゲップにイエスを混ぜた。
「驚くなかれ、ハルの夫はあの神風連の乱を起こした太田黒伴雄たい」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って。じゃあ、なに、わたし太田黒伴雄の末裔てこと?」
「じゃいよ」
「うそぉ!」
まさか自分があの神風連の乱と関わりがあったなど、姫花は想像もつかなかった。
「それじゃ、琴ちゃんもそうなのね?」
「うんにゃ。おいは北島順一ちゅうハルの二人目の夫の子孫たい」
「ええ! ハルさん、バツイチだったの?」
太田黒とは死別であるから、バツイチではない。
それはともかく、姫花はその姓の方に疑問を感じた。
「どうしてさ、太田黒伴雄と南澤ハルの子孫であるわたしが北島で、北島順一の子孫である琴ちゃんが南澤なの?」
琴実は、ハルが長女姫乃に北島姓を名乗らせ、次女琴乃に南澤姓を名乗らせたことを説明した。何度か聞かなければならないややこしさを姫花は感じたが、結局二人の源流は南澤ハルであることを理解した。
すでにこの時点で昼休みの時間は過ぎていた。姫花は時計を見て、やばいと思ったが、叱られるのを覚悟で話を続けた。言い訳はあとで考えればいい。
「でもさ、どうしてハルさんはシェアマインドを会得できたのかしら? あんなスゴい技だれにも教わらないでしょ?」
「ハルは結ばれちゃいかん太田黒に懸想して生き死に遭遇したばってんできたばい」
「素敵! 素敵じゃない! 禁じられた恋から始まった秘術なんて。シネマになりそうだわ」
琴実が渋面を作ったので姫花は話題を変えた。というよりずっと尋ねたかったことをようやく切り出せた。
「ところでさ、雅臣さんのことなんだけどさ」
琴実の顔が強ばった。
「なにか隠してない?」
姫花はすでにわかっている。雅臣が琴実に接近していることを。
しかし琴実ははぐらかすようにこう言った。
「姫花さん。今晩、飲みに行かんと?」
ここでは話しきれないと思ったのだろう。姫花も時間が気になっていたので琴実の提案に同意した。
二人は駆け足で社に戻った。幸いミスタージコチューは会議に出ており難は逃れた。




