第32話
昼休み。社内食堂。
姫花が弁当を広げていると、琴実が近づいてくる。
トレイがにぎやかだ。視認しただけでも、カレー皿、うどん鉢、サラダ小皿、ショートケーキ、タピオカ、ビスコまでカウントできる。
(あれひとりで食べるの?)
姫花は唖然とした。
「ここよかと?」
すでに腰を下ろしている。
「う、うん、どうぞ」
姫花は箸箱を引き寄せ場所を空けた。
午前の姫花の質問「あなただれ?」に、琴実は逆質問で返してきた。
「姫花さんは、おいのこと、どこまで知っとっと?」
試されている気がした。
「あなたのこと? そうね、肥後の原色美人ってことくらいかしら」
「な~んも知らんとね」
食いついてくれるだろうと期待した原色美人を琴実は思い切り無視した。ちょっと姫花は哀しかった。
だが、一方の琴実は知っていた。北島姫花のことを。姫花がシェアマインドの継承者であることを。だから琴実は敢えて姫花の前でシェアマインドを使ってきた。
姫花がデッドボールを食らって気を失った時に声をかけたのは琴実である。琴実がシェアマインドを使って姫花の中に潜り込んでいた。
村上のヒットで姫花に3塁へ進塁を奨めたのも琴実である。琴実は相手チームのレフトが肩をケガしていることをシェアマインドで事前にサーチしていた。
カーブに的を絞って打ったのも、シェアマインドで相手ピッチャーの配球のくせを読み取っていたのだ。
こうして琴実はシェアマインドを介し姫花と交流を試みていた。
琴実はシェアマインド(かつての呼び名は共有)のルーツについて知っていたし、北島の家系がシェアマインドを使えることも知っていたし、姫花がイサワカ製菓に勤めていることも知っていて姫花に接近していたのだ。
一方、姫花はハルの次女琴乃から枝分かれした南澤の家系を知らなかった。母早姫がそれを語る前に早世したからである。姫花はシェアマインドがどのようにして生まれ、どんな苦難を経て受け継がれてきたのかを知らなかった。
自分の素性も、シェアマインドの興りも知らぬ姫花に、琴実は一から教えねばならなかった。
「南澤ハルのことは知っとっと?」
「だれ? あなたの母上さま?」
南澤姓から姫花はそう推察した。
「うんにゃ、姫花さんの高祖母たい」
「高祖母?」




