第31話
「ったく! おまえは何度も同じミスしやがる。何度も同じミスする奴はバカだ。よっておまえはバカだ。ついでに言えば救いようのない大バカだ!」
お見事な三段論法と言いたいところだが、四段目まで押し込むしつこさはさすがに遠藤か。
今日も遠藤は全開だった。矛先もまた琴実である。
電子決済の起案が遅いと叱責したのだが、遅くもなんともない。琴実が起案してから遠藤にまで回るのに間、何人かのチェックが入るだけのことである。それを遅いと言われてもどうしようもない。
当の本人はさして気にしている風でもない。
「すんまっせん」
訛りも気にしていないみたいだ。
「どうすんだ!? また反省文書くか!?」
脇で見ていた姫花は呟いた。
(慣れちゃうよね~こうなると、毎日起きるもらい事故だもの)
自分も慣れてしまっていることに姫花は嫌気がした。
その時、自分を呼ぶ声が・・・。
『姫花さん』
(んっ? だ、誰?)
『すんまっせん』
さっきと同じ訛りだ。
『聞こえとっとね?』
(琴ちゃん?)
『じゃいよ』
(ど、どうして?)
『あら、いまさらなんね』
自分の意識下で聞く声に、姫花は母との苦行を思い出した。
(琴ちゃん、あなただれ?)
『その質問、どぎゃん答えればよかと?』
そこに遠藤の怒鳴り声が重なる。
「おいこら南澤、なんとか言え! 俺をなめてるのか!」
琴実が無反応だったことに激昂している。
「黙ってないで返事しろ!」
琴実の意識が戻る。遠藤と対照的に彼女は憎らしいくらい冷静だった。
『こげな腹黒かひと、なめてもうまくなか』
「なに!? なんか言ったか?」
「いいえ、では至急反省文を電子決済で起案します」
「きさまぁ、ふざけるな!」
(やるう琴ちゃん)
姫花は拍手を送りたい気分だった。




