第3話
北島姫花がイサワカ製菓に入社したのはいまから4年前。一応は名の通った大学を卒業したが、当時は就職難で、かたっぱしから入社試験を受けたが、結局内定がもらえたのはイサワカ製菓株式会社と設立2年目の外食関連の新興企業の2つだった。父とも相談したが、やはりイサワカ製菓が無難であろうという結論に至り、姫花はここに入社を決めた。
姫花の母親は彼女が15歳の時に亡くなっている。以来姫花は父親と弟の3人で暮らしている。
姫花には最近できた彼氏がいる。同じ職場で姫花とは別の部署、製品企画課のサブリーダーを務めている堀口雅臣。35歳独身でバツイチ。背が高く男振りもよいので社内の女子からの評判はよい。
姫花と雅臣がつきあうきっかけは社内の宴会だった。
雅臣と同じ部署の東原冴子が姫花の所属するマーケティング課に異動になったので、マーケティング課と雅臣の所属する製品企画課合同で歓送迎会をしようという話になり、姫花はその宴席で雅臣と顔を合わせたのだ。
もちろん、それ以前から雅臣のことは知っていた。しかしどんな人であるか詳しくは知らなかった。
その宴会で姫花が雅臣にお酌しに行った時、彼から
「北島さんは野球とサッカー、どっちが好き?」と聞かれて、
「観戦ですか?」と聞き返すと、
「いや、プレイだよ」と返された。
「どういうことですか?」
「うちにね、女子野球部と女子サッカー部ができるんだよ」
「えっ そうなんですか? 知りませんよ、わたし」
「そりゃそうだろう。さっき清水と決めたんだから」
「オヤブンと?」
「そう。あいつが野球部の監督で、僕がサッカー部の監督」
「女の子のクラブで?」
「そうだよ。いまは女子のほうが盛り上がるんだスポーツは」
「でも唐突ですよ。いきなり野球かサッカーの二択なんて」
「いいの、いいの。人生には2つぐらいの選択肢で十分なんだよ。いっぱいあっても自分にベストの選択ができるとは限らないだろ?」
無茶苦茶だと姫花は苦笑いした。
「サッカーでいいよね。北島さんかけっこ速そうだから」
どこをどう取ってかけっこ速そうだと決めたのだろう。
「ちょ、ちょっと待ってください。わたしサッカーなんか、一度も・・・」
断ろうしたが、雅臣からたたみかけられた。
「製品企画課とマーケティング課の女子は全員かならずどちらかに入らなければならないんだよ」
「どんなルールですか、それ!?」
その歓送迎会の後、雅臣から2次会に誘われた。オヤブンと東原冴子の4人でワインバーに行った。
狭い店内。横並びで4人は座った。姫花は一番端の席、その隣が雅臣、そしてオヤブン、冴子の順。女性が両端に座る配置。こうなると必然的に姫花の話し相手は雅臣だけになる。
その雅臣が姫花に呟く。
「今日、君と話をしたかったんだ」
姫花は驚いて雅臣を見た。
「どうして、わたしを・・・」
「清水から聞いてたんだよ。面白い子がいるって」
「オヤブンが?」
姫花は雅臣の向こうに見える当事者の背をチラ見した。
「うん」
「なに、面白いって?」
「占い師みたいなんだって」
「う、占い師?」
オヤブンにそんなことを言われたことがない。
「ひとのことよく見てて言ったことが当たるって」
「へえ、オヤブンが?」
ドキッとした。まさかシェアマインドのことを知っているのかと。そんなはずはない。
「だから、今日は北島さんの話をじっくり聞きたかったんだよ」
これには姫花、異議を唱える。
「その割にはさっきから一方的な話ばかりよね。堀口さんって」
雅臣は笑った。
「ごめんごめん。そんなつもりなかったんだけど」
「真意はわたしを勧誘するためでしょ、サッカー部に、違う?」
「ちがう、ちがう」
雅臣は苦笑いする。
「真意か・・・そうだな真意と問われればね・・・」




