第2話
遠藤のプレゼンが終わった。遠藤は深々と頭を下げ、次の舞台を用意した。
「ここからはご質問をお受けしたいと思います」
姫花はまたも見た、ここでの遠藤の真意を。
『質問はだいたいわかってる』
(そうなの?)
『昨日のうちに想定問答集を作っておいた』
(あら、ご準備のいいこと。お早いお帰りだったのにねえ)
遠藤が考えることはリアルタイムで姫花にも伝わってくる。
『回答の仕方によっては評価に良くも悪くも影響する。ここは絶対加点したい』
(たいしたものね、ここまでご自分の評価を意識できるなんて)
諫若社長が最初に質問した。
「遠藤君、シニアはわかったが、若年層へはどう対応する?」
遠藤の顔がほころぶ。
「はい、未成年者、メインは中高生あたりですが、そこを狙って商品を改良します」
「何をどう改良する? 具体的に説明してくれ」
「中高生に特に支持がある甘辛青春サンドのパッケージをアニメに変えます」
「あれか、ポケモンとかワンピースのようなものか?」
「それは高額すぎて手がでません」
「じゃあどうする?」
「募集します」
「誰に?」
「全国のアニメファンに」
「ほほう、オリジナルか?」
「はい。1ヶ月ごとにパッケージデザインを変えて新商品感覚にします。そのデザインはアニメオタクに描いてもらいます。つまり懸賞キャンペーンを仕掛けるのです。懸賞金は1人につき10万円で月間5人を選びます。つまり5つの異なるデザインの甘辛青春サンドが毎月発売されるイメージです。注目度はかなり高いと思います」
「収支予測は?」
「予算は年間600万円の積み増しが必要ですが、20%売り上げが伸びれば、営業利益が900万円でます。販促経費などを差っ引いても純利益100万円は見込めます」
「20%伸びる根拠は?」
「甘辛青春サンドの生産販売エリアは首都圏、関西圏が中心で西は広島までです。さきほどご説明しましたように九州の拡販で30%増やせているわけですから、四国九州に販路を求めれば確実に20%以上の売り上げ増は期待できます」
「なるほど」
「加えて、全国募集による新たなファンの獲得と懸賞を絡ませることで親世代を引っ張ってくることも期待できるでしょう」
社長は満足そうに頷いた。
(いつの間にここまで考えてたのかしら・・・)
姫花は遠藤の意識の中で呟いた。その声は遠藤には聞こえない。
次に役員の一人、松田専務が質問した。が、その質問は遠藤にではなかった。
「北島君、君はこの中で一番若いね。中高生とまではいかないだろうが感覚は僕らより一番近いはずだ。君はどう思う?」
姫花に突然、質問が飛んだのだ。
(こっちに来るなんて聞いてないわよ!)
姫花は慌てた。一同が姫花を見た。変わらずキーボードに手を置いたままの姿勢である。
姫花は遠藤の意識から急ぎ脱した。そして自分の体に意識を戻した。まばたき二つ分ほどの遅れはあったが、不審を抱かれるようなロスタイムではなかった。
「は、はじめて聞きましたけど課長のプランいいと思います」
戻りっぱな姫花は焦っていた。
「おい、おい、課内合意できてないのか?」
松田専務の表情が曇る。
形勢まずいと思ったか、とっさに遠藤が答えた。
「北島にはいま別のプロジェクトに関わらせています。このプランは私と清水で進めています」
清水というのは、同じ課の姫花の先輩で清水治郎のことである。下に“長”をつければ幕末の侠客清水次郎長と読みが同じであるため同僚からはオヤブンと呼ばれていた。
(オヤブンと考えたってのも嘘よね)
姫花は遠藤の嘘を見破っていた。
諫若社長が言った。
「ま、いいだろう。来年度マーケティング課に特別予算つける。遠藤君、やってみたまえ」
今回の販売計画会議は、ほぼ遠藤の思惑通りに進んだといっていいだろう。
ただ、彼は上役の評価を得ることには成功したが、部下の不興を買っていることについてはあまりに無頓着すぎた。




