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シェアマインド 〜黄色い空と甘いスモークチーズ〜  作者: 水無月はたち
Chapter1「ただのOLではない女」
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第1話

(結局、ご自分の評価だけ欲しいのよね)

 北島姫花《きたじまひめか》は呟く。

(はあ〜 課長の頭の中はそれしかないわけ?)

 遠藤の意識の中、彼女はため息をつきたい衝動にかられた。

(確かにそりゃあ、誰もがいい評価もらいたいわよ。でも管理職くらいになれば自分より部下を優先させて欲しいわ)

 アスファルトの路面で蒸された空気が、ここ18階の会議室の窓の外まで上がってくる。街路樹にはり付いている蝉の一団の耳障りな合唱まで、戸外から湯気と一緒に上がってくるようだった。

 会議室の中は、さっきから緊迫した空気が漂っている。


 ここはイサワカ製菓株式会社東京本社ビル第1会議室。来年度の販売計画について会議中である。

 一人の男がスクリーンに映った売上高のエリア別経年変化を指し示しながら説明を続けている。

「今年度の市場開拓は大成功でした。販路を北九州にまで広げることができましたし、半期売り上げも昨年度対比1.3倍増やすことができました。来年度は生産と物流の拠点を下関と熊本にも増設し九州全域と中四国の販売強化を図りたいと思います」

 遠藤渉《えんどうわたる》、イサワカ製菓の営業本部マーケティング課、課長。北島姫花の上司である。見かけスマートだが、感情のうらおもてが激しく部下からすると大層扱いにくいタイプである。

「世代別売上においてもアンケート結果を見れば60歳以上のシニア層が前年から7%延びて24%に達し、若年層の2分の1を超えました。当社の狙うセカンドターゲットが順調に取れています。この層への販売促進はさらに強化すべきでしょう」

 遠藤は自信満々でプレゼンを続けている。

 彼の聴衆は、代表取締役社長、諫若一成《いさわかかずなり》を筆頭に経営陣の他6人だった。

 遠藤のプレゼンは課の業績というより自分個人の業績に見えるよう仕上げられていた。

 会議室の末席、姫花は黙って座っている。ノートパソコンに記録を取っている。

 ところが、なぜか途中から姫花の手が止まっている。パソコン画面を凝視したまま両手はキーボードに置かれて静止している。眠っているのか? いや目は開いている。ぼんやり考えごとをしているのか?

 会議室の誰もそんな姫花に気づかない。


 実は、姫花の意識は遠藤渉の中にある。

 北島姫花は普通のOLではない。ある特殊な能力を持っている。それは自分の意識を他人の体に潜り込ませることができる不思議な力だった。

 いま、姫花は遠藤の意識を覗(のぞ)いている。しかし遠藤はそのことをまったく知らない。姫花が隔離された部屋で、遠藤に気づかれずに彼の考えていることを盗み見している、そういった状況だ。

 姫花は遠藤のプレゼンを聞いているうち、彼が何を考えているのか知りたくなって、この特殊能力を使った。ちなみに彼女はこの能力のことを「シェアマインド」と呼んでいる。

 シェアマインドを使っている姫花は遠藤の意識をすべて読み取ることができる。

 遠藤が心の中でこう呟く。

『これだけの重鎮がそろう場もそうそうない。俺の成果トクとアピールしてやるぜ』

(やっぱそんなとこなのね)

『ここをうまくやれば、次長昇格もある』

(お見事なジコチューだわ)

『んっ 社長、口元、微笑でんじゃないか? あるぞあるぞ』

(ほんと疲れるこの人)

 姫花は遠藤と同じ視覚で諫若社長を見ている。それは遠藤が見えている景色を別のモニターで見ているようなものだった。

 姫花は驚いた。

(課長ってこんなに近眼だったの? 社長の顔がぼやけているじゃない。これでよく微笑んでるなんてわかるわね)

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