第27話
わかっている。刀剣や弓矢よりスナイドル銃やアームストロング砲のほうが圧倒的に優位である。知っていて彼らは刀剣を手放さない。それは刀剣がただの武具ではなく彼らの魂であるからという以外に説明がつかない。
「寄せ集めで仏蘭西の大筒打っても戦には勝てん。おい達の流儀で武士の本当の強さ見せてやったい」
ハルは頷いた。太田黒の覚悟を直に見てきているからだ。ハルは彼を諌めるつもりはない。それがたとえ暴挙だとわかってはいても。
明治の転換期、古式武士が安寧に生き残れるわけがなかった。太田黒と夫婦になることは叶わぬ願いだった。彼はこの畝りの中、命を賭けた革命家である。ハルにできることは太田黒の革命をひとつでも多く成功させてやることだった。スナイドル銃やアームストロング砲より強力な共有という秘術を使って。
明治九年十月二十四日。敬神党は桜山神社に集結した。その数およそ百七十名。
太田黒伴雄を首謀者として、加屋霽堅、斎藤求三郎らが中心であった。
「夷狄かぶれの新政府ばひっしゃぐったい。おい達は大八洲の武士の強さ見せてやるたい。死んでもこれだけは離すんじゃなか」
太田黒の突き上げた拳には月明かりを吸った剣が妖艶に照り輝いていた。
「えいおう」
一団鬨の声を上げた。
ここで太田黒がある作戦を開示する。その作戦とは、敬神党を二隊に分けて、一隊は熊本鎮台司令官宅、もう一隊は熊本県令宅を襲撃するというものであった。両首長の首を挙げることが作戦の初期目的である。
両首長を血祭りに挙げた後、主なき新政府軍の砦、熊本鎮台を落とす。それは容易いはずだ。熊本鎮台を奪取すれば藩の実権を握ったも同然である。ここまででクーデターは成功である。
この秘策、実はハルが編み出したものである。ハルは共有を使って、事前に熊本鎮台司令官宅の警護が空白になる時間帯と熊本県令の酒宴の日を突き止めていた。この二か所の急襲を太田黒に献策したのである。
しかしこの秘策にはさらに奥の意味があった。この革命テロは新政府軍に早晩鎮圧されるだろう。ハルはわかっていた。敬神党は敗北し太田黒は戦死するであろうことも。
ただこの戦が鎮圧されても、これをきっかけに各地にくすぶる不平士族のエネルギーに火をつけ爆発させることになればよい。
最後は新政府転覆の一大革命になればよい。そうハルは思っていた。またそれが太田黒の清い望みだったからである。
出陣前夜、太田黒はハルを呼んでこう言った。
「ハルのおかげたい、こん戦ができるんも」
「おいはなぁんもしとらん」
「そげんこつなか、あーたがおらんかったらおいはここに立つこともできんかった」
ハルは黙って太田黒を見つめた。
「心の奥から感謝しとる」
太田黒は言葉をかみしめて言った。
「おいが散った後も、あーたは生きて時代が変わるんを見届けはいよ」
それがハルへの最後の言葉になった。
ハルは唇を固く結んで黙って頷いた。
その唇に、太田黒の血潮を映す熱い唇がそっと重なった。




