第22話
隅田川ほとりのイタリアンダイニング。
先に行ってて、と雅臣からメッセージがあったので姫花は気持ちを整理する時間も欲しかったので、店にひとり向かった。
リバーサイドのシートには川面に反射する光や行き交う船影やジャズの音響が交錯した。それらを姫花は幻であるかの如く遠くに感じた。この色や音は他の人にはどんな風に伝わっているのだろうと考えていた。
ほどなく雅臣がやってきた。
「わるい、わるい。商談長引いて」
「なんの商談?」
心落ち着けていたつもりだったが詰問調になってしまった。
「言ってもわかんないよ」
なんか引っかかる。そう思ったが気持ちを抑えた。
雅臣は疲れた表情でシートに腰を降ろした。色を失った隅田川が彼の背の向こうに見えた。
冷えたビールを掲げ二人は「チアーズ」と声を合わせ乾杯した。この掛け声は二人の合言葉だ。互いを励ます時にもよく使う。
2杯目を飲み終える頃、うってつけの話題に飛んだ。
雅臣が言った。
「しかし、あいつよく打ったよな」
奇貨おくべしである。
「あいつって?」
「なに言ってんだよ、サヨナラヒット打った殊勲者だよ」
「だから誰のこと?」
「見てなかったのか?」
「んなわけないでしょ」
「だよな」
「その殊勲者に何か言ってあげたいことは?」
「でかした!」
「それだけ?」
「ん?」
雅臣は不可解な表情をしている。
「どうした姫花?」
「べつに」
「なんか今日変だぞ」
雅臣はフロアスタッフを呼んでビールを追加した。
「遠藤課長とまたなんかあったのか?」
これもむしろ姫花にはうってつけの話題振りだった。
「わたしじゃないわ。殊勲者の方にね」
「琴実か?」
(そうそう、その名前を出したかったのよ)
「随分こっぴどくやられてたわ」
「らしいね」
直後、彼の表情に焦りが見えたのを姫花は見逃さなかった。
「どうして知っているの?」




