第12話
さておき、オヤブンの本音だ。そこを姫花は覗いた。
『こいつら戦う前から負けとる。どないかして自信つけさせたらなあかんな』
オヤブンの心の声が聞こえる。
『景気づけに、焼き肉とチョコレートパフェおごったるかいな』
(オヤブン、あなたっていい人ね〜)
姫花は手をたたいて誉めそやしたかった。
『堀口のおごりで』
こけそうになった。
(ったく。せっかくほめてやったのに、これだ)
オヤブンの視線が冴子に向く。その視界も姫花はシェアする。
『おぉっ! その不安な表情がまた、きゃっわいいんやあ~!』
(こいつ、わたしたち励ます気まったくないな)
勝てる気がしなかった。
さて、試合当日。
場所は隅田川の河川敷グラウンド。対戦相手はイサワカ製菓の取引会社のひとつ、小池製粉株式会社女子野球チームプリンセス。プリンセスは結成6年目の渋谷ガールズアイルより先輩チームである。
だが、
「スットライ~ク! バッターアウト」
これで2者連続三振。1回表、プリンセスの1番、2番バッターは周のボールが里美のミットに収まってから、慌ててバットを振る始末だった。オヤブンの言ったとおり周のボールは相手のバットにかすりもしなかった。
続く3番バッターは外国人プレーヤーだった。小池製粉は技能実習制度を取り入れている。このバッターはインドネシアから派遣されてきた技能実習生である。このチームは外国から来た仲間にOJTだけでなくOf-JTをも通じて勉強してもらっている。その理念も立派だが、もっと立派なのは彼女の体格の方だった。日本人女性の1.5倍ほどあろうかという立派な体は、軽々とバットを振り回している。彼女がバッターボックスに立つと威圧感ハンパない。
里美は彼女のがっしりとした腰あたりを眺めている。
『当たっちゃうとオーバーフェンスって感じね』
様子見に里美は周に1球目カーブを要求した。力のあるバッターがストレートには強い傾向があることを里美はよくわかっていたからだ。周も同意して首を縦に振った。美しいフォームで外角いっぱいにカーブを決めた。相手のバッターはピクリとも動かなかった。やはり変化球には反応できていない。そう里美は判断した。
続く2球目、里美はもう一度同じ球を要求した。周は何の疑念もなく里美の指示に従った。再び美しいフォームから切れの良いカーブを外側に投げた。少し球は真ん中に入ってきた。しかし打たれるはずはない。里美はボールを受けるイメージができていた。
が、次の瞬間、黒い影が一閃して、周の投じたボールを捉えた。
高い金属音を後に残して打球はレフトの頭上遥か上、大きな放物線を描いてフェンス向こうに消えた。
先制ソロホームランである。
渋谷ガールズアイルのメンバーは茫然と消えた打球の方角を眺めた。
最初に声を出したのはオヤブンだった。
「ま、まぐれやまぐれ。気にすんな」
姫花は呟いた。
(気にすんなって、気にするわよ。周さん打たれたのよ。言っていたことと違うじゃないの!)
ダイヤモンドを一周してきた3番バッターを次の4番バッターが迎える。二人がハイタッチした。この4番も技能実習生だった。さっきのバッターより背が低いが、胴回りは彼女の方がどっしりしていた。
(なんなのここ。助っ人スカウトしてるの?)
姫花はぼやいた。




