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時は流れ、ミアは11歳になった。
「近くの街に行ってくる!」
「飛行魔法を使うときは……」
「雨雲に入らない、でしょ。分かってるって」
「それならいいんだ。気をつけて行くんだよ」
以前首都に行った時の経験がよほど刺激的だったのか、ミアは都会に行くことを望むようになった。
有り余るやる気で飛行魔法を覚え、1人で街へ出るようになるのに時間はかからなかった。
その後は都会の影響か、口調も若者言葉に寄っていった。
ルージュは空になった家を見て溜息をつく。
「部屋が欲しいと言ってすぐ出好きになるとは……子供というのはよく分からないな」
ルージュは以前よりも自由に時間を使えるようになった。
だが、ミアが居ない家にはどうも違和感を感じてしまうようになった。
「誰かといるのが当たり前になってしまったな……」
ルージュはたった11年で起こった自分の変化に少しの戸惑いを覚える。
「だが、いずれ一人の生活にも慣れるだろう」
そう自分に言い聞かせながら、違和感を家事や研究で紛らわすのがルージュの日常になっていた。
夕方になり、ミアが帰ってくる。
「師匠、ただいま。これお土産」
「砂糖菓子か、ありがとう」
街に行き始めた頃はルージュが些細な用事を依頼して、見返りとして駄賃を渡すことが多かった。
しかし、ミアは最近、どこからか金を工面するようになった。
それ自体は問題ないが、町で危険な行動をしていないか心配に思い始めた。
ミアには殺傷性の高い魔術や強力な毒物の扱いはまだ教えていない。
だからといってそれを知らないとは限らない。
街には様々な知識があるからだ。
ルージュはそう考えると居ても立ってもいられなくなり、夕食時にミアへと質問を投げかける。
「ミア、街では普段どんなことをして過ごしているんだ?」
「友達と遊んだり、友達の家で手伝いをしたりしてるよ」
「渡した分より多く買ってくると思ったが、手伝いをしていたのか。
自分で働いて稼ぐとは感心だな。どんな手伝いなんだ?」
「ただの雑貨屋の店番だよ。計算ができるからってよく呼ばれるんだ」
「それなら計算を教えた甲斐があったな。
危険なことをしていないなら何も言うことはないさ。好きにおやり」
ルージュは心の中でほっと一息を吐く。
それと同時に、自分の考えに不安が多く混じっていたことに気づく。
弟子は駄目になっても新たに作ればいい。
ルージュにはそれだけの時間的余裕がある。
弟子を取るまではそう思っていたが、自分は思っていたよりも人間にのめり込んでしまう性格らしい。
そう考えながら頭の中の自己評価を書き換えていく。
次は冷静に判断できるように。
そんな日々が続いていたある日、ミアはこう話を切り出した。
「師匠、魔法学校に通うには使い魔が必要だって書いてあったんだけど、これはどういうものなの?」
「そういえば教えたことはなかったな。使い魔というのはいわゆる……ペットだ」
「そうなんだ。ペットなら猫が良いな。でも魔法と関係ないんじゃない?」
「高位の魔法薬を作る時には、生きたまま加えたり、とても新鮮なものが必要になることがある。
だから生きたまま保管しておかなければならないものがあるんだ。
使い魔はその練習ということになっている」
「『ということになっている』ってことは本当は違うの?」
「そうだ。本当の理由は、1人で入学した生徒が寂しくないようにするためだな。
……今それを聞くということは今まで資料を読んでいなかったな?」
ミアがびくりと体を震わせる。
その反応から質問の答えを悟ったルージュは説教を始めた。
「資料というものは適切な質問が必要な人間と違って……」
「……というわけだ。説教はこの辺で終わりにしよう。
少し遅れたとはいえ、きちんと資料を読んだようだな。そこだけは評価しよう」
「はい……」
「まあ、入学まであと1年だし、そろそろ準備を始めるのもいいだろう……
他に必要なものは書いてなかったか?」
「教科書と生活用品、制服のローブが必要だって書いてあったよ」
「それなら今度、教科書と制服を買いに行こう。あらかじめ予定を調整しておいてくれ。
それと、ミアも飛行魔法を覚えているのだから今回は日帰りで行くぞ」
「うん、分かった」
数日後、ルージュとミアは首都へと移動した。
ミアの入学先は首都にある魔法学校のため、必要なものも首都で揃えるのが良いという判断だ。
まずは入学資料に書いてあった用品店を訪れる。そこでまず制服を買うことにする。
店員に入学希望ということを伝え、サイズを測り、試着用のローブを着せてもらう。
「どう?師匠、似合う?」
「似合っているぞ。だがぴったりすぎるな。お前もそろそろ成長期だろう。
使っているうちに小さくなるはずだ。もう1つ大きいサイズを買うぞ」
その言葉を聞いて店員が在庫を取りに行っている間、ミアが鏡を見て言う。
「なんかちょっと地味じゃないかな?何年もこれを着るの?」
「地味なのは仕方ない。魔法学校では危険な魔法や魔法薬も扱うんだ。
その防護と量産性を両立させようとすると地味になるのも仕方ないんだ」
「その理屈はわかるけど……」
「機能を妨害しない程度の改造ならやってやるから、機嫌を直せ」
「やった!流石師匠!」
ルージュとミアは制服を買って店を出た。
その後は教科書を買って、ミアおすすめの喫茶店でお茶をし、家に帰った。
帰り道、ルージュは制服改造についての要望を聞き、作業計画を立てながら飛んだ。
家に帰ったミアは長時間移動の疲れからかすぐに寝てしまった。
ミアが寝たことを確認したルージュは自分の部屋に戻り、制服の改造を始める。
「こんなことも何年ぶりだろうか……」
埃を被った裁縫箱を取り出し、慣れない手つきで糸を通し、制服に装飾を縫い付けていく。
「痛……」
指を針で刺してしまったルージュは、血の出ない自分の指をじっと見つめる。
制服を触っていると、ミアが魔法学校に行った後のことを考えてしまう。
12歳から3年間魔法学校に通い、15歳で帰ってくる。
そして15歳はこの国では成人年齢だ。その行動に指示を出すことはできない。
やがてルージュのもとを離れ、自分だけの人生を生き、そして死ぬだろう。
不老のルージュを残したまま。
ルージュはそれを考えた時、『嫌だ』という感情がよぎったことに気づいた。




