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ルージュが1人部屋に慣れ、ミアが家事を概ね覚えた頃、ルージュがある提案をした。
「ミア、この国の首都に行ってみないか?」
「どうしてですか?」
「そろそろなくなりそうな材料があるし、魔法学校の下見もしたいんだ。
そのついでに、お前にも都会を一度見せておくべきだと思ってな」
「見に行くだけで何か変わるんでしょうか?」
「変わるさ。お前はこの村のことしか知らない。
初めての未知の光景は一生忘れられない経験になるだろう」
「それなら……行ってみたいです」
「よし、決まりだ。出発は2日後の朝。
それまでに着替えを2着分、日用品、あと防寒具をまとめておくように」
「分かりました」
2日後の朝、2人は村を出た。
ルージュはミアを連れ、雲の上を飛行魔法で飛んで行く。
「師匠、寒くないんですか?」
「寒いのはほとんど風のせいだ。
だから防壁魔法で壁を作ればあまり寒くない。自分でやってみるんだ」
「はい……確かに寒さがおさまりました」
「あとは防壁を維持し続けるだけだ。半日は掛かるから頑張れよ」
「半日!?いえ、頑張ります」
ルージュはミアを励ましつつ飛行を続け、首都の近くに着地する。
そこで2人は少しだけ休憩を取り、首都の中へと入っていった。
「眩しい……」
辺りはすっかり夜だった。
しかし、首都の中は煌々と光っている。
魔法で光る街灯があちこちに設置されているからだ。
「今日は遅くなってしまったから、動くのは明日にしよう。宿を探すぞ」
「はい」
ミアはルージュの言葉に頷きながらも心は目の前の景色に没頭していた。
ルージュはそれに気づきながらも何も言わず、ただミアを宿まで連れて行った。
宿でツインルームを取り、部屋に入る。
「師匠。今日は窓を開けていてもいいですか?」
「良いぞ。ただし、早めに寝なさい」
ルージュはベッドで横になり、ミアを観察する。
窓の外をキョロキョロと見回すミアに、小さい頃のミアを重ねながら眺め続けていた。
夜も更け、街灯の明かりが消える頃になってやっと、ミアはベッドに入って寝息を立て始めた。
次の日の朝、ルージュとミアは買いものに出かけた。
魔法薬の素材に限らず必要なものを買いそろえる。
ミアはその途中で、何度も人を避けるために急な動きを繰り返していた。
村では道を塞ぐほど人が歩くことはない。
だからミアは慣れない環境のせいで明らかに疲れているようだった。
それを見かねたルージュは休憩するため適当な喫茶店に入る。
「ミア、疲れているようだが大丈夫か?」
「はい。人が多くて思ったよりも疲れてしまいました」
「もし辛いようだったら先に宿に戻っていても良いぞ」
「まだ歩けるので大丈夫です」
「分かった。あとの予定は魔法学校に書類を取りに行くだけ。
だからそれまでの辛抱だ。無理はするなよ」
ルージュたちは甘い菓子や飲み物で英気を養った。
喫茶店を出たルージュたちは魔法学校へと足を運んだ。
魔法学校は城のような見た目をしていた。
建物には窓が整然と並んでおり、その上には何本もの尖塔が空に伸びている。
城壁があるべき場所には石畳の広大な敷地が広がっていた。
「こんなに高くて広い建物、初めて見ました!」
ミアは先ほどまでの疲れが嘘のようにはしゃいでいる。
「だろう。この国1番の大きさなんだ」
ルージュは懐かしさを抑えきれずに呟く。
「80年前とあまり変わってないな……」
「師匠も魔法学校に通っていたんですか?」
「もちろん、この国で魔法学校に通っていない魔法使いはモグリだ。
ある程度の大きさの街には必ずあるし、入学も簡単、学費も安い。入らない理由がない。
流石に他はここほど大きくはないがな」
「なんでそんなに魔法使いを増やそうとするんでしょうか?」
「魔法使いは国の力の源だからだ。
例えば、魔法で重いものを動かせるだけでも何人分もの労働力になる。
他にも魔法薬の製造、開拓、戦争……まあ、いろいろ役立つからな」
戦争と口に出したルージュの顔が一瞬険しくなる。
幸いにも魔法学校の校舎を見ていたミアはそれに気が付かなかった。
「とにかく、まずは入学案内の資料をもらってくるとしよう。
そこにいろいろ書いてあるはずだ」
「分かりました」
ルージュとミアは校舎に行き、受付の老婆に話しかける。
「すまない、入学案内を1部いただけるかな?」
「そのお嬢さんの分だね?それに……魔導士試験の資料も必要そうだ」
「何も言ってないのにどうして必要だってわかったんですか?」
「ミア、落ち着け。ある程度魔術をかじっていればわかるものなんだ。
……資料はありがたく頂戴しよう、先輩?」
「『ある程度かじっていれば』ね、なかなか有望そうな後輩じゃないか。
あとこれは入校証だ。首にかけると校舎に入れるようになるよ。
弟子のためにも1度は見ていきな。120年は改築してないから迷うことは無いはずさ」
「ありがとう。ミア、行くよ」
「はい、師匠。おばあさん、資料をありがとうございました」
「2人とも、頑張るんだよ」
ルージュとミアは校舎を進みながら先ほどの老婆について話す。
「さっきの老婆は魔導士だ」
「えっ?普通のおばあさんに見えましたが……」
「不老の術を使うと体の機能がいくらか止まるんだ。心臓などだな。
それを互いに観察したというだけだ」
「全然わかりませんでした……」
「まだ教えていなかったのだから当然だ。だがこれだけは覚えておけ。
場面にあった知識とそれに基づいた観察ができればたいていの問題は解決できる。
そのために私たちは魔法を学ぶのだと」
「はい、分かりました」
ルージュとミアは魔法学校の中をひと通り回り、学校のシステムや制度について話した。
「でも、魔法と観察を学ぶだけなら魔法学校に行かなくても、師匠についていけば良いんじゃないでしょうか?」
「理由は幾つかある。
1つ目、魔法以外にも必要な知識は多いからだ。
私といえど人間1人の知識などたかが知れている。だから都会へ行き、多くの人から学ぶ必要があるんだ。
2つ目、最新の魔法を学べるから。
私が魔法学校にいたのは80年以上前だ。その間に新しくなった魔法もあるだろう。ここではそれを学べるんだ」
「そうなんですね。それでも……」
「心配しなくても入学は12歳からだ。それまでに何度か来て慣れておこう」
その後、宿でもう1泊した後、再び飛行魔法で村へと戻った。




