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全4話、1万字程度の作品です。本日中に完結まで投稿します。

 魔導士。

 誰もが知る、魔を導く者を指す称号。

 だからこそ、目指す者も、道半ばで心折れる者も多い。

 それを得ようと努力する者が1人。

 名前をルージュと言った。


 ルージュはとある辺境の村で薬師をして暮らしている。

 才ある者でも40〜50代で完成させる不老の術を僅か25歳で習得した、本当の天才というやつだ。

 住居に辺境を選んだのも不特定多数との交流に時間を割かず研究に打ち込めるから。

 いわゆる、魔法にしか興味のない人間だった。

 

 そしてルージュは今年で100歳。

 それは、ようやく魔導士試験最後の課題に挑めるようになる年だ。

 最後の課題は、弟子を取り、自らが教え導くことのできる存在だと示すこと。

 そのために、すでに弟子も取ってある。

 名前はミアと言った。


 ミアは村の事情で引き取った子供だ。

 当時はまだ赤子だったミアを必死に育てて早10年。

 その途中で魔法の才能があることがわかり、正式に弟子にしたのだ。


 ルージュはミアを立派に育て上げたと自負している。

 不老の術を習得した者特有の時間的余裕を生かし、魔法研究など自分のことを後回しにしてミアの世話をしてきたからだ。

 

 正直、引き取った直後は子育てなど面倒なだけだと思っていた。

 しかし、体の動かし方や言葉を教え始める段階になった時、気持ちに変化が起きた。

 あらゆる知識を乾いたスポンジのように吸収していくさまに感嘆したのだ。

 ルージュ自身、赤子と長く付き合うのは初めてだったためその驚きは大きかった。

 

 それからは、進んで物事を教え始めた。

 天才であるルージュがつきっきりで教育する。

 そんな関係が10年も続けば弟子のミアが優秀になるのも無理のないことだった。


「では今日のおさらいだ。魔法薬の問題にしようか。

 眠気覚まし薬の調合を変えて風邪薬を作るにはどうすればいいか分かるか?」

「朝紫花の種と秋霜草の茎を入れず、最初に毒抜きした皿百合の球根をみじん切りにして加えます。

 量は朝紫花の種の2倍、風邪がひどいときは3倍入れるのがいいかと」

「素晴らしい、割合まで完璧だ。今日の勉強はここまで」

「ありがとうございました」


 ミアが机を離れる前に声をかける。

「午後は薬草畑の世話をしているから、何かあったら呼びなさい」

「私は村で遊んできます」

「怪我に気をつけるんだよ」


 その日も何事もなく終わり、ルージュたちは床につく。

「師匠。1つ聞いていいですか?」

「ああ、何でもいいよ」

「友達のお母さんがお菓子をくれたんです。

『 ミアの両親のおかげで私は今生きている』って言いながら。

 私の両親はどんな人だったんですか?」

 

「そうだな……村で1番優しく、そして気高い夫婦だった。

 もともとはこの辺りの出身じゃない。移住してきたんだ。

 振る舞いから察するに都会の生まれだったんだろうね」

「都会って人が沢山いる場所のことですよね」

「そうだ。ミアもいずれ魔法学校に行くんだから、1回見に行くのも良いかもな」

 

「それで、その夫婦はよく働きもした。

 朝早くから畑に出て、夜も家の中で働いていた。

 皆の手本と言うのにふさわしい存在だった」

「どうして、その、亡くなったんですか?」

「流行り病さ。これはある意味、私のせいでもある」

 

「師匠の?」

「まあ聞け。ミアが生まれて半年たったころ、村で病気が流行り始めた。

 たまにあることだ。それに備えて薬も材料も用意してあった。

 だから私は病人に薬を行き渡らせた。

 問題なのはここからだ。その直後、また別の病気が流行り始めた」


「私はその病気の薬を作って配ろうとしたんだが、その薬には前の病の薬と共通した素材があった。

 案の定、その素材が不足して病人全員分の薬は作れなかった。

 だから何人かは見捨てることにしたんだ」

 

「それで私の両親を?」

「いや違う。私は村に必要なやつらから順に薬を配っていった。

 お前の両親はその筆頭だったから最初に渡したさ」

「じゃあ……」

「だけど、お前の両親は『隣の家の家族に薬を渡してくれ』と言った。

 自分たちの症状が軽いと嘘をついてまでだ。

 だから死んだ。その言葉を鵜呑みにした私の落ち度でもある」

「そんな……」

「お前は運よく病気にかからず生き延びた。

 それを私が引き取って今に至るというわけだ」

 

 ルージュは少し時間を空けたあと、再び口を開いた。

「よく聞け。お前の両親は優しいが、愚かだ」

 ルージュはミアを力強く抱きしめて言った。

「お前も両親に似て優しい子に育った。

 それは良いことだが、優しさに身を任せてはいけない。

 なによりも自分のことを考えて生き残るんだ」

 乞われて抱くことは何度もあった。

 だが、自分からするのは初めてのことだった。


 次の日の朝、ミアはあるお願いをしてきた。

 自分の部屋が欲しい、と

 ルージュは悩む。共同生活をするのにわざわざ部屋を分けるのは空間の無駄だと考えているからだ。

「現状でも生活に必要な空間は十分にあると思うが……

 なにか理由でもあるのか?」

「両親の話を聞いて思ったんです。

 自分の力で生き残るために、まずは1人で生活ができるようになりたいって」


 昨晩の警告を素直に受け入れたミアに安堵を覚えながら返事をする。

「良いだろう。隣の物置をお前の部屋にするぞ。まずは片付けからだ」

 ルージュとミアは片付けや掃除、家具づくりなどを始めた。

 その間もルージュは教えることを止めなかった。

 今回の内容は魔導士試験についてだ。


 魔導士試験には大きく分けて3つの段階がある。

 第1課題。筆記と実技試験で一定以上の成績を取ること。

 第2課題。100歳になること。

 これは実質的に不老の術を修めることだ。

 長期間研究を行うため、寿命程度は克服しないと話にならないからだ。


 第3課題。弟子を育て、第1課題に合格させること。

 不老の術は体の時間を止めることと同義。

 そのため、使用者は子を成せなくなる。

 代わりに弟子を取り、教え導くことができると証明しなければならない。

 

「じゃあ、師匠は魔導士試験のために私を育てたんですか?」

「まさか、育てていたら偶然魔法の才能があるのが分かったんだ。

 お前を独り立ちさせてから弟子を探そうと思っていたから、手間が省けた気分だよ」

「独り立ちさせてからって、気の長い話ですね」

「もう年を取らないんだから、幾らでも待てるさ」

 

 数日後、新しい部屋が完成し、ミアはそこで暮らすようになった。

 ルージュは広くなった部屋を再び何で満たそうか考えながら眠りについた。

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