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私は悩んでいた。
自分が魔導士になった後、何をしたいのか。
その疑問が浮かび始めてから何も手につかなくなった。
昔だったら国の研究機関で支援を受けながら魔法研究をしたいと答えていただろう。
だが、無限の時間があると実感してからは研究への意欲は薄れていった。
途中でどんな寄り道をしようが、やがて研究は進むからだ。
合理的に行動するならば、悩む時間を最小限にしてとにかく行動を起こすことが正しいだろう。
誤った結論を出しても、気づいたときに軌道修正すればいい。
間違った経験も無限に生きていれば活かせるときがくるからだ。
立ち止まっている時間こそが最大の無駄だ。
だが、簡単には割り切れない。
そんな時、村人の夫婦が死んだという知らせを聞いた。
私が訪れた時にはやせ我慢をしていたらしい。愚かなことだ。
確かその家には赤子がいたはず。
そう思い出して聞いてみると、その子だけは病気にかからず生き残ったらしい。
私はある考えが思い浮かんだ。
今までの自分なら選ばなかったことを、一度くらい試してみてもいいのではないか。
そこで私は赤子を引き取り、育てることにした。
ルージュは久しぶりに夜更かしをしたせいか、昔の夢を見ていた。
それを振り払うように頭を振り、机の上を見た。そこには夜なべして改造したミアの制服があった。
朝食を作るついでに、制服を食卓へ持っていく。
そして朝食を作った後、ミアを起こして食卓に呼んだ。
ルージュは朝食を食べ終えると、ミアへと制服を差し出した。
「師匠、これって……」
「もちろん、お前のものだ。これ以上は自分でやるんだな」
「もう手を入れるところはないよ!完璧!友達に自慢してくる!」
「ミア、片づけくらい……」
ミアは興奮したまま、ルージュの話を聞かずに玄関へと走っていった。
「後で説教だな」
言葉とは裏腹にルージュの顔は思わず緩んでしまう。
食卓で1人になったルージュは朝見た夢のことを思い出していた。
今、自分が何をしたいのか。ルージュは脳内に様々な研究の選択肢を思い描いていく。
その中で、『ミア』という単語が頭の隅に浮かんだ。
ミアと永く一緒にいることはできない。だから選択肢から除外しようとする。
しかし何度考え直してもその単語は頭から離れない。
角度を変え、今まで何のために行動することが多かったのかを考えてみる。
魔法薬のために薬草畑を耕した。
ミアのために首都へ行き、必要なものを買い揃えた。
自分とミアのために食事を作った。
ミアのために制服を改造し、渡した。
これからもきっと……ミアのために行動するだろう。
自分のあらゆる行動や思考にミアが深く根を下ろしていることにルージュはたった今、気づいた。
それが不快でないことも。
それからルージュはミアに対して何ができるか考えることに没頭した。
魔法については、やる気さえあれば自力で進んでいけるだけの知識を与えた。
魔法薬に関しても同様だ。
自活も、ひと通りの家事は教えたので1人でも生活していけるだろう。
資金面でも問題はない。既に自分で稼ぎ始めている。
ルージュはこれ以上ミアに何かをする必要は無いと結論づけた。
自分がミアにしたいことは。
ただ、そばを離れたくないと思った。
それと同時に、ミアの人生を邪魔したくないとも思った。
ルージュはその日の夜、帰ってきたミアにひとこと告げる。
「ミア、急ぎで研究したいテーマが見つかった。しばらく家事を任せてもいいか?」
「大丈夫だよ」
その後、ルージュは自分の工房にこもり、研究を始めた。
研究対象は動物。その中でも猫に関するものだった。
日々は過ぎ去り、ミアが1人で生活することが当たり前になったある日、ルージュの工房の扉が開いた。
「あっ、師匠、研究は終わった?」
「そうだ。待たせたな」
それから、ミアが12歳になるまで共同生活が続いた。
そしてミアが12歳になる日、ルージュはこう切り出した。
「ミア、魔法学校に入学する頃合いだな」
「そうだね。魔法学校と言えば、使い魔はどうするの?」
「ちょうどそのことについて話そうと思っていたんだ。
お前の使い魔は決まったよ。猫だ。前に猫が良いと言っていただろう」
「覚えててくれたんだ。どこにいるの?」
「今用意している最中だ。しばらくすればお前のもとに訪れるだろう。
魔法学校にいる間は慈しむように」
「猫が自分から?まあ、師匠のことだから本当だよね」
「それと、入学前にいくつか伝えておくことがある。
まず、この家をお前にやる。研究資料もだ。そして私はこの家を出ていく」
「ええっ?急すぎるよ!」
「別に明日出ていくという話ではない。やり残したことがあればやっておくんだな」
「それでも……」
「最後に宿題を出す。私を見つけ出してみせろ。ただ旅をして見つけられるほど簡単ではないぞ。
期限は……具体的に出すのは難しいから、使い魔が生きているうちにしよう」
「……」
「ミア、分かったか?」
「……わかんないよ」
「そうか、どのあたりが……」
「そういうことじゃない!家を出ていくこと!」
「お前の人生に干渉し続けることは……」
「師匠は何もわかってない!」
ミアはそのまま自分の部屋へ駆け込み、ドアを魔法で閉じてしまった。
ミアはそのまま何日も部屋から出なかった。
ルージュの問いかけにも答えない。
そしてルージュの旅立ちの日が来てしまった。
ルージュはミアの部屋の扉を叩き、別れを告げる。
「ミア、行ってくるよ。また会えるかはお前次第だ」
そのまま玄関を出て歩き出す。
その時、ルージュの耳に後ろから人が走ってくる音が聞こえる。ミアだ。
ルージュとミアは抱擁を交わした。
「師匠!私、絶対会いに行くから!待ってて!」
「期待しておこう」
お互いの存在を忘れないように、力の限り。
数日後、ミアのもとに一匹の猫が訪れた。
「師匠が言ってた……」
それは成猫で黒毛、目は真っ赤だった。
「……これからよろしくね」
数か月後、ミアは入学のために首都の魔法学校へ行った。もちろん黒猫を連れて。
そこで入学前の面接が行われた。試験というほどでもない簡単なものだ。
ミアの面接官は以前受付にいた老婆だった。
「それでは面接は以上だよ。ああそれと、使い魔を少し見せてくれるかい?
軽い健康診断をするから。ミア君は部屋の外で待っていてくれ。」
「分かりました」
ミアは黒猫を老婆に渡し、部屋を出る。
老婆は黒猫に話しかける。
「ぬかったね。赤目の猫は白毛しかありえないんだよ」
猫は老婆から目をそらす。まるで人間の言葉が分かっているかのように。
「まあ、お前も健康そうだし入学を認めるよ。
ただし、カンニングの手伝いなんかしたらミア君共々退学だからね」
老婆はそう言いながらミアの書類に入学可のスタンプを押した。
黒猫はにゃあと鳴いた。
これにて完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。
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