黒き妖精の再会 〜甘い毒〜
16:00、
約束の時間は、横浜の空がわずかに朱を帯び始めた頃だった。
人混みの中で、あの「漆黒」を見つけた瞬間、私の心臓は不規則なビートを刻み始める。
黒いマスクに、刺すような跳ね上げアイライン。
どこからどう見ても、近寄りがたいほどに完成された「孤独な武装」を纏っているはずの彼女が——。
私の姿を捉えた瞬間、その冷たいはずの瞳が、春の陽だまりのように破顔した。
「◯◯くんっ!」
鋭いスタッズのリボンを揺らし、
重厚な厚底ブーツをアスファルトに響かせて、
彼女が駆け寄ってくる。
その小柄な体が、漆黒のツインテールを激しく翻しながら、まるで重力などないかのように、私の胸へと迷わず飛び込んできた。
「……会いたかったよぉ!」
周囲の視線なんて、彼女には一ミリも入っていない。
人目も憚らず、彼女の細い腕が私の首に
「ぎゅーっ」と、
力強く、けれどどこか縋るように絡みつく。
黒いフリルブラウス越しに伝わる、
二十歳の、瑞々しくも激しい鼓動。
そして、彼女はつま先立ちになり、厚底の分だけ近づいた距離をさらに縮めた。
漆黒のマスクを、指先で器用にずらす。
のぞいた紅い唇が、迷いなく私の頬——いや、口角のすぐ側に、柔らかく「チュッ」と、
羽が触れるような音を立てて押し当てられた。
その瞬間だった。
彼女のスカートの裾、あの黒い網タイツの格子模様が、私の太ももに擦れるような感触。
鼻腔をくすぐる、甘く、
けれどどこか退廃的な香水の匂い。
そして、人前でこんな無防備な情愛をぶつけられるという、羞恥を伴った支配感。
「あ……」
私の奥深くで、抗いようのない「熱」が、
ドロリと首をもたげた。
理性が
「ここは公衆の面前だ」
と警鐘を鳴らすのに、裏腹に、
下半身は彼女の放つ小悪魔的な磁力に反応し、
耐え難いほどの熱量を帯びて膨れ上がっていくのを、私ははからずも感じてしまった。
この黒い武装の下に隠された、剥き出しの熱。
それを誰よりも早く、独占的に突きつけられたことへの、男としての情けないほどの悦び。
「◯◯くん顔、赤いよ?」
マスクを戻しながら、悪戯っぽく、けれどとろけるような瞳で私を見上げる彼女。
網タイツの格子越しに、
彼女の指先が私の腕をなぞる。
私は、自分のなかの「恥」を噛み締めながら、
これから始まるトワイライトの物語が、
決して清廉なままでは終わらないことを確信していた。




