表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/99

第94話_永劫の帳―永劫棺界―

――西部大森林樹海。


灼熱の領域が崩壊した。

吹き荒れていた炎が消える。


燃え盛る世界が砕け散り、本来の樹海へと景色が戻っていた。


「は?」

《迅速》カイが目を見開いた。

挿絵(By みてみん)


死を覚悟していた。

あの拳を受ければ終わっていた。


だが現実は違う。


領域は消えた。


グレンの攻撃も止まった。


何が起きたのか理解できない。


しかし、次の瞬間。

全てを理解した。


圧倒的な魔力が接近していたからだ。


それは王国の誰もが知る魔力。


王国最強。

王国十二守護騎士第一位。


《神剣》アルトリウス。


轟音と共に森が裂ける。


木々が薙ぎ倒される。


そして。

一人の騎士が戦場へ降り立った。


「団長……!」

カイが思わず声を漏らす。


アルトリウスは振り返らない。


ただ静かに言う。


「カイ」


「……はい」


「下がれ」


有無を言わせぬ声だった。


カイは反論できない。

素直に距離を取る。


一方。

《烈火》グレンは苦笑していた。


「ガハハ……」

その笑いに余裕はない。


「――来ちまったか」


アルトリウスは神剣を抜く。


白銀の刀身。


空気が震える。


それだけで周囲の魔力が軋んだ。


「グレン」

短い呼びかけ。


その目には、

失望があった。


そして、

悲しみがあった。


「何故だ」

静かな問い。


グレンは笑う。

「何故ってか?」


「そうだ」


しばらく沈黙が流れる。


グレンは空を見上げた。

木々の隙間から見える青空。


懐かしいものを見るような目だった。


「団長」

「俺にもな」

「どうしても諦められないものがあった」


アルトリウスは何も言わない。

ただ聞く。


「――守れなかったんだよ」

グレンが呟く。


「たった一人の家族をな」

拳が握られる。


その手は微かに震えていた。


「俺は強くなった」

「十二守護騎士になった」


「王国最強クラスの魔導士にもなった」


自嘲するように笑う。


「でもな」


「――何も変わらなかった」


「失ったものは戻らねぇ」


風が吹く。

樹海が揺れる。


「だから――、組織の話を聞いた」


アルトリウスの眉が動く。


「組織は言った」

「願いは届くと――」


「失ったものにも手が届くかもしれないと」

「"夜"には可能性があると」


グレンは自分でも分かっていた。


証拠などない――。


保証もない――。


だが。


「他に何があった?」

低い声だった。


「俺に残された道は」


アルトリウスは答えられない。


王国の守護騎士としてなら否定できる。


だが。

かつての仲間としては出来なかった。


「……そうか」

それだけだった。


グレンは苦笑する。


「優しいな」

「やっぱり団長だ」


そして――。

「だから俺は」


「――お前にはなれなかった」


その瞬間――。

空気が変わる。


アルトリウスが踏み込んだ。


神剣が閃く。


視認できないほどの速度。


――グレンも反応した。


大型籠手型デバイス《ブレイズ・アトラス》を構える。


――だが。


遅い。

斬撃が走った。


轟音。

空間が裂ける。


衝撃波が森を吹き飛ばした。


グレンの身体が弾き飛ばされる。


何本もの巨木を貫き。


ようやく停止した。


「ぐっ……!」

口から血が零れる。


立ち上がろうとしても身体が言うことを聞かない。


圧倒的だった。


勝負にすらなっていない。

挿絵(By みてみん)


王国最強。

その現実だけが残る。


アルトリウスが歩いてくる。


神剣を構えたまま。


ゆっくりと。

確実に。


その一歩一歩が死刑宣告のようだった。


グレンも理解していた。


終わりだ。

ここで全てが終わる。


神剣の切っ先が喉元へ向く。


「……」

アルトリウスは無言だった。


グレンは笑った。

「終わりか」


静かな声。

その顔に恐怖はない。


覚悟だけがあった。


神剣が僅かに動く。


あと少し。

それだけで終わる。


アルトリウスの手は止まった。


脳裏を過る。

若かった頃。


共に戦った日々。

背中を預けた戦場。


笑い合った時間。

守護騎士になった日のこと。


――全部が蘇る。


「……くそ」

思わず漏れた声。


グレンは察した。

そして苦笑する。


――躊躇した

瞬間だった。


ドクン――。


アルトリウスが気づく。


ドクン――。


大地が震える。


ドクン――。


まるで巨大な生命が目覚めたように。

森全体が脈打った。


グレンは立ち上がり。


血を拭う。


「甘いな」

そう言って笑った。


手には転移結晶が握られていた。


魔力が集まる。

――転移が始まる。


消える直前――。

「俺も詳しくは知らねぇ」


「組織の悲願らしいぞ――。」


その言葉を残し。

グレンの姿は消えた。


アルトリウスの眉が動く。


樹海の奥。

洞窟の方向。


「……まずいな」


あの地下空洞。


無数の卵。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


――鼓動が加速していく。


遠く離れた、この場所からでも感じる。


そして――、

空を覆うほどの魔力が噴き上がる。


(――孵化が始まる。)


「カイ!」

アルトリウスが叫ぶ。


「一旦戻るぞ!」


遥か樹海の奥。


パキッ――。


卵が割れる音が響いた。


一つ。


二つではない。


無数。


数え切れないほどの卵が。


一斉に。


孵化が始まった。



――――

――


薄暗い地下空洞の底で、


ヴィンセント提督はただ一人、


大いなる儀式の端緒に就いていた。


空間を埋め尽くすのは、孵化を迎え、


次々と飛び立っていく蟲型魔獣の群れ。


数万もの羽音が空洞に不気味に響き渡る。


しかし、

彼の眼中にその大群は映っていなかった。


提督が欲したのは、

魔獣そのものではない。


孵化の後に残された莫大な"抜け殻"、


そして

転がる無数の"魔結晶"


――それだけだ。


そして。

それは発動する。


溢れんばかりの魔力が引き絞られ、

世界を塗り替える術式が起動する。


永劫棺界えいごうかんかい


後に歴史が

「永劫のとばり


と呼ぶことになる。


大陸全土を閉ざす巨大な檻。


世界を隔離するその結界こそが、

これから始まる真の儀式に必要な"舞台の幕"であった。


組織の悲願たる

――『ワルプルギスの降臨』。


人が神を地に卸し、

その御顔を拝する禁忌の謁見。


今――、


世界の命運を狂わせる儀式の歯車が、


静かに回り始めた。

作者( ゜Д゜):短編小説『武峰の落ちこぼれ、修仙理論で頂点を目指す』を執筆しました。

オコジョ:最近更新が遅いと思ったら……。

作者( ゜Д゜):残念だが、作者は暑さで書く気力が出ないだけだ!

オコジョ:ダメだ、此奴(乂-д-)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ