第93話_管理者権限
――時空管理局日本支部。
勉強会二日目。
訓練室の一角。
長机を囲むように座る少女たち。
有栖川時寧――魔法少女アリス。
小早川エリザ――魔法少女エリザ。
一条楓――魔法少女カエデ。
守護騎士シエル。
守護騎士レギ。
そして――俺、内藤祐司。
「揃ったわね」
前方へ立ったミスティ提督が手を叩いた。
「今日は魔導デバイスについて説明するわ」
少女たちの背筋が伸びる。
ただ一人。
祐司だけが嫌な予感を覚えていた。
(今日も長くなるな……)
――案の定だった。
ミスティはホワイトボードを操作しながら語り始める。
「まず前提として、
魔導デバイスは単なる武器じゃない」
「魔導師の生命線よ」
映し出されたのは杖や剣、銃など様々なデバイスの図。
「人間が扱うには大きすぎる魔力を制御するための補助演算装置。
――それが魔導デバイスよ」
「――術式構築支援」
「――魔力制御補助」
「それらの戦闘支援」
「そして――。自己修復機能」
「つまり、魔導師が戦うために
必要な機能を全部詰め込んだ戦術兵器ね」
少女たちが真面目な顔で聞いている。
祐司は設定資料の内容を思い出していた。
――魔導デバイス。
かつて御伽噺に描かれた魔法の杖。
――その幻想を。
科学と魔導工学によって極限まで磨き上げた存在。
神秘ではない。
――技術だ。
人の身には余る魔力を暴走させず。
狙った通りに世界へ干渉するための装置。
現代魔導師の相棒。
そして、
その最深部には――。
『制御コア(マザーコア)』
と呼ばれる中枢が存在する。
術者の魔力に同調した核。
外装が破壊されても。
コアさえ無事ならば。
魔力を消費して何度でも再構築できる。
――だからこそ。
魔導師は武器を失っても戦える。
「ちなみに」
ミスティが続ける。
「デバイスにも種類があるわ」
画面が切り替わる。
「まずはインテリジェントデバイス」
「自己判断機能を持った高性能型ね」
さらに画面が変わる。
「それにユニゾンデバイス」
「補助人格を持ち、
術者と融合することで能力を引き上げる特殊型よ」
「うぅぅ……」
頭を抱える声。
――アリスだった。
「難しいですわ……」
エリザも困った顔を浮かべる。
「まだ始まったばかりよ?」
ミスティが呆れる。
「もう駄目ですわ……」
「アリス……エリザは……脳筋……だから」
楓が小さく呟く。
「「!?」」
アリスとエリザが同時に反応した。
シエルは静かに視線を逸らした。
レギも無言で顔を背ける。
(否定しないんだな……)
祐司は心の中で思った。
「他にも、古代型デバイスが存在するわ」
――古代デバイス。
自然と全員の視線が楓へ向いた。
古代魔導書――《宵闇の書》。
「古代デバイスは、そのシステムの大部分が未解析
――ブラックボックスに包まれているわ」
「でも、総じて強力な兵器である場合がほとんどよ」
そして。
ミスティは少しだけ真面目な顔になる。
「失われた技術の一つに
――管理者権限があるわ」
「管理者……権限?」
アリスが首を傾げた。
「えぇ」
ミスティは頷く。
「デバイスの"制御コア"そのものへ介入できる権限」
「文字通り、最強クラスのデバイスにしか存在しないロストテクノロジーよ」
「……ロストテクノロジー」
ぽつり。
楓が呟いた。
「「!?」」
アリスとエリザが驚く。
その顔には、
(今の理解できたの!?)
と書いてあった。
残念な少女たちである。
ミスティのため息が聞こえた。
授業は続く。
――――
――
その頃。
遥か彼方。
――惑星タタロス。
西部大森林樹海。
地下空洞。
無数の卵が脈動していた。
ドクン。
ドクン。
まるで巨大な生命の胎動。
その中心で。
《神剣》アルトリウスは剣へ手を添えたまま立っている。
対する男は穏やかに微笑んでいた。
時空管理局代表。
ヴィンセント・クロムウェル提督。
「自己紹介くらいはしておこうか」
洞窟内の魔力が揺れた。
「我々は《強欲の夜帳》」
「――世界を次の段階へ進める者たちだ」
アルトリウスは眉をひそめる。
王から聞いていた情報。
《強欲の夜帳》。
それは"欲"に呑まれた者たちの集団。
そして。唯一確かなこと。
――ワルプルギスを信仰する者たち。
(狂人の戯言と判断したいが。)
しかし、
目の前の男は本気だった。
「ところで」
ヴィンセントが続ける。
「君はこんな所にいていいのかね?」
「何?」
「君のお仲間のことだよ」
穏やかな笑み。
「――大変だよ」
アルトリウスの瞳が細くなる。
――魔力感知を広げた。
瞬間。
表情が変わる。
(――グレン)
異常な出力。
膨れ上がる魔力。
さらに。
もう一つ。
カイの魔力――。
二つが激突している。
――戦っている。
その事実を理解した。
「……始まったか」
ヴィンセントが笑う。
「――裏切りの連鎖。
グレンは我々の同志、使徒のひとりだよ。」
(――最悪だ。)
アルトリウスの拳が握られる。
団長としてなら。
ここを優先すべきだ。
孵化場。
強欲の夜帳。
全てを排除するべきだ。
だが――。
胸の奥から別の声が聞こえる。
カイ。
若き守護騎士。
未来ある後輩。
――仲間だ。
見捨てられるか。
(――そんなはずがない。)
「……」
アルトリウスは振り返る。
――提督は止めない。
ただ静かに笑っていた。
「行くのかね?」
「当然だ」
「後悔するかもしれないよ?」
アルトリウスは答えない。
未来など分からない。
だが。
今だけは分かる。
仲間を助ける。
それだけだ。
「もし」
アルトリウスが言う。
「この判断が間違いだったとしても」
神剣へ手を添える。
「――それは俺が背負う」
次の瞬間。
大地を蹴った。
――轟音。
洞窟が揺れる。
森を裂き。
樹海を貫く。
圧倒的な速度。
その最中。
感知した。
グレンの魔力が跳ね上がる。
嫌な予感。
守護騎士としての直感。
そして――。
決定的な魔力。
「――領域魔法」
血の気が引く。
――最悪だ。
最悪の展開。
「カイ……!」
速度を上げる。
――だが遠い。
間に合わない。
普通なら。
絶対に。
――だが。
王国最強は普通ではない。
アルトリウスは神剣を抜く。
管理者権限型デバイス。
《ディバイン・カリバーン》。
古代魔導文明が遺した。
最強のロストテクノロジー。
「――権能解放」
世界が軋む。
空間が震える。
神剣が淡く輝いた。
それは術式ではない。
世界そのものへ命令する。
絶対権限。
『――Target Device Connection, Locked.』
空間に無数の魔法が展開される。
『――Execute: Master Command.』
世界が震える。
『――All Functions, Force Termination.』
キィィィィィィィィィン――――!!
電子音にも似た悲鳴。
システムそのものが軋む音。
それは。
最上位の古代魔導デバイスだけに許された権能。
――管理者権限。
そして。
――遠方。
《焔帝の骸檻――フルバースト・コロシアム》。
灼熱の領域。
その中心で。
《烈火》グレンの大型籠手型デバイス。
《ブレイズ・アトラス》が警告を発した。
『――Warning.』
『Master Command Detected.』
グレンの目が見開かれる。
「なっ――」
『――Forced Shutdown.』
次の瞬間。
――爆炎が消えた。
領域が砕ける。
術式が崩壊した。
灼熱の世界そのものが音を立てて崩れ落ちた。
逃げ場のなかった炎獄。
閉ざされていた空間。
それら全てが霧散し、
世界が元へ戻る。
カイの視界から炎が消えた。
死を覚悟した一撃、その直前だった。
「……は?」
理解が追いつかない。
――何が起きた。
なぜ、領域が消えた。
なぜ、グレンの攻撃が止まった。
だが――。
次の瞬間には理解する。
一つの魔力が迫っていた。
圧倒的な速度で。
圧倒的な存在感で。
この場にいる誰もが知る魔力。
王国最強。
十二守護騎士第一位。
《神剣》アルトリウスが、――来た。
作者( ゜Д゜):わたしが来た!
オコジョ:現地人チートキャラぁぁ!!




