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第91話_領域魔法ノクターン・カーム

――北部山岳地帯。


吹き抜ける風が岩肌を撫でる。


荒れた谷間。


魔獣すら寄り付かないような空白地帯を、

《超狙撃》ガイと《重力の魔女》イザベラは進んでいた。


だが――。

ガイの意識は今ではなく、昨夜へ向いていた。


『二人で話がしたい』


王国作戦本部。


誰もいなくなった部屋で、

アルトリウスはそう切り出した。


普段の彼には珍しい、

どこか張り詰めた表情。


そこで語られたのは王との極秘会談の内容だった。


管理局上層部への疑念。


そして――

強欲の夜帳(ハプギーア・ナハト)の暗躍。


「王は断言していなかったが……」


アルトリウスは静かに言った。


「裏切り者は、王国側にもいる可能性がある」


その言葉には覚悟があった。


仲間を疑う覚悟。


信じたい気持ちを押し殺す覚悟。


アルトリウスは拳を握り締めながら続ける。


「ガイ。君から見て、

 十二守護騎士に怪しい動きはなかったかい?」


問いかける声は苦しかった。


本当は聞きたくなかったのだろう。


誰よりも仲間を信じている男だからこそ。


ガイは目を閉じた。


エリュシオン魔導王国戦艦 《アルカディア》。

ブリーフィングルーム。


ここ最近の任務。


何気ない会話。


何気ない仕草。


一人ずつ思い返していく。


――沈黙。

数分にも及ぶ静寂。


やがてガイは重い口を開いた。


「十二守護騎士ってのは、

 一人一人が一線級の戦力だ」


「互いに組んで任務することも少ない」


「だから全員を完全に把握できるわけじゃない」


そして。

言葉が止まる。


ほんの僅かな違和感。


確証など、どこにもない。


だが――。

何かが引っ掛かっていた。


するとアルトリウスは静かに首を振った。


「言わなくていい」


「ガイ。君が即断できないレベルなんだね」


「なら、その時が来たら君が判断してくれ」


会話はそこで終わった。


――そして今。

ガイは足を止める。


谷間の中央。


風が吹く。


だが――。

彼の表情は変わらない。


「……いるんだろ」

低く呟く。


――返事はない。


しかし――。

後方の岩陰が揺れた。


現れたのは一人の少女。


《静寂》フィオナ。


だが問題は、その立ち位置だった。

挿絵(By みてみん)


後方にいる二人。


《重力の魔女》イザベラ。


《静寂》フィオナ。


イザベラが柔らかく微笑んだ。


「怪しい行動はぁ、

 してないつもりだったけどぉ」


「ああ」

ガイは短く答える。


「特に目立つものはなかった」


本当に。

ほとんど完璧だった。


だが。

たった一つだけ。


「ブリーフィングルームでのことだ」


イザベラの笑みが僅かに深くなる。


「セレナが部屋を凍らせた時」


「フィオナ。お前は。

 作戦資料に目を通していたな。」


情報に嘘があった。


――沈黙。

フィオナは何も答えない。


十二守護騎士の公開情報。


そこにはこう書かれていた。


『盲目』

視界を失い、黒い目隠しを着けている。


だが――。

「お前……、本当は。

 見えているな。」


そして……。


状況を逆算すれば……。


誰が裏切り者が見えてくる……。


「今日の任務――。

 遠く、直ぐに戻ってこれない

 距離に置いたセレナ達。」


「ここで、フィオナの気配を感じた時。

 ――本当に一人で足止めする気かと……。」


考えれば、答えは出てくる。


裏切り者は一人ではない。


「ふふっ。」

イザベラが笑う。


風が止まった。


フィオナは静かに

目隠しへ手を伸ばす。


そして。

するりと外した。


露わになる瞳。


”白銀”。


それはガイの知るどの瞳とも違った。


神秘的で。


不気味で。


そして危険だ。


「なんだ……。

 その瞳は」


イザベラが代わりに答える。


「彼女は特別なのよぉ」


「"夜"に願い――」


「授かった"魔眼"」


ガイの眉が僅かに動く。


(魔眼だと……?)


嫌な予感がした。

本能が警鐘を鳴らしている。


イザベラが優雅に一礼する。


「改めて自己紹介しましょう」


その声色は今までと変わらない。


だが。

決定的に違う。


「――《強欲の夜帳》」


「――使徒の一人」


鎌を肩に担ぎながら名乗る。


「《魔女》イザベラ」

挿絵(By みてみん)


続いてフィオナのデバイスが光る。


空中モニターに文字が浮かんだ。


『同じく。《魔女》フィオナ』


ガイは無言のまま長銃

《ディスタンス・ジャッジメント》を構える。


狙撃手としての本能が告げていた。


――危険だ。


今すぐ撃て。


しかし。

魔力を練ろうとした瞬間。


違和感が走った。


「チッ……」


重い。


魔力の流れが鈍い。


フィオナの白銀の瞳が静かに輝いていた。


『――沈黙の魔眼』


空間そのものが沈黙している。


魔力の流れ。


術式の構築。


全てが阻害される。


ガイは即座に理解した。


(厄介どころじゃないな)


すぐに距離と取る。


視線を巡らせる。


《魔女》イザベラ

魔力ランクSS+。総合評価SS+。


《魔女》フィオナ

魔力ランクS+。総合評価SS。


二人とも総合SS以上。

最悪の組み合わせだった。


そして――。

フィオナから膨大な魔力が噴き上がる。


「――!」

ガイの目が細くなる。


このタイミング。


――完璧だった。


敵ながら見事と言うしかない。


――世界が変わる。


『――領域魔法』


空が暗転する。


色が失われる。


風が止まる。


音が消える。


生命の気配すら遠ざかっていく。


ガイは即座に悟った。


領域魔法。


SS級以上のみが到達する絶技。


世界そのものを書き換える魔法。


フィオナの声なき詠唱が完成する。


『――月夜の沈魂凪

 《ノクターン・カーム》』


その瞬間。

空に巨大な黒い月が浮かんだ。


どす黒い"夜"の気配が世界を覆う。


境界線の向こう側へ

追放されたかのような感覚。


――静寂。


――絶対の静寂。


音が存在しない。


風もない。


静寂の棺。


永劫の夜。


黒い月の下。


《超狙撃》ガイは長銃を握り締める。

挿絵(By みてみん)


そして静かに笑った。

「なるほどな……」


二人の魔女を見据える。


「面白ぇ」


静寂の世界


それは――。

一人の魔術師を殺すためだけに作られた世界。


王国最強の狙撃手と。


二人の魔女による死闘が幕を開ける。


作者( ゜Д゜):フィオナの行動は、「第61話_合同作戦」の話ですね。

オコジョ:いやいや、敵側の戦力がやべぇよ、どうなるの。

作者( ゜Д゜):魔法少女作品のお決まりは……。

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