第90話_SランクとSSランクの差
――西部森林樹海。
王国十二守護騎士。
第六位と第十位。
《烈火》グレン。
魔力ランクSS。総合評価SS。
《迅速》カイ。
魔力ランクS+。総合評価S+。
本来ならば共に王国を守る仲間同士。
しかし今は違う。
互いに武器を向け合い、
命を奪い合う敵だった。
森の中で激しい戦闘が続く。
「――ハァッ!」
閃光。
《迅速》カイの姿が消える。
高速移動。
連撃。
双短剣型デバイス
《ライトニング・ストライカー》。
無数の斬撃がグレンへ襲い掛かった。
ガガガガガガガッ!!
火花が散る。
魔力障壁が軋む。
だが。
まだ破れない。
「チッ」
カイは舌打ちした。
それでも優勢なのは自分だった。
グレンは攻撃できていない。
ただ守るだけ。
それだけだ。
「どうしたんですか先輩」
高速移動しながら挑発する。
「反撃しないんですか?」
返事はない。
ただ――。
グレンは笑っていた。
ニヤリ。
不気味なほど静かに。
その笑みに。
カイは少しだけ違和感を覚えた。
次の瞬間。
ドクン――。
森が震えた。
「……っ?」
グレンの身体から。
膨大な魔力が噴き上がる。
大気が揺れる。
木々が悲鳴を上げる。
地面が軋む。
まるで巨大な火山が噴火する前兆だった。
「ガハハ」
低い笑い声。
「若いな」
炎のような魔力を纏いながら、
グレンはゆっくりと顔を上げる。
「無理もない」
「十二守護騎士の中でも新人だったな」
「何を言っても状況は変わらないですよ」
カイは即座に切り返す。
油断はない。
相手は格上。
だからこそ全力だった。
――陸速。
――漆速。
《――エイト・スロットル》
限界目前。
神経を焼きながら加速する。
視界が伸びる。
体感時間が遅くなる。
だが。
グレンは動かない。
ただ立っている。
ただ魔力を放出している。
それだけ。
なのに。
嫌な予感だけが大きくなっていく。
「関係ないですね」
カイは言った。
自分に言い聞かせるように。
「僕は天才だ」
学生時代から。
ずっとそうだった。
魔力量で負けても。
戦闘経験で負けても。
――才能で勝った。
速さ。
手数。
反応速度。
感覚。
全てを圧倒してきた。
王国十二守護騎士になった今も。
――それは変わらない。
だから。
ワンランク程度の差なら。
――覆せる。
そう信じていた。
グレンが笑う。
「フッ」
「確かに相性はある」
「戦闘には有利不利もある」
「だがな」
ゆっくり。
ゆっくりと。
グレンが拳を握る。
「カイ」
「総合評価SとSSの違いが分かるか?」
嫌な予感。
本能が警鐘を鳴らす。
「何が言いたいんですか」
グレンが笑う。
「まだ知らされていないか」
ドクン。
空気が震える。
違う。
これは魔力だけじゃない。
もっと根本的な何かだ。
カイは全力で加速する。
――捌速。
限界速度。
《エイト・スロットル》
最大出力。
障壁へ突撃。
斬撃。
斬撃。
斬撃。
グレンの防御障壁に亀裂が走る。
――砕ける。
だが。
その瞬間だった。
時間が止まったように感じた。
いや。
違う。
世界が変わった。
グレンの声が響く。
「他のランク差には無い
――絶対的な差だ」
ニヤリ。
笑う。
そして――。
それは発動した。
『――領域魔法』
世界が反転する。
空が消えた。
森が消えた。
木々が消えた。
視界全てが炎に塗り潰される。
轟音。
熱風。
爆炎。
燃え盛る灼熱の世界。
領域魔法――。
《焔帝の骸檻
(フルバースト・コロシアム)》
巨大な炎の壁が四方を囲む。
逃げ場はない。
空もない。
森もない。
そこは。
グレンの支配する世界だった。
「なっ――」
初めて。
カイの顔から余裕が消えた。
領域魔法。
その域に到達した者だけが扱える秘奥。
王国でも極秘。
限られた者しか知らない。
世界そのものを支配する魔法。
総合評価SSとは、至った者の証。
「これが」
グレンが一歩踏み出す。
「SSだ」
爆炎が渦を巻く。
熱量だけで皮膚が焼ける。
呼吸が苦しい。
回避する空間がない。
機動力を封じるためだけに作られたような地獄。
そして。
グレンの右腕へ魔力が集束する。
大型籠手型デバイス。
《ブレイズ・アトラス》。
真紅の炎が咆哮する。
「――ゼロレンジファイト」
ドゴォッ!!
爆発的に噴き上がった炎が、
グレンの巨体を前方へ撃ち出す。
一瞬で距離が消える。
近い。
速い。
避けられない。
拳が迫る。
その瞬間。
カイの思考だけが異常な速度で回転した。
走馬灯。
幼少期。
訓練時代。
守護騎士任命式。
仲間たち。
様々な記憶が流れる。
(ああ)
理解した。
(これ……)
拳を見つめる。
(喰らったら死ぬな)
確信だった。
体が吹き飛ぶとか。
骨が砕けるとか。
そんなレベルではない。
絶対の一撃。
王国十二守護騎士第六位。
《烈火》グレン。
その本気。
そして。
カイは生まれて初めて。
死を覚悟した。
作者( ゜Д゜):ついに領域魔法が正式に解禁!
オコジョ:総合SS以上は皆使えるのか…驚きだぜ。




